最初の日4
「ねえ加奈、私も同じような経験があるんだ」
「どんな感じだったの?」
「んー。男の人と付き合ってみて、体触られて無理ってなったみたいな?」
「真紀、彼氏いたことあったんだ」
「中学の時、高校生とちょっとね。すぐ別れたよ」
意外だった。中学のころから、真紀が彼氏がいたというのを聞いたことはない。本当に誰にも言わずに隠していたんだろう。一呼吸ついて、真紀が言葉を続ける。
「それでね、私思ったんだ。もしかして男の人だからダメなんじゃないかなって」
「どういうこと?」
「つまりね、男の人って目とかが基本的に嫌らしいじゃん。そういう印象が積み重なって、男の人がダメになっちゃったんじゃないかなって」
考えてみる。ありそうな話だった。生理的な嫌悪感がずっと積み重なってきて、その感覚のまま触られるのが無理になった。だとしたら、解決策なんてあるのだろうか。
みると、真紀が珍しく緊張した顔をしている。体がこわばって、顔が下に向いていた。
でも、それは一瞬だった。次の瞬間、真紀は私の方に体を運び、ゆっくりと手を重ねた。
真紀のきれいな顔が、私の目の前にきた。訳も分からぬまま、ゆっくりと押し倒される。
私は脳が真っ白になり、それでもこれから何が行われるのか察しがついた。
こんなときでも、意外と人間は冷静なのだ。
上気した真紀の呼吸が、耳をかすめる。
「それでね」
「うん」
「だから、加奈も同じようなことで悩んでるんだったら、女の子同士で試しにやってみるのはどうかなって。男の人がダメなのか、こういうの全部ダメなのかくらいは分かるじゃん」
「そうだね」
そうだねと言いながら、私は事態が飲み込めていなかった。
真紀とやる?なんで?試しに?
「大丈夫。加奈がいいって言うまで私はやらないし、加奈が嫌っていったら途中でだって絶対やめる」
「うん」
声にならない掠れた声が喉を通る。近くで見ても、真紀の顔はきれいだ。
中学一年で同じクラスになったときから、私は真紀のことを知っている。
あの頃からずっと、真紀は聡明で小器用で、そして蠱惑的だった。
こういう子は人生をうまく渡っていくんだろうな。女の子社会のルールを必死に学んでいた当時の私は、そんな風に思っていた。
その真紀が、私に覆いかぶさって同意を求めている。
「だから加奈、答えて。いま、私とやるかどうか」
私は答えをひねり出した。だって真紀がどういう人間なのか、私は知りたかったから。
その答えの先には、この子との時間が待っているはずだった。
多分、憧れてたんだ。ずっと。
そこから先はもうめちゃくちゃだった。
初めてって絶対嘘じゃん。いろいろなことをされながら、そればっかりが頭に回っていた。