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消えた隣人

作者: 柱島

 

 もう何年も前のことになります。

 当時、片田舎に住んでいた私は都内の会社に転職すべく、たびたび夜行バスで上京を繰り返していました。

 夜遅くに大きめの駅などから出発する夜行バスには、リクライニングに優れたものや運賃がべらぼうに安い代わりに席の間隔が狭く、ゆっくりと休めないようなものまで様々です。

 ある日、夜行バスに乗り込んだ私は眉をひそめる事態に直面します。


 隣の席の人が、すごくタバコ臭い!


 全身から立ち上るようなタバコ臭がするのです。

 私は喉の乾燥防止で持ってきたマスクを二重に装着して対抗しますが、胸焼けするようなニオイは無くなりません。

(ぐぬぬ、こんな事なら独立席のバスにするんだった・・・・・・)

 1.5倍ほどの運賃差があったため安いバスを選んだのが仇となったのです。

(仕方が無い・・・・・・寝てしまえば気にならないはず)

 意識を手放してしまえば、あとはクサかろうが何だろうが気にならないはずです。

 しかし寝付くまでが問題です。


 胸焼けする中、バスが闇夜を切り裂いて疾駆します。

 カーテンに覆われた窓の隙間からチラリと外を見ますが、高速道路の電灯がビュンビュン飛び去って行くくらいしか分かりません。


 一時間ほど走ったでしょうか。

 バスがゆっくりと速度を落とし、左に曲がり、そして停車したのです。

 そう、夜行バスは目的地に到着するまでに数回休憩をはさむのです。


 プシュー


 アナウンスはありませんが、ドアが開く音がすると幾人かが席を立ち、車外へ出ていきます。

 トイレだったり買い物に行ったりとそれぞれが目的に向かって散っていきます。

 隣のタバコ臭の人も席を立つと車外に出ていきました。

 ちょっと人相の悪そうな男性でした。


(トイレでも行っとくか)


 私も席を立つとトイレに向かいます。

 その途中の喫煙所で隣の人がタバコをプカプカふかしていました。

 好きなんだろうなぁと思う反面、さらに強烈なニオイになるのか。とウンザリします。


 トイレに行き、お茶を買うとバスに戻ります。

 隣人はまだ戻っておらず少し快適な時間が続きます。


「確認よし」

少しウトウトしていた私の耳に添乗員の声が聞こえます。

 どうやら出発前の人数確認をしているようです。


 程なくしてバスは滑るように動き出すと目的地に向け、再び走り出しました。

 私は澄んだ空調の風を受けながら眠りに落ちていきます。


(おや・・・・・・?)


 どれくらいか経ったでしょうか。

 夢うつつの中、タバコ臭がしない事に疑問を感じます。

 さっきまで頭が痛くなるようなニオイがしてたのに・・・・・・。


(あれ? 隣の人は?)


 そう、間仕切りカーテン越しに気配を感じないのです。

 さすがに覗き込むなんていうことはできません。

 もし目が合ったりしたら大変です。


(どれ、失礼)


 私はカーテンをさりげなく直すふりをしてちょいちょいと弄ります。

 角度的に隣人の足が見えるはずでした。

 そこには


(足が無い)


 偉い人には分からない意味で足が無いのではなく、そもそも足どころか誰もいませんでした。

 なんと、隣の人は幽霊だったのでしょうか。

 いや、そんなアホな。


 先ほどの休憩でタバコを吸っていた彼は間違いなく、この世の住民でした。

 という事は・・・・・・。

 私は夢見心地のまま思考を働かせます。


(何という事でしょう。お隣さん置き去りにされてしまったのでは・・・・・・)


 と思ってみたものの確証はありません。

 何故なら空き席がいくつもあり、人によったら空いている席に勝手に移動していたりしたからです。


(まあ夢かもしれんね)


 私は思考を放棄し、夢の中に旅立っていきました。

 あの夜、置き去りにされてしまったかもしれない彼はどうしていることでしょう。

 売店も開いておらず、自販機しかないSA。

 バスがすべて走り去ったあと、何かが停車するのでしょうか。


 ちなみに最終停車地で最後に降りた私はバスの荷物置きに放置された黒いリュックが視界に入りました。


 つまり・・・・・・。

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