美味しいものには毒がありました。そしたらまさかの再会(初対面)でした。
早速ログインした僕はいの一番に市場にて食料品のアイテムを探しに行きますが....
「し、品切れ、ですか」
お野菜やお肉、調味料なんかはありましたが、目的の果物の類は全くありませんでした。
他の人が話しているのを聞いた所、どうやら生産職のプレイヤー(女性)がスイーツ作りにはまっていて、そのために材料を大量に買われているのだとか。
ああ、仮想世界ですから太りませんものね。
ゲームの中でスイーツバイキング....
しかもしたい時にしたいだけ...
羨まし過ぎます。
さて、どうしましょう?
ここまで来てログアウトするのも悔しいですし...
「あ、自分で採りに行けばいいのですね」
そして当たり前のことに今気づきました。
僕はとりあえず、果物がありそうな場所を探しに行きます。
東の森林エリアにあるかなと思ったので行ってみました。
装備品が一新されているので進むのは容易でした。
特にこの服『コーバスコラックス』
全ステータスを向上してくれるのに加えて、この服の固有スキルにより、獲得した他のスキルによるステータス補正効果が増幅されているため、僕のステータスは同レベル帯で見ても、それなりのものになっていました。
余談ですが、『ステータス補正効果』を詳しく調べた所、所謂%単位でステータスを変化させることを指すものでした。
仮に0.1%上昇する効果があると、この服によりそれが0.2%上昇するといった風になるということらしく、ガイさんに話したら驚かれました。
まあ、厳密な%表示はされていないので、ホームページの情報欄から推測するのが関の山です。
そういえば、この服の耐久力は『∞』とありましたが、別に攻撃を防げないようです。
これについてはたまこちゃんさんから教えてもらいました。
基本的に攻撃を受け止めて防げるのは盾や金属鎧に限定されるとのことでした。
尤も、それでも限度はあるらしいですが。
さて、探索探索。
果物や薬草といった植物系の素材アイテムは、木々が生えている場所、草が生い茂っている所なんかで入手しやすいと聞きました。
けど、無作為に探して簡単に見つかるという訳ではないので、僕はまだ見つけられません。
いや、薬草系のアイテムは手に入れてはいるのですが、目的の果物が手に入りません。
代わりに今、僕の前にはイノシシがいます。
けど、武器も一新した僕には以前ほどの難易度はなく、たまこちゃんさんに頂いたこの剣『鋼鉄ショートソード』で切り裂きます。
■■■■■■■■■■
『鋼鉄のショートソード』
[性能]
POW:+15
Durability:25
[解説]
片手剣の一種。鍛えた鋼鉄で拵えたため、切れ味と耐久性はそこそこのものに。
[製作者]
たまこちゃん(P)
■■■■■■■■■■
うん。以前の『青銅の剣』と比べて強いですね。
剣を鞘に収め、ドロップアイテムを拾います。
おや、お肉は取れませんでしたか。牙と皮だけ...
森林エリアとは言っても、初心者向けのエリアのため、開けたルートがあります。表現としてはおかしいですが、自然に出来た並木道といったものです。
けど、それだと目的の果物が成るような木は見つかりません。
時折、ルートを外れてみます。
見つからなければ再度ルートに戻り進みます。
これを何度か繰り返しました。
そして遂に、果物が成る木を見つけます。
それも二種類。
一つは...これは姫林檎でしょうか?
小ぶりな林檎が綺麗な赤い色で実っています。
美味しそうですね。
では、
「いただきます」
僕は早速一個もぎ取り、そのまま食べます。
うん、小さい割に噛み応えがあります。
普通のサイズのものと比べて酸味はありますが、同時に甘さもしっかりあるのでちょうどいい塩梅です。
よく考えたら、姫林檎を生で食べたのは初めてですね。
お店で見かけることはなかったですから、縁日の屋台で林檎飴として食べたくらいですかね。
うん、悪くないですね。
ただ、お腹に入っていく感覚がないのは慣れませんね。
そういえば、実際の姫林檎は皮に渋みがあるといいますね。
だからですかね。
妙な刺激を断続的に感じます。
これはあれですね。
ダメージを受ける時の衝撃に近いですね....
ん、ダメージ?
僕はメニューを開き、自分のステータスを見ます。
■■■■■■■■■■
状態異常:毒(弱)
■■■■■■■■■■
・・・・・・
この姫林檎は.....
■■■■■■■■■■
『ヒノコリンゴ』
[効果]
低確率で毒(弱)状態。
[解説]
素材アイテム。一見するとただのヒメリンゴだが有毒。生食可能だが、食べると低確率で毒(弱)状態になる。
加工次第で料理アイテムや使い捨ての状態異常アイテムになる。
■■■■■■■■■■
食べると毒状態.....
まあいっか。
「いただきます」
もう一個食べましょう。
うん、やっぱり美味しいですね。
ん?
ダメージが増えてるような?
■■■■■■■■■■
状態異常:毒(強)
■■■■■■■■■■
毒(強)ですか...
増えてる。
■■■■■■■■■■
『ヒノコヒメリンゴ』
[効果]
低確率で毒(中)状態
[解説]
素材アイテム。見た目はヒノコリンゴだが、その毒性は更に上。生食可能だが、食べると低確率で毒(中)状態になる。
加工次第で料理アイテムや使い捨ての状態異常アイテムになる。
■■■■■■■■■■
毒(中).....
僕は毒(強)なんですが...
あ、テキストに続きが。
■■■■■■■■■■
※注意!
ヒノコリンゴとヒノコヒメリンゴを食べ合わせると加工していても毒性が増強してしまいます。
決して一緒に食べないでください!
食べた際は確実に毒(強)状態となります。
■■■■■■■■■■
おお、食べ合わせの注意もあるとは、面白いですね。
あ、HPゲージが赤く光っています。
ポーション、ポーションっと。
結果、手持ちのポーションを使い切ることで何とか毒の状態から乗り切り、自然回復しました。
ふぅ、うまい話には裏がある、綺麗な薔薇には棘あるとか言いますが、美味しいものには毒があるのは嫌です。
まあ怪我の功名と言いますか『毒耐性(弱)』のスキルが手に入りましたが。
これなら、ヒノコリンゴなる姫林檎だけならいけそうですね。
なので食べます。
うん、甘さと酸味がいいですね。
果物を集めがてら姫林檎を食べていきますが、幸いなことに毒状態にはならずすんでいます。
本当はヒノコヒメリンゴも食べたいのですが、食べ合わせを考えるとまずいので今は[リュック]の中に入れておきます。
さて、それでは林檎と一緒に生えているこちらの木の物を食べましょうか。
これは、ベリーですね。
「いただきます」
うーん。歯応えは林檎と比べて柔い分、口の中で甘さと酸味がすぐに広がっていきますね。
さて、もう一つ。
お、さっきよりも酸味が口に広がって....ピリピリ?
いや、ビリビリ?
「はれ?」
身体が上手く動けません。
慌てて身体を動かそうとしたら倒れてしまいました。
顔面からですから、草が茂っている地面じゃなかったら痛かったでしょうね。
おやおや、またですか?
■■■■■■■■■■
『ピリピリベリー』
[効果]
低確率で麻痺(弱)
[解説]
素材アイテム。一見するとただのベリーだが有毒。生食可能だが、食べると低確率で麻痺(弱)状態になる。
加工次第で料理アイテムや使い捨ての状態異常アイテムになる。
■■■■■■■■■■
OH〜
■■■■■■■■■■
『ビリビリベリー』
[効果]
低確率で麻痺(中)状態
[解説]
素材アイテム。見た目はピリピリベリーだが、その毒性は更に上。生食可能だが、食べると低確率で麻痺(中)状態になる。
加工次第で料理アイテムや使い捨ての状態異常アイテムになる。
■■■■■■■■■■
OHH〜
■■■■■■■■■■
※注意!
ピリピリベリーとビリビリベリーを食べ合わせると加工していても毒性が増強してしまいます。
決して一緒に食べないでください!
食べた際は確実に麻痺(強)状態となります。
■■■■■■■■■■
WA〜OH〜
麻痺ですか。
どうりで動けません。
しかも俯きがちに倒れているので周りがよく見えません。
辛うじて前方が何とか見えるだけです。
困りましたね〜
“ガサガサッ!"
ん? 茂みからですか?
誰でしょう?
いや、何でしょう?
“ギイィ"
ゴブリンですか。それも数体。
対して身動きがとれない僕一人。
・・・・・・
まずいですね。
そういえば、まだゲーム内で死亡したことがないですね。
どんな感じなのでしょう?
ここは一度体験しましょうか。
「させるか!」
なんて考えていたら、誰かが来ました。
その人は手に持つ棍棒を振るい、ゴブリンを叩き飛ばします。
おお、ゴブリンが野球のボールのように飛んでいきます。
棒使い(仮)の人はまるで体操のバトンのようにクルクルと棒を回しては勢いをつけて殴り飛ばしています。
お見事。
よく見ると服装もテンプレートなチャイナ服のようなもの。
それに棒....
西遊記ですか?
おっと、そんな風に考えていたらゴブリンは全滅していました。
「大丈夫ですか?」
ん、また後ろから誰か来ましたね。
声からして女性ですか。
「“アンチドーテ"」
そう女性が言うと、淡い青色の光が僕を包みます。
すると、僕の身体は動けるようになりました。
今のは、回復魔法というものですか。
「助かりました」
「いえ、無事でなによ..」
おや、どうしたのでしょう?
こちらの女性、格好は西洋の聖職者といったもの。手には先端が十字をあしらった杖もあります。
「お〜い、どうし..進藤先パイ!?」
こちらにきた棒使い(仮)さんも何故か黙ってしまいました。
というか、今、僕の名前を...
「馬鹿! あ、いえ、すいません。ちょっと知り合いに似ていたので」
この二人...
ああ、そうだったのですか。
「進藤ではないですね」
「ですよね〜」
「ここではウォーカーです。猿渡君、戌井さん」
まさか、二人とこちらで再会するとは。
「いや〜まさかこんな形でしん、いや、ウォーカー先パイと会えるなんて奇遇ですね!」
「けど、毒物を食べて動けなくなっているなんて...」
「いやいや、お手数おかけして申し訳ないね」
しかし、猿渡君あらため悟空君がプレイしているのは知ってましたが、戌井さんあらためルナさんもこのゲームをやっているのは意外でしたね。
機械が苦手だから縁がないと思っていましたが、
そんな感想を呟いたら、
「そうですよねウォーカー先パイ! こいつ、『あんたの方がプレイしているから、わたしに教えなさい!』って、横暴なこと言うんですよ〜」
「な、うるさい!」
そういうことでしたか。
「あ、あのですねウォーカー先輩。わたしは機械苦手ですから練習にと思いまして...」
「分かりましたよルナさん。あらためまして、悟空君、ルナさん、助けていただき本当にありがとうございました」
「ちょ、頭上げてください!」
「そうです、お世話になっている先輩を助けるのは当然のことですから」
僕が頭を下げると二人が慌ててしまいました。
おやおや、おかしなことを言いますね。
「ここでは二人の方が僕より先輩ですよ」
「いや、まあ、そうですけど」
おっと、意地悪になってしまいますね。
話題を変えますか。
「ところで、悟空君。その棒、それに格好は..」
「へへ、孫悟空みたいでかっこいいでしょ?」
やっぱり、意識していましたか。
「ええ、さっきの立ち回りもアクション映画みたいで格好いいですね」
「あざっす!」
そして..
「ルナさんは..西洋のお坊さん?」
「神官服です!」
「これは失礼しました」
尼さんの方でしたか。
詳しく聞くと、悟空君は『棒術使い』、ルナさんは『プリースト』とのこと。
悟空君の方は名称通り、棒術に秀でた戦士職で、ルナさんの方は回復や支援を得意とする後方支援向きの魔法職ということでした。
「けど先パイ、どうして毒の果物食べちゃったんですか?」
「いえ、甘い物を食べたくなったので探していたらここに。そして食べたら有毒だったと」
「ウォーカー先輩、食べる前に内容を確認しておきましょうよ」
「そうでしたね〜。いやいや、怠慢でした。まあ、おかげで『麻痺耐性』も手に入りましたし」
さて、とりあえず、ベリーも集めましたし、ピリピリベリーの方を食べましょうか。
それにヒノコリンゴも。
「って、言ってるそばから食べないでください!」
「見た目似てるんですから、間違えたら大変ですよ!」
「大丈夫です。ちゃんと確認して...」
“バタン!“
あれ?
また倒れてしまいました。
それにHPも減って...
「って、それヒノコヒメリンゴとビリビリベリーじゃないですか!」
「今治します! “アンチドーテ"」
ああ、綺麗な光に包まれます。
こうして僕は治してもらい、ここで食べるのは辞めるようにとルナさんから注意されたので、果物を集めるだけ集めて帰りました。
今日は珍しく失敗ばかりでしたね。
何故でしょう?
・・・・・・・・
ああ、僕、少し酔っていましたか。
いけない、いけない。
帰ったら今日はもうログアウトしましょう。
明日は甘い物を買い置きしませんと。
また毒の果物を食べては大変...
いや、別にいいですけど、ね。




