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 私エマ・ロビンズはある日頼まれて男装をした。


 そうしたら何故か友人から矢鱈とBL寄りの行動を求められるようになった。





 事の発端は幼馴染みの公爵令嬢レティシアからの頼みというか土下座での懇願で、彼女は仲の悪い令嬢からその令嬢の騎士を自慢げにされて、つい自分にだってとてもイケメンな専属騎士がいるんだとか何とか大見栄を切ってしまったという。


 だけど彼女にはイケメン騎士どころか専属騎士なんていない。


 公爵家が付けた屈強な護衛はいても所詮は家が付けた者達なので、夢見がちな乙女が憧れるような「貴女に我が魂からの忠誠を……」なんて誓ってくれるようなロマンチックさなんて欠片もない。

 彼女には社交界に顔を知られた人気のイケメン兄ならいるけどまさか身内の彼に嘘だとバレッバレな騎士のふりを頼めるわけもない。

 そして不幸にも彼女の周りには使えそうなイケメンなんていなかった。

 男性ならいる、筋骨隆々なのが公爵家の屋敷にわんさかと。男性使用人達は総じて強面だったり印象に残らない顔の体つきだけは樵よろしく無駄に逞しい者達ばかりだ。どうして屈強な者ばかりなのかは、それもこれも公爵家は裕福で泥棒によく狙われるが故に防犯強化を意図してのものらしい。

 公爵家は魔法使いの血筋だから魔法で難なく撃退できそうなものだけど、魔法を使うにも色々と制約があるのかもしれない。普通人の私には想像もできないけど。


 まあだから、社交界に顔を知られていない私に白羽の矢が立ったってわけだった。


 一応私も貴族令嬢ではあるけど、社交界にはまだ一度も顔出ししていない。これからもそんなつもりはない。しかもそこらの女子よりも身長があって服装によったら少年と間違えられる中性的な容姿をしている。騎士の格好をしてそこらを歩けばきっと通りすがりの女性達はうっとり目を細めるだろうとは自分自身でも想像に難くない。


 そう、自分で言うのもあれだけど、私の顔は整っている。


 しかし悲しいかな、それは私を男として見た場合効果を発揮するみたい。


 普段からあっさりとしているせいか愛想がないのもあって、女子としては些か怖い印象を与えるんだとはこれまでの人生からよくよく自分を知っている。レティシアに倣って少し愛想よく微笑んだりすればいいのだろうけど、如何せん性格的に無理だ。笑いたくもないのに笑えない。

 まあ殿方にモテてその延長の恋愛をしたいとは今のところ思わないから別にいい。将来は家柄の釣り合うどこかの小貴族の男性と家のために結婚するんだろうって漠然と思っている。


 話が逸れたけど、私エマ・ロビンズはそんなわけで友人の公爵令嬢レティシアから男装を頼まれたってわけだった。


 領地が隣なのもあって彼女とは付き合いが長い。互いの屋敷にも頻繁に行き来している。


 例のイケメンな彼女の兄も一緒に。


 因みに私とレティシアは十六歳と同い年で、彼女の兄は二つ上。十八。


 二人の実家は華の王都において知らない者はない大貴族、アドレア公爵家。

 対する私の家はほとんど家名も知られていない小貴族、ロビンズ男爵家。

 私が社交界に出ないのは家の大小とは関係ない単なる気質の問題だけど、幼馴染二人が社交界じゃ有名なのは半分は家柄のためだ。

 もう半分は彼ら自身の類い稀なる絶世の容姿や恵まれた魔法の才能による。

 公爵令嬢レティシアと言えば押しも押されぬ美少女で、社交界の若者の間じゃ憧れの的。高嶺の花。そのせいで他の令嬢からは嫉妬される事も珍しくないみたい。


 今回の騒動も彼女が相手から勝手にライバル視されて喧嘩を吹っ掛けられた末の出来事だったって直接本人から聞いた。


「だからお願いエマ、一度でいいからわたくしの騎士のふりをしてほしいの! あなたなら誰も文句は言えないもの!」

「はいはいわかったから、引き受けるから、もう土下座はやめてねレティ。こんな風にされたら引き受けない方が鬼みたいだしね」

「ふふふっエマなら引き受けてくれると思った」

「はあ……。レティって確信犯だよね」


 私への返答の代わりに顔を上げたレティシアはにこりと微笑んだ。アポもなく切羽詰まった様子で唐突に家までやって来たのが嘘のよう。私はやれやれとした面持ちで手を貸しレティシアを立ち上がらせる。

 彼女は銀髪の美しい娘で、その大きな瞳は澄んだ空を彷彿とさせる水色をしている。華奢で見るからに護ってあげたくなるような女の子。

 一方の私は黒髪に紫の瞳で男装したら様になる活動的な体付き。我ながら脚は長いかな。

 声だってレティシアは小鳥みたいに高くて可愛らしいけど、私は少し低め。ハスキーって言われればそうだ。


「他の所でこんな真似したら駄目だからねレティ?」


 公爵令嬢たる者堂々としていなさいと窘めれば、彼女は涙ぐんだ。


「エマ大好きぃーーーーっ!」

「どうしてここでその反応……?」


 抱きつかれて仕方なくあやしてやっていると、傍で小さく笑う声が聞こえた。


「エマはいつでもエマだなあ」

「ええと何ですかクラウスさん、その感想は」


 声の主はレティシアと共にやって来た例の彼女のイケメン兄、クラウス・アドレア。


 彼は私達を楽しげに見つめている。

 会う度つくづくこの兄妹は美形だなと思う。彼も妹と同じく素敵な銀髪と青い目の持ち主だ。


「悪いなエマ、この子が見栄を張ったばっかりに君にまで迷惑を掛ける羽目に。でもこの子の兄として引き受けてくれて感謝するよ。一度ぐうの音も出ないくらいに敗北感を味わわせれば無駄に絡んでこなくなるだろうし。ああだけど途中で本当に嫌だと思ったら遠慮なく言うんだよ」

「ぐうの音って……。まあご心配には及びません。男装も稽古服も大して変わらないですしね。必要なら剣で打ち合っても構いませんし」


 稽古服は私が剣術の鍛練をする時に着ている物で、乗馬服のようにパンツルックだしほとんど男物と言っても過言じゃない。

 私は教養の一つというか最早趣味、生き甲斐として剣の手解きを受けている。うちみたいな小さな貴族は何でもできた方がいいからって父親の方針で習い始めたものだけど、今では私が熱心に望んで更なる技術向上を目指してやっている。だからの生き甲斐ってわけ。


 師匠が篦棒(べらぼう)に強いからその弟子の私もそこらの剣士には負けないと思う。


 師匠以外と手合わせした経験がないから確かな事は言えないけど、師匠がそう言って誉めてくれたからたぶんそうなんだろう。


 私が気楽に請け合うと、クラウスさんはやや真剣な目をした。


「打ち合うなんてそんな危険な真似はさせないよ。あくまでもエマはレティのイケメン騎士として同伴するだけでいいから。何か挑発されても無視するんだよ無視」

「そうよエマ、あの高飛車女にどれだけイケメン騎士かって様を見せつけてくれるだけでいいの」

「はは、そう? なら目一杯キリッとした顔を作って頑張るよ」


 無駄に心配性な二人には苦笑を禁じ得ない。


「それで、いつ男装すればいいの?」

「ああそれは……――」


 レティシアが浮き浮きとして口を開く。この日はあとは日程の他、設定とかの細かな話をして三人の時間を過ごした。


 私は公爵家に住み込んでレティシアに仕える少年騎士のエドウィンって役柄に決まった。


 普段呼びはエド。庶民出身。今までは公爵家の護衛計画の観点からシークレットな存在だったけど、令嬢同士の喧嘩のせいもあって今回公の場に同行させる事にしたって設定だ。


 後日、服合わせ兼打ち合わせってわけで公爵家に赴いた私は、レティシアが用意した王宮騎士団には属さないオリジナルの騎士服に袖を通した。屋敷の応接室でレティシアとクラウスさんの二人に披露すると、二人は予想以上に称賛してくれた。


 レティシアが特注で作らせた騎士服は鮮やかな赤色の布地に主に金糸で繊細な刺繍を施された何とも華麗なデザインで、私の紫瞳とも黒髪とも調和する色のチョイスはさすがレティシアだなって思った。因みに男装中は長い髪は後ろで一つに束ねる予定。

 動きに不自由がないかとか服を馴染ませる意味合いもあって男装のまま少し公爵邸を歩いたら、廊下ですれ違う女性使用人達からの視線が熱かった。皆私が男爵令嬢だって知っているのにそれでもうっとりと頬を染めて見てくる。

 横を歩いていたレティシアが顎を上げふふんと得意気にした。


「うふふふっ、皆の顔を見た? きっと社交界でも騎士姿のエマは注目の的ね! あの女の悔しがる様が今から目に浮かぶわ」

「あ、はは……まあお役に立てそうで良かったよ。少し眉を濃くしてきた甲斐があったかな。凛々しく見えるでしよ?」


 ここで反対横からクラウスさんが顔を覗き込んできた。


「別に眉を弄らなくても、俺はそのままでも十分いいと思うけどな」

「そうですか?」

「ああ、たとえ男装しようと、エマはエマのままが一番魅力的だよ」

「え、そうなんですかねえ……」


 クラウスさんが屈託なく微笑んできたので眉を下手に描かない方が美男子っぽくて女子受け的にはいいのかと悩む。意見を仰ごうとレティシアに視線を向けると、何故か彼女は涎を垂らしそうな面持ちだ。ぶつぶつと何か言ってもいる。


「……いい。ホントにいいわ。今まで気付かなかったけれどこれはありね!」

「え、どうかしたレティ?」

「ああ尊いわ~って!」

「尊い? 何が?」

「決まっているじゃない、男同士の絵がよ!」

「……」


 まあねえ、男装して見かけは男だろうけど……複雑な言われようだ。


 それにそうだった。レティシアは隠れ腐女子。


 公言はしてないけど男同士の恋愛――BL大好き少女なんだよね。

 しかも激しめのが推しらしくて、彼女からその手の小説を借りて読んだ事があるけど、あの濃厚さには赤面した。


「レティ、私はともかくお兄さんまでその対象物として見るのは如何なものかと思うよ」


 腐女子妹に妄想される最早脳内供物と化した兄……気の毒過ぎる。


「あらいいじゃない。二人ならお似合いよ」

「そりゃあクラウスさんなら誰とでも絵になるだろうけどね」

「わたくしは誰よりエマが一番だと思うわね」


 レティシアは全く悪びれず何故かクラウスさんに意味ありげな微笑を作った。


「こ、こらレティ、エマはどこからどう見ても女の子じゃないか。お、お似合いだとしてもな。い、いくら男装しているからって俺とボーイズカップル扱いは失礼だぞ」

「あらお兄様、そう思うのならお兄様こそエマを淑女扱いしてよね。何をぼさっとただ木偶の坊みたいに隣を歩いてるのよ」

「……」

「え、いやレティ、淑女扱いって、そもそもここじゃ普通に歩く以外にどうしろと? ねえ、クラウスさん?」


 理不尽な言われように可哀相なこの友人の兄が落ち込む前にと慌てて取り繕うと、そのクラウスさんに片手を取られた。何だろう?


「気が利かなくて悪かったエマ。今からでも減点の挽回をさせてほしい」

「減点?」

「応接室に戻るまででもエスコートさせて」


 そう言って律儀な公爵令息は私の手の甲にキスをしてきた。ドレスを着てここを訪れる時にも挨拶にこんな事をしてくる彼だけど、今は男装真っ只中、知らない人に見られでもしたら変な誤解を与えかねない。

 大切な相手にするように手をそっと握られて気付けば腕を組まされていた。


「は? へ? え? ちょっ? クラウスさん!?」


 ここには何度も来ていて最早半分自分の家みたいなものだから応接室までは一人でも迷わないし、そもそもここまで丁寧な扱いを受ける必要はない。いつもは肩肘張らずに気軽にお喋りして歩いていたはずだ。


「もうっ、レティが変なこと言うから」


 助け船を求めて友人を見やれば、彼女はまたもや腐に傾きまくった邪な笑みを浮かべてこっちを見ている。下卑た男のやに下がった笑みみたいだよそれ……。嗚呼美少女公爵令嬢形無し……。BL沼の底の深さに強く戦慄した。

 この日は結局最後までいつになく気恥ずかしい淑女扱いを受けて帰宅の馬車に乗ったけど、見送ってくれたレティシアもクラウスさんも揃って上機嫌だった。


「レティシアはともかくクラウスさんはどうしてだろう。気分とか?」


 疑問はあったけど特に深掘りはせず、というか一人馬車の中だったからしようもなく、私は喧嘩した令嬢と対決するらしい舞踏会当日へと思いを馳せ、しっかり専属騎士を演じようとぐっと拳を握って意気込んだ。





 さあさあやってきました舞踏会当日。

 私は深紅の騎士服で公爵家からレティシアとクラウスさんと一緒の馬車に乗り込んだ。実は騎士っぽく馬に乗って馬車と並行して歩こうとしたんだけど、レティシアとクラウスさんからそこまでしなくていいって止められた。だからこうして二人と同じ馬車に乗っている。


「馬に乗るくらい全然苦もないのに」

「だからよ。以前は遠乗りではしゃいで一人だけ夕方まで帰ってこなかったでしょ。すごくすごーく心配したんだから」

「あ、あの時はまさに馬が合ったというか……」


 確か二年くらい前だ。馬も良くて草原はどこまでも広くてテンションが上がって随分遠くまで走らせちゃった挙げ句、少しのつもりで木の傍で休憩したらうっかりマジ寝しちゃったんだよね。

 あの時は滅多に怒るとこを見ないクラウスさんからも怒られたっけ。警戒心がないって。女の子なんだって自覚を持てって。うん、男女にかかわらず無防備が原因で人さらいに遭ってからじゃ遅いからね。反省してます。


「突っ走られて大事な対決前に疲れられても困るじゃない。エマには脂ぷりっぷりって感じで後光を放ちながら皆の前に立ってもらわないといけないんだもの。そしてまんまとあの女にギャフンと言わせてやるわ」

「いやええと脂はともかくどんなに頑張っても後光は出ないよ……」

「ええ? 出るわよ。薔薇やキラキラの特殊効果だって散るし」

「パードゥン? 無理だよフツーに」


 私は人間です。レティシアってば大丈夫かな。深い憂慮を浮かべたら彼女は不思議そうに見てきた。


「どこが無理なの?」


 更にはそう言うや私を向かいの席のクラウスさんの方へと少し乱暴に押しやった。


「ちょっ、レティ?」


 戸惑い満載な私は危うく顔面から座席に突っ込みそうになったものの、視界にクラウスさんの腕が入って抱き止められる。


「大丈夫?」

「あ、ありがとうございます」


 ほっとして頬を緩めたら彼は腕を回したまま表情を険しくしてレティシアを睨んだ。


「走行中に危ないだ…」


 不自然に言葉を切ったからどうしたのかと遅ればせながら彼女に目を向ければ、そこには顔面崩壊している公爵令嬢が一人。


「いい……っ、ホントに尊いわね! ああほらたくさんキラッキラしてるし薔薇の花が咲き乱れてる~! 後光も太陽が霞むレベルで放出中よ! BL! BL! BL! BLバンザーイ!」


 彼女は極めつけに鼻血まで出した。

 ドレスを汚したら大変だと私は大慌てでハンカチを彼女の顔面に投げてやったっけ。上手く命中して良かった。


「妹が本当に済まない……」

「ああ、いいえ、BLっ娘なのはいつものことですから」

「まあでも少し消耗させた方が、会場でも余計な騒ぎを起こさなくていいかもな」

「消耗?」

「うん、消耗。だからしばらく我慢してほしい」


 彼の視線を辿ればそこにはレティシアがまだはあはあしながら私達を見ている。私のハンカチはすっかり赤薔薇の色だ。実は一枚じゃ足りなくてクラウスさんのも投げてある。

 心から申し訳なさそうにする苦労兄は妹をよくよくわかっているようで、さっきから私の肩を抱き寄せている。ははっこれは確かにレティシアは大興奮して消耗するよねー……。


「意図は理解しましたけど、別に我慢はしてないですよ」

「ホント?」

「はい」


 彼はどうして私が我慢しているなんて思ったんだろう。小さい頃からの付き合いでこれくらいのスキンシップは特に遠慮するでもなかったのに。数年前までは。おんぶしてもらった事だってあった。

 キョトンとして隣を見上げていると、彼はどこか言い様のない顔付きになってちょっとそっぽを向いた。すぐに戻った横顔はいつもの平静な表情を宿していたけども。


 結局彼は私を隣に座らせたまま舞踏会会場まで離してくれなかった。


 ……その間、レティシアは鼻血ブーで一回死んだ。





 入場した舞踏会会場は想像以上に華やかで明るくて多くの人で溢れていた。


「……あー、私この先も社交界とは無縁でいよう」


 男爵令嬢のエマとしては絶対に来ないって誓う。だってこんな眩しくてごみごみした場所嫌だ。森の中で熊さんと一緒に剣の素振りでもしていた方が何万倍も気楽だよ。


「エマってば、ホントに面倒臭がりなんだから」


 私の小さな呟きを聞き付けたレティシアが呆れた顔をする。BLで人格崩壊してない時はどんな表情でも絵になるのがこのレティシアお嬢様だ。


「さてと、ここからエマはわたくしの専属騎士のエドウィン、エドよ」

「うん、ああいえ、はい。気合い入れていきましょう、お嬢様」


 騎士の男装はとっくにしているけど、私は箔を付ける意味合いもあって、腰に剣を挿している。この舞踏会は私的なものらしく、護衛は武器の携帯も許されるとあって私の他にも随行者に武器を持たせている貴族はチラホラいた。とは言えそこは見栄だったり体裁を良くするためのパフォーマンスも然りで、人情沙汰が起こるケースは極めて低いそうだ。まあ会場内にも主催者側で用意した警備要員が立っているから下手な事はできないって面もある。

 ついさっきまで一緒にいたクラウスさんは顔見知りを見つけて挨拶に行ってしまって私達とは別行動だ。元々会場ではそのつもりだったから構わない。


「お嬢様、喧嘩をした令嬢はどこにいるんです?」


 もう今回の任務を遂行して帰りたくなっていたのもあって展開を催促するようにすれば、会場入りして早々に柱の傍の椅子に腰かけてしまったレティシアは短く「あそこ」とだけ言って視線を向けた。

 お付きを連れた一人の少女が佇んでいる。

 向こうも既にレティシアに気が付いていたようで、こっちを見ていた。


「行かないんですか?」

「わたくしから出向く義理なんてないもの」


 あーなるほど。

 相手の方が格下なのか。

 澄ました顔で一向に動かないレティシアに腹を立てたようで、相手の令嬢はようやくこっちに近付いてきた。

 私の姿をじろじろと不躾に見てもくる。

 値踏みされているも同然の嫌な視線だったけどこれくらいは覚悟していた事だ。背筋を伸ばしてより姿勢を良くし、まずは見た目だけでも堂々とした騎士たる体裁を整える。


「ああーらごきげんようレティシア様」


 その令嬢はレティシアの真ん前まで来て足を止めた。


「ごきげんようセーラさん」


 ふうん、相手はセーラって言うのか。

 吊り目気味だけどこの子も綺麗な子だ。

 素直な称賛を胸に黙って見ていると、セーラは腕組みをしてツンと顎を上向けて私をまたもや値踏みするように見てくる。なるほどねー、レティシアが高飛車って言っていただけはある態度だ。


「レティシア様、もしやそちらの彼が先日大層ご自慢なさっていた専属騎士ですの?」

「ええ、そうよ。素敵でしょう? エド、簡単に彼女に自己紹介して差し上げて」

「はい。では、初めましてセーラ嬢、レティシア様の護衛を務めておりますエドウィンと申します」


 慇懃な仕種で意識して柔らかに微笑めば、セーラ嬢はちょっと面食らったように瞠目して一気に頬を染めた。まあそりゃ怒りもするか。レティシアがは勢いで口から出まかせを言ってしまっただけで本当は専属騎士なんて居もしないと思っていたのに、いざやり込めてやろうと勇んで来てみれば私が居たから計算外で悔しく思ったに違いない。


「かっ彼がレティシア様の専属騎士ですのね。ま、まあ確かにとても整った顔立ちをしていますのね。レティシア様が唾を飛ばして熱心に主張していただけはある容姿ですわ。少なくとも見た目だけは、ですけれど」


 ふん、と面白くなさそうにするセーラ嬢。はあーんこれは典型的な意地悪キャラだね。


「セーラさんは何か含みのある言い方ね。わたくしのエドに難癖でも付けるつもり?」

「ほほ、難癖ですって? 見た目だけが良くてもいざという時に役に立たないのでしたら騎士など連れるだけ無駄というものですわ。ああ肉の盾にはなりますわね。私の騎士もイケメンですけれど見た目こそそちら程には華がないのは認めましょう。ですが、王宮の騎士にも劣らない実力の持ち主ですのよ。私はお飾りで満足されているだけのレティシア様とは違って質を重視していますの」


 このセーラって子、あからさまにレティシアを挑発してる。

 まあそんな安っぽい言葉に乗る彼女じゃないけど。


「はああ? わたくしのエドはあなたの騎士如き秒で叩き潰すわ!」

「レティあいやお嬢様!?」


 どうすんの思い切り挑発列車に乗車しちゃってるよ!

 ここでセーラ嬢がチェスでチェックを宣言したようにほくそ笑んだ。この反応を待ってましたって言わんばかりだった。


「それではその彼がお飾りではないと証明して下さい、レティシア様?」

「あら随分と余裕ねセーラさん、だけど本当にいいのかしらん? 後で吠え面掻くのはそちらなのに」

「その台詞をそっくりそのままお返し致しますわ、レティシア様」


 令嬢二人はすっかり睨み合って、火花がバチバチ飛んでいる。

 この騒ぎにさすがに周囲も注目し出した。

 あああちょっとレティーーーーッ!


「それではそちらの騎士エドウィンとやらと、こちらの騎士ジムに戦ってもらいましょう。二人とも剣を抜きなさいな!」


 セーラ嬢の命令声に彼女の騎士のジムとやらはあっさりと腰の剣を引き抜いた。


「え、ちょっとレティシア様どうするんですこれ? こっちも剣を抜いちゃって構わないんですか?」


 レティシアはここまで煽るつもりはなかったのか絶句している。


「ほほ、ああーら貧相な表情をなさって。そのエドウィンには大した実力はないのでしょう? 見るからにただレティシア様のご機嫌取りに特化したハリポテの騎士と言った感じですものねえ。本当はその腰の剣も満足に扱えないのでしょう? エドウィン、あなたもあなたよね。その顔で上手く取り入ったようだけれど、騎士の矜持はないのかしらあ~?」


 クククって感じのセーラ嬢の嘲笑に少しこめかみに青筋が浮いたけど、我慢我慢。

 打ち合いは後日にしようとかこの場では危険だからとか適当に言い繕って辞退すべきだよね。

 そう私が口を開こうとした時だった。


「レティシア様も一体その美しいお顔で何人の男を手玉に取ってこられたのかしらね? もしやその体さえ最早彼の専属なのでは? 忠誠を得るためにどこまでお与えになったのです?」


 はー。これはさすがに聞き捨てならない暴言だよ。これを公然で声を大にして言うのもモラルを疑う。


 セーラ嬢がひっと息を呑んだ。


 目にも止まらない速さで私が剣を抜いて彼女の喉元に突き付けたからだ。ジムとか言う騎士が「おいっ相手が違うだろう!」と焦った声を出す。


「ああ失礼、間違えました。相手はこっちでしたっけねー。本当に申し訳ございませんセーラ嬢?」


 私はぞんざいにそう言って剣を下ろすとセーラ嬢へと近付いた。身を屈めて手を取ってその白魚の甲に謝罪のキスをする。わざとらしい恭しさで胡散臭い上目遣いで見やれば、急な事に硬直していた彼女はハッとして手を引き抜いた。顔は憤りなのかさっきよりも赤い。


「なっ、なっ」

「そんなにお嬢様と私の関係に興味がおありですか? ……何ならあなたのそのお可愛い顔で私を誘惑してみてはどうです? 私の真実を知りたいのでしょう?」


 目に危険な光を宿して周囲には聞こえないよう声を潜める。セーラ嬢は今度こそ絶句した。ふんだ、無礼騎士上等だよ。先に仕掛けてきたのは向こうだし怒るなら怒ればいい。決闘でも何でも受けてやるもんね。

 一方、レティシアは驚いたように目を丸くしている。内緒話は聞こえていないだろうけど、何となくその内容の傾向は察したと思う。それでも私が仕出かしたのが余程意外だったのか言葉を忘れちゃったみたいだ。その様子にこっちも少し冷静さを取り戻した。ごめんレティシアって思って私は改めてジムさんへと切っ先を向け直す。


「はい、じゃー、ジムさんとやら手合わせしよう。いいよね?」


 私が自然体で構えると、ジムさんはハッと目を見開きごくりと唾を呑んだようだった。でも同意する。うん、いいねその矜持。


「そちらからいつでもどうぞ。ああ周囲はきちんと安全圏まで離れて下さいね」


 にっこり流し目で促してやれば、周囲は赤くなったり青くなったりして距離を取る。

 ジムさんは躊躇いの後に意を決したように踏み込んできた。


 そして、秒で叩き潰すってレティシアの言葉は現実になった。


 まあ正しくは叩きのめすって感じだったけど。

 斬ったり突いたりは一切せず柄の底をみぞおちに叩き込んで相手が思わず屈んだとこに脳天を肘鉄した私がしれっとして剣を鞘に収めると、セーラ嬢が泡を食った顔で指差ししてきた。まだ顔は赤い。


「あ、あ、あなた、何者ですの!? ジムは嘘じゃなく騎士として有能ですのよ!? それなのに、それなのに……っ」


 ぶれる指先が彼女の驚きと慄きを表していた。依然顔は赤い。

 ジムは気絶して白目を剥いて完全に伸びている。


「うん、確かに彼は中々に良い腕を持ってるよね。でも師匠と比べればまだまだ」

「師匠……?」

「うん、昔引退する前は王宮にも居たって言ってたけど、知ってる? ジークウルフって名前」


 ざわっと周囲が微かに沸いた。

 セーラ嬢が腕を下ろして愕然となる。


「ジークウルフ……? まさかあの? 聖戦の狼と呼ばれた歴代最強の騎士の?」

「あ、知ってるんだ? っていうかそんな恥ずかしい通り名付いてるんだ師匠って」


 同情の半笑いを浮かべていると、セーラ嬢がまだ半信半疑な目でこっちを見てくる。顔は赤いけど。知恵熱でも出たのかな?


「けれど彼は弟子を取らないことで有名ですのよ!」

「あーうん、だからしつこくしてやっと弟子にしてもらったんだよね。当時は骨が折れたっけ」


 と、ここでジムさんが呻いて身を起こした。立ったわけじゃなく床に座り込んだ彼は私を呆けたように見上げてくる。


「あ、気が付いた? 良かった。これでもすぐに目を覚ますように加減したんだよ。あんまり大事になっても大変だしね」


 念のために意識が正常かを確かめようと傍にしゃがみ込んで彼の目の前で指を振れば、目の焦点も合っているし大丈夫そうだった。


「痛くしてごめんね。才能あるんだし、これからもセーラ嬢の騎士として頑張ってね」

「エドウィン殿……いや、エドウィン様!」

「ん?」


 ジムさんは何か聖なる奇跡でも見た人のように顔を紅潮させて手を握ってきた。


「お願いです! 弟子にして下さい!」

「……はい?」

「エドウィン様の力量に惚れ込みました。どうかどうかこの不肖の私めをあなた様の弟子にしてほしいのです! 炊事洗濯など家事全般何でもこなせます! その合間に技を教えて下さるだけで構いません! もちろんセーラ様の騎士は今日限りで辞めます!」

「え、それはちょっと……」

「ジム!? あなたねえっ! 先は越させないわよ! その手だって放しなさいな! このエドウィンは今日から私の騎士になってもらうんですのよ! 彼は私の事をお可愛いと仰ってくれましたし、私に明らかに脈ありですわ。あなたの師匠になんてさせませんわよ!」

「ならばセーラ様も共に弟子になりましょう!」

「私は弟子になりたいわけではありませんわ!」

「花嫁修行にもなりますよ!」

「は、花嫁修行ですって?」


 セーラ嬢がこっちを見てポッと頬を赤くする。何故ッ!?


「そそそれは悪くないかもしれませんわね。でしたら私が一番弟子でジムは二番弟子ということで」

「セーラ様、私が一番弟子でセーラ様が二番弟子ですよ」

「はああ? 何ですって!」

「ええと勝手に話進めないでもらえますー?」


 私の声は丸っと無視。主従二人でぎゃんぎゃん言い合っている。いやもう人目が気にならないのかな彼らは……。って言うかジムさん手を放してくれないかなー。

 唯一この場の収拾を付けてくれそうなレティシアはまだ喋らないし、私一人で辟易としていると、背後から伸びてきた腕に捕まった。

 ジムさんに握られていた手も強制的に引き離される。


「ひゃあ!?」

「ああエド良かった無事だったんだな!」


 あ、この声はクラウスさん? いつの間に。


「遠目に剣を抜いた姿を見た時は心臓が止まるかと思ったのだぞ!」


 公衆の面前でバックハグをかましてきた彼は、何故か役者がかった言い回しで言い募る。


「え、ええとクラウスさん?」

「ああ、そんな風に堅苦しい呼び方はやめるようにとあれほど言っただろうに。俺のことはクラウスと呼び捨てにしろと何度言えばわかる? エド?」


 今度はくるりと回転させられて切ない目で鼻先をつつかれた。

 ……えー、これは何のつもりなのかなあ?


「エド、妹の騎士である君を心配しない日はないよ。騎士には危険が付き物だからな。どうかせめてこういう場所でくらいは安全第一に考えてくれ。そうだ皆にもそう願おう」

「へ? あいい~?」


 困惑の余り変なリアクションしか出なかった。そんな間にもクラウスさんはさりげに私の腰を抱いてぐるりと辺りを見回した。


「この場の皆もどうかエドを煩わせるような真似だけはしないでほしい」


 すうっと彼が息を吸い込んだ。


「エドは俺の愛する大切な人だから……!」


 無駄に美声で情熱的な声の直後、額に口付けが落とされた。


 ……あい?


 これまでになく会場が大きくどよめいた。

 彼は特定の誰かを作らない男としても有名だった。きっとまだ本当の恋を知らないだけなのだとロマンス好きの女性達は囁き合い、もしかしたら自分が彼の心の氷を解かす運命かもと心密かに期待を抱いてもいた。

 彼の言動はそうして今夜も勇んでやって来た令嬢の誰しもをハートブレイクさせた。今日まで、どんなに麗しい美女でも可愛い娘でも袖にされてきた。


 しかし皆はそうかとそのワケを悟った。


 公爵令息クラウスは――


「あああああボーイズラブ最高ーーーーーーーーっ!」


 会場にパッと散った真っ赤な飛沫と共にレティシアの恍惚の声が響き渡った。皆は目を白黒させていたけど真実を悟ったように何人もがカッと眼を見開いた。


「あー……」


 腐女子ってバレちゃったよねあれは。いいの?

 この先の立場大丈夫かなあ?

 だけど予想に反する声が次々と上がり始めた。


「何て尊い光景なの!」

「クラウス様とあの美少年騎士ってカプは最早神の芸術ですわね!」

「めちゃ萌え萌えぎゅんぎゅんですー!」

「ああわたくし知らなかった世界の扉を開いたかもしれません。皆さんどうかご教示下さいませ」

「「「もちろん!」」」

「わたし、クラウス様のことは諦めて見守りたいと思います」

「ええ、ええ、わたくしも」


 よ、良かった想定外にも腐令嬢が沢山いた。こうなればレティシアはきっと大丈夫だよね。

 問題は……。


 まさか彼はこれを狙ってこんな茶番を……?


 そう言えば寄ってくる令嬢達を無難にあしらうのが面倒なんだとちらと愚痴られた記憶がある。


 いつ思い付いたんだか知らないけど、男装をまんまと利用されたってわけ?


 事前の相談もなく?


 疑いと非難の眼差しで見上げれば、彼はごめんねと眉尻を下げた謝罪の笑みを浮かべた。


 妹が妹なら兄も兄。この男、――確信犯!


「はは……」


 レティシアは吹っ切れたようで、同志とわかった令嬢達と早速サークルでも作ろうとしているのか熱心に話しかけて自陣に取り込んでいる。逞しい。

 私とクラウスさんを何度も見ては不気味な笑い声を立ててもいた。

 加えて言っておくと、断じて弟子は取らない。

 ジムさんにもセーラ嬢にも諦めてもらうつもり。


「エド様是非弟子に!」

「エドウィンとやら、結婚を前提に私を弟子にしなさいな!」

「駄~目。エドは俺のだから、俺の他は必要ない」

「はあはあっ見てまた二人が尊い……っ」

「「「私達腐女子連盟は新たにレティシア様をトップとして新体制でやっていきますわ! エイエイオー!」」」


 嗚呼……。もうめちゃくちゃだ……。


 今すぐ帰りたい。


 私は私だけ異次元に居る孤独者のように感じていた。この上なく遠い目をしていたと思う。





 会場を出るまでセーラ嬢とジムさんからは無駄に熱っぽい目で追い回されて困った。何とか振り切って隠れて時間を潰してようやく帰りの馬車に乗り込んだ時にはじわっと涙が出たよ。でもまあこの先騎士エドウィンがセーラ嬢達と会う機会はないだろうから少しは安心した。最後までレティシアに謝らなかったのは感心しないけどね。私は不機嫌な顔をしていたと思う。

 だからかな、馬車の中は近年稀に見る静けさに包まれていた。

 行き同様に同乗のレティシアとクラウスさんは、私が猛烈に不機嫌だったから話しかけられなかったみたいだ。それでもレティシアを思っての私の行動には馬車に乗り込んで一番最初に二人揃って感謝の言葉を口にしてくれた。私の返事が素っ気なかったからかそれ以降は気まずそうにしていたけども。

 こっちとしてもドッと疲れて話す気力が出ないから助かった。けどもうすぐ家だし話すべき事を話しておかないといけない。


「とりあえず専属騎士がいるって印象付けられたし騎士比べも勝ったし、私もう男装しなくていいよね。この服は洗って返すよ」


 すると、向かいに並んで座っていた高貴な兄妹は血相を変えた。


「そんな勿体ない! せめてお兄様といる時だけでも騎士服でいてほしいわ! お兄様もその方がいいでしょう? ……思う存分ベタベタできて」


 終わり部分はボソッとしていて私には聞き取れなかったけど、クラウスさんがハッと両目をこの上なく見開いた。彼には兄妹パワーで聞き取れたのかも。


「レティの言う通りだよ。どうかもう少しだけ男装して俺の女除けに協力してほしい。実は意中の子がいるから、関係ない女性達と一緒に居て変に誤解されたくないんだ」

「…………。ええーっ、びっくりです、クラウスさん好きな人いるんですか!?」

「ああ、とっても可愛い子。俺だって人並みに恋するんだよ」


 急にほこほこした笑顔になる彼はきっと本気でその人が大好きなんだろう。


「でもまだ全然アプローチを頑張ってる最中だけど……ちっともなびいてくれないんだよ」

「あー……うーん……それなら仕方がないですね。時々なら男装してもいいですよ」

「ありがとうエマーッ!」


 彼の嬉しそうな様子を見ているとこっちまで気分が浮上する。


「なら、今からでも様になるように練習したらどうかしら?」

「練習?」


 私が首を傾げるとレティシアは兄の背中を突き飛ばした。

 えっ。

 あわやぶつかる寸での所でクラウスさんが両手を背後の馬車壁ついて何とか堪えた。


「っぶな~。おいレティ…」


 安堵の息をついた彼が文句を言おうと目を上げて、ばっちり私と目が合った。


 とんでもなく近い。


 だけど、こんな距離は初めてじゃない。昔はよくあった。


「大丈夫ですかクラウスさん? レティも走行中は特に危ないんだからこういうのは駄目だよ」

「ごめんなさい、眼福を拝めると思ったらちょっと思った以上の底力が出ちゃったみたい」

「レティ……」


 欲望に忠実だなーと呆れていると、何故か固まっていたクラウスさんがようやくのそりと動いた。

 何か凄く疲労困憊した顔で隣に腰掛ける。


「はあ……」

「本当に大丈夫ですか?」


 溜息までついてるし、疲れてないとは言えないみたい。


「もうすぐ着きますけど、良ければ肩くらいは貸しますよ?」


 ちょっと目を見開いた彼が躊躇うようにその形の良い唇を動かした。


「その……舞踏会ではホントのホントに色々悪かった。ごめん。エマはまだ怒ってるんじゃないのか?」

「ええ怒ってますよ。でも私は忘れっぽいのでクラウスさんがひと寝したらたぶんきっと忘れてるんじゃないですかねー」

「エマ……」


 正面でレティシアが和んだようにくすりとして、クラウスさんは幸せそうに相好を崩した。


「それじゃあ、お言葉に甘えて……」


 カタカタと小刻みに揺れる馬車の中、目の前では居眠りする友人の穏やかな姿がある。それと同時に、体の片側に掛かるもう一人の重みと温もりに私は不思議な程の安息を覚えていた。


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