バトルイベント〜予選①〜
イベントが始まる。
予選が始まる。
各地でプレイヤー達は自分以外の相手を倒そうと躍起なる。
このような乱戦においては如何にして厄介な敵を早くに退場させるかが重要となってくる。
現に、名の知れたプレイヤーは早々にマークされ、複数人のプレイヤーが迫っていた。
だが、そこは名の知れたプレイヤーだけあって、彼又は彼女はそういった有象無象を薙ぎ払ってみせるのだ。
《Aグループ》
『破断のガイ』
一撃の威力に優れた『重戦士』の職業で、その中でも上位プレイヤーに位置する彼の攻撃は圧巻だった。
大剣の一振りで数人のプレイヤーにまとめてダメージを与え、時には一撃で倒される者が続出する。
魔法職や飛び道具を駆使するプレイヤーは距離を取ることで彼の間合いから外れるも、ガイも他のプレイヤーを壁にするように立ち回ることで遠距離攻撃を喰らわないようにしている。
「破断のガイ、貴様の一撃など私の盾の前には無意味だ!」
一人、意気揚々と迫るプレイヤーがいた。
重厚な大盾を手に持ち、鎧で身を固めた『騎士』のプレイヤーだ。
この職業はガイの『重戦士』と同様に動きは遅く、『重戦士』と比べて攻撃力は多少劣るがその代わりに防御力に秀でている。
盾と鎧で敵の攻撃を凌ぎ、手に持つ剣で倒していくそのスタイルは『重戦士』と比べて乱戦に強いと言えよう。
現にこのプレイヤーは既に何人もの敵をその防御力で耐え、倒している。
その自信をもってこのプレイヤーはガイを倒しに来た。
先程まで倒したプレイヤー達と同様に、振り上げたガイの大剣を盾で受け止め、剣で突こうとした。
だが、ガイを他のプレイヤーと同様と考えていた時点で彼の命運は決まっていた。
「“ウェポン・チェンジ"!」
「へ?」
「“大割砕"ッ!」
間抜けな声を漏らしながら、いつの間に大剣と入れ替わっているガイの大斧の一撃によって、騎士のプレイヤーは沈められた。
「ふう、ウォーカーの闘い方を真似してみたが、意外と使えるな」
ガイは再度武器を大剣に持ち替える。
ガイが使う大型武器は主に三種。
一つはメインで使用する大剣。
大型武器の中では攻撃力はもちろん、そのサイズから即席の盾にもなるため攻防のバランスが最もとれている(あくまで大型武器の中では)。
二つ目は大槌。
大型武器の中では攻撃力は低め(全体的に見れば高いが)な分、ノックバック(攻撃がヒットした際に相手を後退させる)効果や、ガードブレイク(防御を崩す)効果などの付帯効果がある。
そして三つ目の大斧。
大型武器で最も破壊力に長ける反面、鈍重な武器。しかし、その一撃によりもたらされるガードブレイク効果はハンマー以上である。
しかもガイは『ウェポン・チェンジ』により攻撃の寸前で切り替えることで攻撃のタイミングを変えてみせた。
おかげで大技の『大割砕』を決めることが出来た。
そのおかげで、無謀にもその攻撃を受け止めようとした騎士のプレイヤーはもちろん、ガイを中心とした一定範囲内にいた他のプレイヤー達も攻撃の余波によりダメージを受けるのだった。
ガイはクレーターとなったその場から動き出す。
圧倒的なまでのパワーをもって、防御や回避を破り、断つ。
故に『破断のガイ』と呼ばれるのだ。
結局、彼にダメージらしいものを与える者は現れずに、ガイの勝利が決まるのだった。
《Cグループ》
プレイヤー達が次々と倒れる。
後ろに何かいると振り返るも何もなく、気づけば首に攻撃を喰らうのを自覚すると同時倒される。
「どこだ! どこにいるん..ぐあ!」
また一人、姿を見ることなく倒された。
今、ここで猛威を奮っているのは一人のプレイヤーである。
その人物は姿を見せずに敵を討つ戦闘スタイルの持ち主で、強力なモンスター相手にも同様で自身の存在を気づかせずにその命を狩り取っていく。
けど、あるプレイヤーは高いHPが幸いして僅かに生き残った。
いや、幸いは間違いだった。
「が、ぐっ..」
直後に毒の状態異常となった。
その時になってようやく理解する。
霞んでいく視界の端を過ぎったのは、黒。
艶がなく、光の反射を一切許さないと言わんばかりの黒ずくめ。
腕には妖しく光る鉤爪があった。
「こ、殺し屋...」
その一言を最後にプレイヤーは息絶えた。
直後、黒ずくめは姿を隠すようにその場から消えた。
『殺し屋のマーキュリー』
謎に包まれし、漆黒の暗殺者は今日もその正体を知られることなく勝ち抜くのだった。
《Fグループ》
爆音が響く。
吹き飛ぶプレイヤー達。
黒煙が渦巻き、熱気が漂う。
その中を颯爽と歩くは怪しげなマゼンタのローブを纏い、杖を構えし魔法使い。
「に、逃げろ!」
「巻き込まれるぞ!」
周囲のプレイヤー達はその姿を見るや否や慌てふためき距離を取ろうとする。
本来なら魔法職のプレイヤーを相手にするなら素早く距離を詰めるものだが、この魔法使いにはそのセオリーは通じない。
強力な魔法を素早く放ち、疲れ知らずと言わんばかりの弾幕を展開するからだ。
下手に近づこうものなら返り討ちにあうのが目に見えている。
だから距離を取ろうとするのだ。
けど、魔法使いはそれを許さず追撃を放つ。
轟く雷鳴と瞬く稲光。
またプレイヤーが複数やられる。
魔法職の常識を無視する持続的高火力を放つが故にその魔法使いにはこの異名がつけられた。
『怪童のダニエル』と。
《Gグループ》
悟空はフィールドを跳び回る。
文字通りの相棒である長柄の棍棒を振り回して迫るプレイヤー達を打ち払っていた。
その軽快な動きと鋭い打撃に取り囲もうと動くプレイヤーは翻弄されていく。
今も軽やかにジャンプして包囲網から逃れている。
「もらった!」
「よっと!」
そして彼の着地を突こうと剣を振るうプレイヤーがいたが、器用に棍棒の先端を先に地面に着けることで着地のタイミングをずらし、空振りさせる。
すかさず着地して攻撃するのは忘れずに。
「くそ! なんだよこいつ!」
「本当に猿かよ!」
「ウッキャーッ!!!」
翻弄され文句を溢すプレイヤー達の様子に調子を良くした彼はわざと猿のような声を挙げて挑発する。
それに刺激された者達はまた彼を取り囲もうとするもまたおちょくられて倒されるのだ。
気づかないままに『挑発』されて近づき、倒されている。
それを繰り返すこと数回。
プレイヤーの数が減った所で、彼の近くに来た一人のプレイヤーに悟空は息を呑む。
「貴方は確か、ウォーカーと一緒にいた...」
「へぇ、同じグループだったんだ」
そう言って構えるジャンヌと悟空。
「悪いけどお前には勝たせてもらうぜ。先パイとはおれが勝負するんだからな」
「先パイ? ウォーカーのことか?」
「そういうこと!」
先に仕掛けたの悟空の方だった。
鎧を纏っているジャンヌに対し、軽装な悟空の方がスピードには軍配が上がった。
接近し、ジャンヌの剣の間合いの外から自身はギリギリ届く所で棍棒を振るう。
対するジャンヌは冷静に後ろへと下がり悟空の攻撃の間合いから逃れる。
対峙した時点で武器のリーチの差は理解していたので、相手がそれを突いてくるのは予想できたからだ。
振り抜いたタイミングでジャンヌは切り掛かるが、悟空も負けじとそれを受け止める。
強引に棍棒を引き戻し、辛うじてだが受け止める。
「やっぱやるな!」
「貴方もね」
そんな二人を狙おうとする者も存在した。
だが、不意を突こうとしてもそれを予想している二人には通じる訳がなくあっさりと返り討ちに遭う。
そして一方で、この二人の勝敗を見届けたいからと手を出さずに他のプレイヤーを倒していく者達も一定数いた。
とにかく、このグループの勝者は今、激闘を開始した二人のどちらかだろうというのが観客の心情であった。
《Dグループ》
ここにはさして名前の知れたプレイヤーはいなかった。
言い方は悪いが、地味な面子がほとんどで、他のグループほど注目する者は少なかった。
だが、そんなグループに一人、他のプレイヤーからマークされていた人物がいた。
曰く、そのプレイヤーはあの『破断のガイ』が一目置いていると。
曰く、そのプレイヤーはあの『戦乙女のジャンヌ』から敬意を持たれていると。
曰く、そのプレイヤーは新進気鋭のコンビ『悟空とルナ』の先輩だと。
曰く、そのプレイヤーはユニークシリーズを装備していると。
どこまでが本当かは噂が飛び交い憶測ばかりとなって分からない状況だが、確かな情報が一つだけある。
そのプレイヤーは瓶底眼鏡が特徴的だと。




