動物園1
動物園にきた。
動物園の入場門で待ち合わせた真紀は、かわいかった。
かわいさというものに、私はそれほど興味がない。
友達の顔がよくても悪くても、私に損も得もない。
それでも、今日の真紀は明らかにかわいかった。
いつもより血行のよさそうな肌とか、いい感じにまとまった髪とか、目立たない程度に高いヒールとか、そういうの全部ひっくるめてかわいかった。
もうちょっとお洒落してきたほうがよかったかな。
奮発して買ったセーターを着てきたけど、あくまで「友達とのよそいき」程度の恰好なのが、少し申し訳なくなった。
「あ!加奈!こっち!」
動物園のゲートに立つ真紀が、近づいてくる私をみつけて名前を呼んだ。
「ごめんね真紀。同じ電車でつくと思ってたんだけど、待たせちゃった」
「いいよ。私が早くきただけだし。それより、来てくれてよかった。断られるんじゃないかって、結構不安だったんだよね」
「あんなことに普段から誘っておいて、動物園に誘うのが不安なんてことある?」
「わかんないよ。だってあれは、あんたも楽しんでるじゃん。もちろん私も楽しいけど。でも、動物園にはそういうわかりやすいメリットないでしょ。だから『そういうのは真紀に求めてない』ってばっさりいかれるかもって、結構本気で思ってたんだよ」
「なにそれ、私最低じゃん」
「加奈、そういう雰囲気あるからなあ」
あはは、と真紀が笑った。
動物園はすごい。
小学校を卒業してからは来ることはなかったけど、成長してからくると改めて思う。
私たちは普段、人間と小動物だけが生きることを許された空間で暮らしている。
それなのに動物園に入ると、いきなり象が私たちを出迎えるのだ。
人間の街に慣れれば慣れるほど、人間として生きれば生きるほど、動物園は特別で非日常な空間になる。
いろいろな動物を周りながら、その都度真紀は写真を撮った。
デート記念なんだからといいながら、すべての動物と私のツーショットを撮らされた。
いいツーショットを撮るには、いいポジションに動物がくるのを待つ必要があり、それが意外と楽しかった。
もうちょっとこっちにきてとカバに懇願する真紀は、なんだかとてもいい。
写真を撮ること自体がゲームみたいで、私も動物のシャッターチャンスを探すのに夢中になった。
そうやって夢中になって歩き回った後、キリンの柵の前で真紀が足を止めた。
一瞬、真紀がふらっとよろけたようにみえた。
「ちょっとここで休憩してこ」
「そうだね、結構疲れた」
二匹のキリンがのんびりと歩いている。
柵の中には大きいスペースがあるのに、お互いがお互いの近くにいて、離れようとはしない。
仲がいいんだろうな。二匹のメスのキリンをみながら、そんなことを思った。