楽しみな話
「デートに行こう」
町を歩くのにコートとマフラーが必要になったころ、真紀からそんな連絡がきた。
体だけは結構な回数重ねているけど、私たちは付き合っていない。
そういうことをしたからといって、女の子同士で付き合うものなのかもわからない。
言葉に流されるままやることをやって、私も嫌じゃないからそのまま続いてる感じだ。
それでも、真紀との時間はありがたかった。
夏、彼氏とのデートからしばらく、私は結構弱っていた。
だれもがあの強烈な嫌悪感を抱きながら生きているのか、
この先もこれに耐えながら生きていくのか、
自分にそれができるのか、いろいろなことを考えていた。
自分がマイノリティであるといううっすらとした確信を、見ないようにしながら時間を過ごしていた。
おそらく、私は恋愛感情や性的行為を前提としたこの社会でうまく立ち回ることができない。
嫌悪感があったのは相手が好きじゃなかったからだと自分に言い聞かせても、あの行為を受け入れられる相手がこの先も現れないという確信があった。
だって昔から、恋愛をしている友達が白痴にしか見えなかったのだ。
点と点がつながってしまった。そんな感覚だった。
そんなとき、自分に答えと受容を与えてくれたのが真紀だった。
自分がどういう存在であるかを教えてくれる存在は、ありがたかった。
少なくとも「普通」ではない自分が、なにものであるかという答え。それがあると人は随分と楽になる。その答えが正解だろうと間違いだろうと。
そう、私にとって真紀は、とにもかくにもありがたかった。
「どこにいくの?」
とりあえずLINEを返す。
「東動物園行かない?県民の日が無料なんだってさ」
「いいね。私あそこすき」
「おっけ。じゃあ当日現地集合ね」
現地集合というのが真紀らしい。
私たちは最寄り駅が一緒だ。高校の最寄駅もそこにある。
だから本来は、その駅から一緒にいけばいい。
でも、そうなると私が困るのだ。
真紀はクラスの中心人物で、クラスの中でそれほど私と話すわけではなかった。
個人間で話すことはあっても、同じグループではなかったという感じだ。
真紀は中心グループだったし、私はもうひとつ地味目な子で集まっているグループだった。
真紀の親友ポジションの子も、クラスに2人くらいいる。
だから、私と真紀が二人で動物園に行くのを目撃されたら、大変めんどくさいことになる。
親友を取られた女の子の嫉妬というのは、そこそこ以上に強いものなのだ。
彼氏にとられるなら納得ができても、私みたいな距離感の女に「真紀の隣」の座を取られるのは納得しないだろう。
私はそういう嫉妬を踏まないように生きてきたし、それを運んできそうな関係は常に避けてきた。
それを知っているからこその、現地集合なのだろう。
真紀はとにかく他人に関して持っている情報量が多くて、それをうまく扱う。
つまり、気が利くのだ。疲れないかというくらいに。
なんにせよ、真紀との動物園は楽しみだった。
真紀に「おやすみ」と送る。
今週末、服でも買いに行こうかな。