初のダンジョンボス戦です。
この先が最奥。
尤も、単に開けたスペースというだけですが。
部屋のようでもあるこの最奥スペースに入るとどうやらボスモンスターが出てくるとのこと。……
「ボスですか...」
「そう、既に色んなプレイヤーが攻略しているから、情報はバッチリ!」
「ん、ボスは『ストーンゴーレム』」
「ゴーレムですか...」
確か、埴輪をモデルとした魔神が出てくる昔の特撮映画のモチーフがゴーレムだったとか...
「ですが、何もいないようですが」
手前の通路から中を覗いていますが、埴輪はいませんね...
「最奥のエリアに入ると出現するのよ」
「なるほど」
「でも...私達だけだと不安」
「そうなんですか?」
上位プレイヤーであるマーキュリーさんが不安になるとは。
すると、たまこちゃんさんとマーキュリーさんが話してくれた内容は以下の通りでした。
①ストーンゴーレムという名の通り、その身体は岩石で出来ているとのこと。そのため防御力は高く、斬撃や刺突などの僕達が持つ攻撃手段は効き難く、状態異常も基本受け付けない。
②動きは鈍重だけど一撃の重さがあるので、下手な防御はアウト。
③以上の理由から防御と回復を万全にし、かつ地道にダメージを与えて削り倒す又は効果のある魔法などの属性攻撃か打撃系の攻撃で攻め込むのが基本的な攻略法とサイトで挙げられている。
「となると、僕達で出来る有効手段は...」
「アタシのハンマー...」
・・・・・・
静かになってしまいましたね。
たまこちゃんさんの武器のハンマーは鍛治士の職業を持つたまこちゃんさんだから装備出来る仕様なので僕が借りるのも無理ですね。
どうしましょうか?
元々、たまこちゃんさんの鉱石採取に同行するためでしたからダンジョン攻略は目的ではなくあくまでおまけ。
ならばこのまま引き上げても問題はないですよね。
ふむ・・・あ!
「ボス戦の途中で離脱は可能ですか?」
「ううん、それは無理」
「でしたら僕だけ進みますからお二人は引き上げてください」
「え、何で」
「ちょっと試したいことがあるので」
「勝てるの?」
真っ直ぐに見てくるたまこちゃんさん。
「確信はないのですが...」
「でも、勝機はある?」
マーキュリーさん...
「ええ、勝てる可能性は高いです」
結果、三人で挑戦となりました。
最奥のエリアはドーム状となっていました。見渡す限りこれまで通った洞窟の通路と変わらない岩だらけ。
採掘できますかね?
エリアに入り中心手前くらいまで進むと、ゴゴゴと地響きがしてきました。
そして壁や足下からあちこちの岩が浮かび上がって、僕達の前方で集まり出しました。
あ、三又の岩。何個か集まってますね。
あ、最後にくっついた岩なんかH型ですね。
なんて変な形の岩に注目してたらいつの間にか岩が集まるのが終わっていますね。
よく見ると、人型っぽい。
顔と思える位置の、更に目元っぽい所は窪んでますね。なんか容疑者写真の黒線みたい。
そこに二つの光がピカッとしています。
あれ、目なのかな?
ってことはやっぱり顔。
でも....
「埴輪っぽくない」
「何を想像してたの?」
何故か呆れたご様子のたまこちゃんさん。
あれ、分かりませんか?
これが、ジェネレーションギャップ....
はい、気を取り直して!
「僕が惹きつけます。マーキュリーさんは隙を見つけて一撃ずつでお願いします。たまこちゃんさんはアイテムによる支援をメインで」
「オッケー!」
「分かった...」
さて、初めてのダンジョン、初めてのダンジョンのボス戦です(単純にボス戦は影法師のをカウントすると二回目ですね)。
ショートソードを片手に僕が『挑発』を使うと埴輪、いえ見た目が相応しくないのでゴーレムは僕の方へ目(?)を向けます。
そしてズシンズシンとゆっくりとした足取りで僕に来ます。
遅い。本当にゆっく..おっと。
腕を振るってきて危うく当たりそうになりました。
いけないいけない。よく見るとかなり大きいですからリーチもあるのですね。
折角ですので、この振るった腕を切ってみます。
“ガンっ!"
硬い。思いっきりやったら腕が痺れますね。
おっと、距離を取って注意を惹きつけねば。
その隙に“ギャリッ!"
マーキュリーさんの鉤爪がヒットします。
僕の剣よりはダメージが入ってそうですが、やはり硬い音。
動きも特に変わっていないので大して効いてはいない様子。
たまこちゃんさんが後ろに回り込んでいます。
僕は武器を持ち替え、スローイングダガーを投げつけます。
“キンっ!"
あっさり弾かれるダガー。
うん。これはノーダメージでしょうね。
でもゴーレムは変わらず僕に注目。
そして後方から近づいたたまこちゃんさん。
「やあああっ!」
ハンマーをスイング。
“ゴガッ!"
おお、これは結構効いてる?
ゴーレムの身体を構築していた岩が少し欠けて飛び散ります。
「くぅ〜〜」
あ、反動が大きかったのですね。
軽く涙目。
って、ゴーレムがたまこちゃんさんの方に振り返りました。反応が妙に早いですね。
「危ない!」
殴りかかってくるゴーレムから咄嗟に飛び付いてたまこちゃんさんを拳から外れさせるマーキュリーさん。
よかった。
ん、おや?
「ありがとう、マーキュリーちゃ、ん?」
あ、たまこちゃんさんも気づきました。
だってマーキュリーさん、今猫の耳に加えて尻尾も生やしてますからね。
あれ、耳だけじゃなくて尻尾も生えるんだ。
マーキュリーさんの動き、今までよりも随分早かったですね。あの尻尾は関係あるのかな?
あ、奇妙な岩。
ゴーレムの背中に集まってたんですね。
男は背中で語るといいますが、ヘンテコな岩ばかり背中に集めて、何を語りたいのでしょうあのゴーレムは? ん、でもゴーレムは岩だから性別はないですよね?
あれ、語る?
よく見たらあの並び....
ああ、そういうこと。だからたまこちゃんさんに対して反応が早かったのですね。
背中を狙われたくないから。
今、ゴーレムは僕を無視してたまこちゃんさんとマーキュリーさんを狙っています。
二人の方が僕よりも攻撃力が高いとその身で学習したのでしょう。
どうしましょう?
叫んでマーキュリーさんにお願い...いや、学習するのなら声を聞くことも出来るかもですね。
ならば...
「マーキュリーさん、たまこちゃんさん! そいつを惹きつけてください」
「え?」
「ふぇ!」
驚くお二人。
ですよね。一応盾を持つ僕がタンク役をやるべきなのをいきなり押し付けたのですから。
でもまあ、頑張ってもらいましょう。
武器をロングタルワールに変更。
そして使うアーツスキルはあれ一択。
今の僕が出来る一番攻撃力のある技。
チャンスは一度きり。そう考えましょう。
何度出来ると言うのはゲームだからと言って気を緩める要因にしてはいけません。
確実に狙いましょう。
「お願いします!」
ーーーーーーーーーーーーーーー
いきなりのタンク役を任された私とたまこちゃん。
私、正面に立つのは...
「お願いします!」
「っ!」
こんな風に誰かに頼られたのっていつ以来だろう?
人前に出るのが恥ずかしくて人を避けていた私にはすごく懐かしく思う。
そんな情けない私をウォーカーは頼ってくれた。
だから、
「“黒猫の水曜日"!」
私は応えたい!
私には今、耳と尻尾が生えている。
これは私が手に入れたユニークシリーズ装備『シャノワール』の固有スキル。
それは重ねがけすることで追加効果を発揮するスキル。
第一段階。
耳が生えると共に視力強化、聴力強化、周囲の体感速度が減速する。『索敵』のスキルを持つ私はそれが強化されるから専らお世話になっている。
第二段階。
尻尾が生えると共にスピード強化。第一段階の体感速度の減速と合わさってかなり強力になってくる。
そして今、最終段階の3回目の発動。私の手足は猫のそれに近づき、鋭い爪が生えると共に攻撃力が上昇する。装備していた鉤爪は消えているけど、装備が解除された訳ではないからその分の攻撃力が失うことはない。
このスキルは自分を強化してくれるけど、代償もある。
それは防御力の半減。
具体的には一回使う毎に半減。
三回使った私の防御力は今、通常時の1割程度しかない。
そもそも、三段階目まで発動すること自体ほとんどなかった。
だって攻撃力を上げてしまえば、モンスターの敵愾心を集めてしまい注目されるのだから。
けど、使い所は今!
足にも爪が出た分、踏ん張りが強くなり、私は思いっきり駆け出した。
ゴーレムは私を視認している。けど、反応が遅い。
ゴーレムが動くよりも先に私の爪がゴーレムを捉える。
鉤爪の時よりも手応えがある。
けど、やっぱりダメージはそこまで大きくない。
それでも、たまこちゃんの方へ向いていた注意は私に逸れる。
ゴーレムは私に殴りかかるけど、今の私には当たらない。
私は身を低く屈めて躱してみせる。
ゴーレムの拳は空振る。そこを私は走り再度切り掛かる。
ゴーレムは私を見る。
そこをたまこちゃんがハンマーの一撃を入れる。
今度はたまこちゃんの方を見る。
けど私が爪で切ってまた私に視線を向ける。
この状態を保つことで何とか注意を引き続ける。
けど、いつまでもこの均衡を保てる訳ではない。
一撃でももらったらアウトだし、何度もやってたら集中が切れて隙を生みかねない。
でも、そんな懸念は少ししたら払拭された。
彼が決めてくれたから。
ーーーーーーーーーーーーーーー
マーキュリーさんの手足が猫みたいになったら攻撃力が増した模様。
すごいですね。
戦い方が爪で切るとは...正に黒猫ですね。
おっと、いけません。
狙うは一点。
そしてチャンスは一瞬。
失敗すれば僕はすぐに返り討ちにあってHP0ですね。
チャンスは.........今!
僕は走ります。
長剣を両手で握り構えます。
勢いを殺さぬようにジャ〜ンプッ!
そして長剣を振りかぶっての...
「“断截"!」
振り下ろします。
この前手に入れたばかりの剣術のアーツスキル『断截』はガードブレイク効果を伴ったもので、ゴーレムのような斬撃への耐性を持つモンスターにも有効打となるので重宝されるとのことです。
おかげで目的の部位への攻撃へ成功し、その部分にあった奇妙な岩は砕けます。
同時に停止するゴーレム。
一応、目の部分を確認しますが光ってないですね。
これ、一度停止したと思わせて再稼働するドッキリじゃないですよね?
映画とかだとよくありますけど。
確認のため、つんつん。
動きませんね。
もう一回、つんつん。
「ウォーカー、何してるの?」
「いえ、倒せたか確認を」
「大丈夫だと、思う」
たまこちゃんさんもマーキュリーさんも大丈夫だと思いますか。
じゃあ、そういうことで。
「でもさウォーカー、どうやって一撃で倒せたの?」
「うん、攻撃は普通のアーツスキルだよね?」
「ああ、それは..」
僕は壊した場所を指差します。
「ここを砕いたからですよ」
「「???」」
あれ、分からない?
ゴーレムのことを知っているなら伝承のゴーレムのことも知ってるかと思ったのですが。
「えっとですね、ゴーレムには心臓とも言えるお札のようなものがあると言われています。それを『emeth』、ヘブライ語で『真理』を意味する言葉で書かれており、この内頭文字のeを消すと『meth』となり意味は『死』となり、ゴーレムは停止すると言われています」
「でも、そんなお札はなかったよね?」
「ええ、ですからこのゴーレムは身体を構築する岩の中にその文字があったのです」
身体を構築する時に妙な形の岩が混ざっていたから印象に残りましたね。
まさか、それが背中側に集まっていて、よく見たらアルファベットな上に単語として並んでいたのは偶然気づけたことですが。
「じゃあ、ウォーカーがボス戦前に気づいた攻略法はこれ?」
「はい。倒し難いボスモンスターというよりは何かしらの攻略法はあるのではと思い、ゴーレムの伝説を再現してるのではと思いました」
ですが本来、ヘブライ語をアルファベットに置き換える際は小文字のみのはずなのに、このゴーレムの場合は大文字で『EMETH』となっているなんて。
しかも岩の形以外見分けがつかないし、背中への攻撃に対してゴーレムは過敏に反応する仕様。
見逃されることが多かったのですかね?
文字については製作のミスなのか、分かっていての意表を突いたものなのか...
どっちなのでしょう?
まあとにかく、攻略したのでよしとしましょう。
◆◆◆◆◆◆◆
ダンジョンボス『ストーンゴーレム』を倒しました。
称号『ダンジョン探索者・入門』を獲得しました。
レベルが上がりました。
スキル『挑発Ⅱ』は『挑発Ⅲ』に上がりました。
スキル『暗殺術Ⅳ』は『暗殺術Ⅴ』に上がりました。
スキル『長剣術』を獲得しました。
◆◆◆◆◆◆◆
おお、新しいスキルにスキルのレベルアップも。
それに称号も。
どれどれ...
■■■■■■■■■■
『ダンジョン探索者・入門』
[概要]
初のダンジョンに挑み攻略した者に与えられる称号。この称号を持つ者はダンジョン探索を要するクエストを受けられるようになる。ダンジョン探索を重ねる程にその威光は高まる。
■■■■■■■■■■
へぇ、ダンジョン探索を要するクエストを受けるのに必要となる称号ですか。
クエスト系はまだ受けていませんから調べてみますかね。
名前に『入門』とあるということや説明文からするとスキルみたいにレベルアップするのでしょうかね?
「では、帰るとしましょ“ゴゴゴゴッ!"
なんて安堵していたのも束の間。
突然の地響きに僕はゴーレムが再稼働したのかと思いました。
けど、ゴーレムの姿は消えていて、地響きはしてと出てくる気配はありません。
でも、最奥とされているこのエリアで、
更に先を示す隠し通路が出てきたのには驚かされました。
『補足』
リーダー「おい、このストーンゴーレムの担当は..」
オタク女史「あ、自分っす!」
リーダー「お前、これ...」
食いしん坊「もぐもぐ、ヘブライ語を大文字にするのは間違いですね〜」
オタク女史「ええ!」
コンパ「ツメ甘いよぉ。どうする、直す?」
ネゴ「いや、誰もゴーレムの弱点探ろうとしないし、放置でよくね?」
食いしん坊「小文字じゃないから気づいてないんじゃないですか?」
リーダー「言うな!」
運営のミスでした!




