バトルイベント〜vsジャンヌさん③ 決着です。〜
何が起きたのか一瞬分からなかった。
彼の短剣の突きに対し私も剣で突きを放とうとした。
リーチがあるこちらが格段に有利なはずだった。
しかし、彼の手にあった短剣がいつの間にか槍に変わっていた。
そして剣よりもリーチのある槍の穂先が私の肩を掠めた。
私は思わず後退しようとした。
けど、剣を持っていなかった左手を掴まれて逃げられない。
「逃しませんよ」
不敵な笑みと共に彼は言う。
〜〜〜〜〜っ!!!!!
その顔で、その台詞は....っ!
顔が熱くなる、思考が乱れる。
そんな風に隙が生んだ私がいけなかった。
直後に腹部にウォーカーの拳が叩き込まれた。
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意表を突かれてペースが乱されたジャンヌさん。
随分慌てていますがチャンスです。
“ウェポン・チェンジ"
不意を突いた『猪牙の槍』から『ボアレザー・ナックル』に交換してからの、“クイック・ブロウ"
これも胴体にまともに入りました。
ジャンヌさんが勢いで後退してしまったので掴んでいた手が離れます。
・・・・・・
女性を殴ってしまうのは少し申し訳ないですが、ここは心を鬼にしないとですね。
再度迫り拳を放とうとするとジャンヌさんは咄嗟に鎧に包まれた腕を盾にしてきます。
でも残念。
“ウェポン・チェンジ"
『鋼鉄のソードブレイカー』に換装してからの“ペイン・スティング"ッ!
「っぅ!」
短剣は鎧の装甲に多少抵抗されながらも腕に刺さり、ジャンヌさんの動きが止まります。
“ウェポン・チェンジ"
短剣から『鋼鉄のショートソード』に換装してからの、
「“斬撃"っ!」
です!
袈裟懸けにジャンヌさんを切り、更にダメージを追加します。
ふふ、ジャンヌさん、混乱してくれているご様子。
作戦がこうも上手くいくとは嬉しいですね。
尤も、然程ダメージを受けてもいなさそうな感じですけど。
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まずい。
このウォーカーというプレイヤーは異質だ。
いや、『遊び人』という職業を活かしていると言うべきか。
次から次へと変わっていく武器。それと同時に放たれるアーツスキル。
武器の換装は間違いなく『ウェポン・チェンジ』だ。
一般的には使用している武器の破損時に予備武器をすぐに出すためか、又は敵の弱点を突くために武器の系統を変えるために用いるスキルだ。
彼の使い方は間違いなく後者だ。
けど、後者はあくまで属性付きの武器か似たジャンルの武器に変える程度なのが一般的で、彼のように全く異なるタイプの武器にこうも素早く変えていくものではない。
彼はいったい、幾つの武器とスキルを持っているのだ?
把握したいが変わり続ける武器による攻撃の連続にこちらのペースが乱される。
先程の予選、彼の戦い方はフェイクだった。
短剣術、投擲術、暗殺術を軸とした撹乱戦術。
そう思っていた。
けど、今は違う。
先の三つに加えて格闘術、槍術、剣術もあり、それを次々に変えている。
今分かる限りで6通り。スキルで換装しながらの近接連携戦術。これが彼の本当の戦闘スタイル。
「よいしょ!」
剣を振るうと思って身構えるといつの間にか短剣に変わっている。
空振りして隙が出来たと思わされたが次の瞬間また剣に戻って勢いそのままに振るってくる。
慌てて私も剣で防ぐ。
だがお互いの剣がぶつかり合ったと思ったら瞬く間に剣は消え、ナックルを装着した彼の拳打が迫る。
それをギリギリで躱せば今度は裏手持ちの短剣になり私とスレスレだった手で短剣を突き刺してくる。
「くうっ!?」
短剣が刺さるのを腕でカバーする。あのままでは顔を刺されていた。
「うううっ!」
私は剣を振るう。
ウォーカーが盾を構えるが、無駄だ。
光と化した私の剣は彼の盾をすり抜けて一撃を喰らわせる。
『星影斬』は威力と引き換えに防御行為をすり抜ける技だ。
その分リキャストタイムは短くチャージタイムは長い。これで使い切ってしまったし、残り時間的にあと一度使えるかどうか。
だが、私の方がHPは上のはず。ならば威力は低くても攻撃を喰らわし、削り切ってやる。
たまらず後退するウォーカーは短剣から槍に持ち替えて突きを放つ。
一撃、二撃、三撃と剣で捌く。
時折アーツスキルの『俊突』が混ざるもこれも防ぐ。
上体をこうも防がれればウォーカーが次に狙うのはおそらく足下。
だが、それを躱してカウンターを決める。
そして案の定、ウォーカーは下段を狙うように突きを放ってきた。
読んでいた。だからギリギリの所を避け...
思ったよりも手前に槍が刺さる。
ミス?
いや違う!
突き刺した槍をしならせ、ウォーカーが跳び上がる。
って、棒高跳びか!
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下段を突こうとしたら低く狙い過ぎて、槍がジャンヌさんの手前の地面に刺さってしまいました。
いけない、ミスしてしまいました。
ならば...よいしょ!
棒高跳びです。
「アチョーッ!」
その勢いを乗せてからの、キーック! 思わず叫んでしまいました。気分はカンフー映画のアクションスターです(実際はかなり不恰好でしょうが)。
蹴りはジャンヌさんが腕でガードしますが、勢いは抑え切れなかった様子。
腕が弾かれ、押し退けられます。
「あたっ!」
そして僕も弾かれます。
おかげで尻餅ついてしまいました。
「くっ、ふざけているのか!」
おっと、ご気分を害してしまいましたね。
でも、
「違います。遊んでいるんですよ!」
スローイングダガーに換装アンド投擲。すぐに立ち上がります。
弾かれます。残念。
「遊ぶ?」
「ええ、こんなに楽しいこと、全力で遊ばないと勿体ないじゃないですか!」
剣を出して切り掛かります。
容易く受け止められます。
けどこれでそちらの剣は動かせないですよね。
「二本!」
気づかれましたが構いません。
空いた手に持つ短剣で突き刺すのみ。
が、ジャンヌさん、両手で持っていた剣を片手で持ち、空いて手で僕の腕を掴み短剣を抑えます。
身長は僕の方があり、本来なら僕の方が筋力はあるはずですがここはゲームの中。
故に彼女の方が僕よりもPOWが上なのでしょう。
片方は僕とジャンヌさんの剣がせめぎあい、もう片方の手は僕の短剣を持つ手をジャンヌさんが抑えています。
しかし、POWが上のジャンヌさん相手に膠着状態はまずいですね。
ですから、“ウェポン・チェンジ"
短剣から煙玉。そして指先でポイッ! もちろん息は止めておいて。
「しまっ!」
煙幕です。
手が緩みます。振り解き、もう一度“ウェポン・チェンジ"
空き手に短剣を持たせての“スラッシュ"!
「くっ!」
これは入りました。
急いで煙幕から離れます。
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『違います。遊んでいるんですよ!』
悪ふざけのような飛び蹴りに私は思わずふざけているのかと問うがウォーカーは奇天烈な回答をしてきた。
ふざけているのとどう違うのかと思ったがその後の言葉で納得出来た。
『ええ、こんなに楽しいこと、全力で遊ばないと勿体ないじゃないですか!』
無邪気に笑いながら言う彼の言葉に嘘は感じられず、本気なのだと理解した。
ああ、だから彼はあの手この手で戦っているんだ。
この瞬間をひたすら楽しみたいから。
その瞬間を少しでも長くしたいから。
けど、だからと言って私は負けるつもりはないぞ、ウォーカー!
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僕が投げた煙玉はベリースモッグ Ver.2ですが、効いてくれますかね?
一応、こちらからの攻撃で呼吸はしたはずですが。
あ、麻痺のアイコンが示されています。
よし!
畳み掛けましょう!
「うわっ!」
って、もう回復してます! 危うくカウンターを喰らう所でした。
耐性のスキルを持っていたのですか? いや、よく見ると首元が光ってますね。
あれは...首飾りですかね?
鎧でよく見えませんが、あれが光っていますね。
「回復アイテムですか?」
「教えると思うか?」
「ですよね」
追加の煙玉、投擲!
「無駄だ!」
煙幕を突っ切りながらジャンヌさんが迫ります。
首飾りはまだ光っていますね。
ということは、あれが光っている間だけは状態異常は無効化されるのですかね。
「これで決める、“輝きを募り戦う者よ"!」
あ、ジャンヌさんの剣が光ってます。先程の防御無視のとは違いますね。
なんか激しいですし。光に覆われて剣がなんか大きくなった感じでもありますし。
強力な攻撃?
いや、まだ間合いに入ってませんし、違いますかね。
では、攻撃力上昇?
そちらの方がありそうですね。
今まで使ってなかったのにここで使うということはコストが大きいのかな?
では、こちらも....ナックルに換装。
少しでも動きやすくして、こちらも前進。
ジャンヌさんが剣を横に振るってきます。
当たれば大ダメージ必至。
ですから僕は“ウェポン・チェンジ"
槍に換装。これで先に槍が刺さり...
あ、弾かれた。
最初から槍で迎え撃つのは読まれていましたか。
まあ、僕も読んでましたしね。
だから僕は一瞬で槍を手放し、手が引っ張られるのを避けます。
同時に“ウェポン・チェンジ"
出すのは...
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『ロングタルワール』
[性能]
POW:+35
Durability:25
[解説]
長剣の一種。「ホブゴブリンのタルワール」を素に作り上げた物。鍛え直された分、切れ味と耐久性は元のよりも高くなっている。
[製作者]
たまこちゃん(P)
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リーチは槍より少し劣りますがこの間合いならもう十分。
対するジャンヌさんは振るった剣を切り返しての二度目の横薙ぎ。
こういうのを、二の太刀って言うんですかね?
けど、今度はこっちが受けさせていただきます。
ぶつかり合う僕の長剣とジャンヌさんの剣。
威力は向こうが上なので多分壊されますね。
っていうか槍壊されてましたし。
だから、
「“パリィ"ッ!」
「っ!?」
長剣でジャンヌさんの剣を受け流し、かち上げるのです。
結果、剣を上へとかざすポーズとなったジャンヌさん。
予想外の動きに咄嗟の対応が出来ないご様子。
僕も振り上げ気味ですがジャンヌさんと違って攻撃に入れます。
狙うはその首。急所となる所を狙えば大きなダメージになるはずです。
もらった!
『そこまで!』
“ピタッ!"
僕の長剣の刃がジャンヌさんの首に当たる直前で止まりました。
びっくりした〜、思わず手が止まってしまいました。
ジャンヌさんも止まっていた呼吸を整え始めています。
というか、時間切れ....ですか。
上空には『Winner ジャンヌ=ダルク』の文字が。
僕のHPとジャンヌさんのHPのバーを見ると一目瞭然。
僕のが減ってますね。
ここでステータスの差が響きましたね。
では...
「おめでとうございます、ジャンヌさん。この後も頑張ってください」
「あ、ああ....」
おや、緊張の糸が切れたのでしょうか?
顔も少し赤いですね。
「手をお貸ししますか?」
「だ、大丈夫だ」
そうですか...ではその言葉を信じましょう。
「それでは、僕はこれで失礼します」
ログアウト、っと。
「あ、待っ..」
ん、ジャンヌさん何か言いましたか?
僕の視界は変わり、こうして初めてのバトルイベントは終わるのでした。
結果は予選敗退。
でも、楽しかったなぁ。
「ふふ」
ヘッドギアを外し、僕は明日の支度を再度確認するのでした。
※補足
ウォーカーが使った『猪牙の槍』と『ボアレザー・ナックル』は名前から察せられる通り、ウォーカーが倒した猪の牙や毛皮を素材にした物です。
性能は『鋼鉄の〜』よりは劣ります。
又、『俊突』と『クイックブロウ』も名称から分かるように素早い攻撃技です。
前者は長物故に戻りが遅い槍の弱点を補うために素早く放たれる突きで、後者はその後に他の攻撃技へ繋げるための起点として用いられるパンチです(ただし、ウォーカーはこの時点で格闘術のアーツスキルは他に持っていないのでその使い方はしていませんが)




