【11】魔王、重要な朝会に出席する
王座の間で重要な朝会が行われている。
厳かな雰囲気のため思わず姿勢を正した。
けど、ディアが俺の左腕をからめとり可愛く微笑んでくれたおかげで気分が少し和らいだ。
「魔王様」
と、一人のエルフが俺の前に進み出て跪いた。
しかし、初めて見る顔だった。彼は二十代に見え、翡翠色の長い髪と金色の瞳、耳が奇妙に長く尖っていたが、色が白く肌が綺麗で背が高い。姿から見てイケメンと言える。
けど、彼の実際の年齢はきっと俺よりかなり年上だろう。
「まずは自己紹介をさせていただきます、魔王様。私の名前はアートス・シーリ、魔王軍の財務大臣を務めさせていただいております。私には魔王様に上奏しなければならないことがあります」
「どんなことだ?言ってみろ、アートス」
「はい。実は魔王軍は現在、財政状態が危機的状況に陥っています、魔王様……」
「えっ!」
このニュースを聞き、心がざわめいた。
大臣たちもざわつき始めた。
「そうか……」
今の魔王軍は内外ともに行き詰まっている。
外交面ではすべての人族の国と対立しているだけでなく、内政面でも危機的な財政状態に陥ってしまった……。
はぁーっと、ため息がでた。
でも、俺の辞書に「諦める」という文字はないから、早く解決しなきゃ。
「なぁ、アートス、なぜこうなってしまった?」
「はい、ここ数年にわたり魔王軍は絶えず征戦していたために、軍費の支出が急激に増加し、財政の困難を招きました、魔王様」
なるほど、数年続く戦いをしていたわけで……。
「失礼とは存じますが、あえて直言させていただきます。魔王様、前線に展開している魔王軍を撤退させてください」
前線の魔王軍を撤退させるのか?
……確かに、撤退させるしかないようだ。しかし撤退させたら、人族はその機に乗じ反攻を始めるかもしれない。でも、撤退させなければならない……。
ああ、難しい。どうすればいいのだ、俺は?
「魔王様、オイラも撤退させることに賛同します」
と、一人のドワーフが俺の前に来て跪いて言った。
背が低く髭も濃いが、筋骨逞しい中年男性だ。
「お前は……?」
「いきなりすいません、魔王様。オイラはバザー・サンドル、魔王軍の工部大臣を務めさせていただいております」
「じゃ、バザー、お前が賛同する理由を教えてくれ」
「はい、財政赤字のため、魔王領の大部分の建設工事は中断しました。それ故に魔王領の発展が停滞し、人民たちの生活環境は改善されることなく、かえってさらに苦しくなりました……。魔王様、今は人族に打ち勝っても、それは一時的なものです、未来永劫ではありません!」
「……っ」
うつむいて黙り込んだ。
確かに、バザーが言ったことはとても道理である。
今は人族を支配する方針がまだはっきりしていない。率直に言うと、今までの戦いはまったく行き当たりばったりだ。ただ人族に復讐したいのだ。
やはり、撤退させようか……。まあいい、なんとかなるさ。
「先の発言は失礼しました。申し訳ありません、魔王様」
「いや、謝るな。お前が言ったことは正しい。よく聞け、これは命令だ、前線で戦っている魔王軍を撤退させ……」
「待ってください、魔王様!」
アイナベラが俺の前に進み出て跪いた。
「お話の腰を折るようで申し訳ございませんが、撤退させないでください、魔王様!」
「ほう?なぜ?」
「魔王様、もし撤退させたら、魔王軍の今までの努力は無駄になります!それに魔王様もおそらく気づいたでしょう?人族が我々の撤退を機に進攻したら、それはまずいことです」
「……っ」
まるで俺の悩みを見抜くアイナベラ。彼女なら解決の方法があるだろう。
「さすがアイナベラ。正直、俺も撤退することで人族が反攻し始めたらどうしたらいいか悩んでいる。アイナベラ、お前には何か人族の進攻を防げる方法があるか?」
「……すっ、すみません、ないです、魔王様」
「そっ、そうか……」
彼女は今の戦況を全然わかってないし、解決方法も考えてない。
無力感を覚え、気分はどん底まで落ちてしまった。
俺は不適任な魔王だ、全部甘く考えた。魔王なんて少しも楽じゃない。
人材不足・人族支配と財政赤字の問題をしっかりと理解したうえで解決したいけど、気がはやるばかりで対応策を考え出す力が足りない。
こぶしを握りしめるばかりだが、諦めたくない。
「陛下、わしには一つの考えがあります」
クロトも前に来て跪いた。こんな時にも方策があるのを聞いて心はちょっと嬉しくなった。
「……どんな方策だ?詳しく聞かせろ、クロト」
「はい、昨日ファージェル殿から手紙が送られてきました」
ファージェル、聞いたのがある。彼女も四天王の一人だけど、今は軍隊を率いて布陣している。
「その手紙には、『魔王軍はすでに準備をし、二日後ケノス城を攻め落として勝利を魔王様にささげます!』と書いてあります。ケノス城はサークレム王国の軍事上一番大切な地位にある要塞ですが、攻め落としたら王都モールワトに切り込むことができます」
「まさか王国を滅ぼすのか?」
「いいえ、滅ぼしはしません、魔王様。ケノス城は最後の重要な要塞であり、王国のほとんどの兵力もケノス城にあって固守しています。言い換えれば、ケノス城を攻略すれば王国が陥落することは明らかです。そうすれば王国は必ず使者を派遣して我々と和平交渉するはずです」
「なるほど、勝てば王国に戦争賠償を要求できるな」
「はい、その通りです、魔王様」
「でも、敗れたらどうする?」
「いいえ、魔王様、絶対敗れはしません!」
自信満々で言うクロト。その自信に満ちた目をみると、ファージェルは百パーセント勝つと信じているようだ。
「……わかった、俺も決めた。ケノス城を攻め落とした後、進軍を止めてくれ。これは命令だ」
「さすが魔王様、英明な決定です」
俺もなぜ王国を滅ぼさないのかを理解した。王国を滅ぼしたら、必ず他の人族の国に危機感を抱かせ、総兵を出して俺たち魔族に徹底抗戦するだろう。
「お前たち、まだ他の用事があるか?」
「ありません、魔王様」
「オイラもありません、魔王様」
「ないです、魔王様」
「わしもありません、魔王様」
「では、他の者は?」
……返事がなかった。
「なら、散会しよう」
みなは礼をした。王座の間を離れ、やっとほっとした。
「お疲れ様でした、刀夜様」
ディアの可愛い笑顔は俺の疲れを癒し、俺は彼女の頭を撫でた。
「ありがとう、ディア」
俺はやはりディアの笑顔を守りたい。ディアだけでなく魔族全員の笑顔も守りたい。なぜなら俺は魔王だから。
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