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【6】魔王、女の子たちに言い寄られる

 なっ、なぜ彼女は……?これは……いったい……?


 アイナベラの突然のキスは俺の思考を停止させた。


 彼女がキスをする理由がわからない。でも、これは俺のファーストキスだ。


 初めて女の子にキスをされたので、恥ずかしくて顔を赤らめ、心も高鳴り、その鼓動を抑えきれない。なにしろ、全然予想しなかったから。


「失礼しました、魔王様」

「お前……なんで……」


 驚きの表情でアイナベラを凝視する。


「安心してください、魔王様。こうすることは魔王様の魔力を補足するためです。けれど、初めてこんな方式を試してみて……やっ、やっぱり少し決まりが悪い思いをします……」


 と、頬も赤く染まり、自分の髪を触るアイナベラ。


「……っ」


 俺のアイナベラに対する印象は綺麗で穏やかなお姉さんだ。女性としての魅力だけでなく、大人としての魅力も備えている。

 けど、彼女が赤面する様子はまるで別人のようだ。幼い少女のようで可愛いと感じた。


 いつの間にかめまいが消えた。どうやら、俺の魔力が回復したようだ。

 しかし、キスで魔力を補足することにちょっと恥ずかしさを感じた。


「もし魔王様が、この魔力を補足する方式が不敬だとか嫌いだと思ったら、私を処罰してください」


 アイナベラは俺に跪いた。


「いっ、いや、そんなことはないけど……」


 率直に言って、アイナベラは俺の好きなタイプだ。とても優しくて美しいし、頭もスタイルもすごくいい。完璧な美人と言える。


 彼女にキスをされたのは悪くない。むしろ、言葉に表せない嬉しさを感じた。


 ……とりあえず、自分を落ち着かせなければならない。俺は魔王だぞ、部下の前に醜態を晒すことはできない。


「俺は疲れた。寝室に戻って休みたい」

「かしこまりました。それでは、ごゆっくりお休みください、魔王様」


 アイナベラは俺にお辞儀をした。


 背を向けて立ち去ってゆく、シルディアたちも後につき従う。


 シナとミアは訓練場の門扉を開けて、俺たちは離れた。

 訓練場を離れると、胸を少し撫で下ろした。


 だが、召喚される第一日にファーストキスが奪われるなんて思わなかった。


「ご主人様はさっき、アイナベラさんとキスをしましたね」


 シルディアに言われ、再び俺の顔は赤くなった。


「そっ、そりゃ魔力を補足する方式だ!」

「ハッハッハッハッハッハッ」


 突然、シルディアが大笑いをした。


「わっ、笑ってんじゃねぇよ」

「ご主人様はなんと、そんなことを本当だと思っているのですか。よく考えてみてください、ご主人様。魔力を補足する方式はたくさんあります。けれど、アイナベラさんはキスを利用する方式を選びました」

「……まさか?!」

「そうですよ、ご主人様。彼女はご主人様のことが好きなんです。しかもご主人様に一目惚れしました」


 シルディアにそう言われると、顔がもっと赤くなってしまった。


 アイナベラは俺のことが好きなんて……うそ。……けど、シルディアの説明は道理にかなっていると思う。

 正直、俺もアイナベラに好意を抱くようになった。


 恋人がいない俺には彼女が愛おしい。なぜなら俺の前世での自分の周りの友達やクラスメート達にはみな彼氏彼女がいたから。

 周囲の恋愛事情に気づいて、独り身の俺は「そろそろ彼女を作ろう」と思い始めて、恋がしたい気持ちが生まれた。


 が、空想はいつまで経っても現実にはならない。


 俺はずっと異性に言い寄る行動を執ってこなかったので、彼女を作ることにはもちろんまったく進展もなかった。そのために失敗を繰り返した。


 それに対して、俺は後悔した。だから今回、俺はちゃんと女の子を攻略してやると決めた。


「でもね、あたしもご主人様のことが好きです。ずっと、ご主人様のそばにいたいです」

「……えっ?―――へぇぇぇぇぇっー!?」


 シルディアの言葉は俺を驚かせた。


 こっ、こりゃ告白だろう?ほっ、本当に告白だろう?

 今、俺はシルディアに告白されたらしい。


「うふふ、ご主人様の表情は面白いです」

「うっ、うるせぇ……」


 突然、シルディアが俺の腕を抱きしめた。


「けれどあたし、本気ですよ。ずっとご主人様のそばにいたいという気持ちは真実です。あたし、心からご主人様のことを愛しています」


 言い終わると、シルディアは……


「チュー♡」


 と、俺にキスをしてきた。


「……へぇっ?……えっ!?えええええ!?」


 心臓は胸を突き破るぐらいドキドキして頭が混乱してしまった。


「ごっ、ご主人様と……キスをしました……。やっ、やっぱりアイナベラさんの言った通り……はっ、恥ずかしいですね……」


 シルディアは両頬を赤く染め、きまり悪そうに嬉しそうに微笑んだ。

 かっ、可愛すぎる!


 今日は何という日だ?

 さっきの授業で魔力を補足したため、アイナベラにキスをされた。そして俺はシルディアにも告白され、彼女にキスもされた。


 二人の女にキスをされたなんて……まさか、こりゃ小説の中のハーレムプロットか?!


 思わず彼女たち二人とエッチなことをする光景を想い描いた。

 ……いやいや、ちょっと冷静にならなければ、刀夜。お前は魔王だぞ、妄想をするな。


 首を左右に振って妄想を振り払った。


 早く部屋に戻らないと。


 足どりを速めた。


「えっ?ちょっ!待ってください、ご主人様」


 シルディアたちも足どりを速めた。


「いきなりこんなに速く歩かないでください、ご主人様」

「……っ」


 俺はただ早く部屋に戻りたいだけだ。


 それから、分かれ道に来た。でも、俺はすでに部屋へのルートを覚えている。

 確か右へ曲がるはずだ。


 右を選んだ。


「あの、すみません、魔王様。その道は間違っています。左に曲がる道こそ正しい道です」


 ミアは俺を正した。


「そっ、そうか……ハッハッハッ」


 馬鹿笑いをした。

 道を間違えるなんて恥ずかしい……。


 向きを変えて歩き出す……、


「待ってください」


 突然、シルディアは後から俺を抱きしめた。


「うわ!」


 重心を失い、俺は尻餅をついた。


「痛い……お前、いきなりなにを?」


 俺はシルディアに床に押し倒された。振り向くと彼女の顔が目の前に迫っていた!


「どうしてご主人様はずっとあたしを避けるのですか?もしかしてご主人様はあたしのことが嫌いなのですか?」


 涙を流して、シルディアは泣いている。


「いや、俺は……」


 シルディアの涙を見て、胸が痛くなりを禁じ得なかった。俺……シルディアを泣かせたなんて……。


 シルディアを落ち着けさせたいが、どうすればよいかわからない。


 ……この時、一つの考えが芽生えてきた。


「お前のさっきの告白、俺は受け入れる」


 そう、俺は彼女の告白を受け入れた。

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