これから3
別に馬鹿になったわけじゃない。流された訳でもない。
ただ単に、一緒にいたかっただけだ。
それが代償なら、ちゃんと支払おう。
ルールにはそれなりに従う方だ。
いま、私はたくさんの未来を捨てた。
他の未来を保持しながら一緒にいられるほど器用ではないから、多分捨てたんだろう。
真紀はこちらを見ようとしない。
「どうしたの?」
「あのね」
「うん」
「あのね、これからお願いします」
顔を見せないまま、そっと呟く。
彼女の、自分が主導で動いていないときの弱々しさに笑ってしまう。
真紀がそっと体を寄せた。
私は二人の間にあった隙間が好きだった。
でも、真紀はそうじゃない。そういう違いを少しずつ埋めて、苦しんで、一緒になっていくのだろう。そうであってほしかった。
付き合ったとしてもやっぱり私は私で、普通の恋人みたいには欲しがれなくて、これからも真紀は少しずつ傷ついていくんだろう。それでも言葉で解決しながら、私たちは生きていけるんだろうか。
少女漫画のハッピーエンドのようで、それなのに私はまだ冷静だった。
お湯に浸かった足が温かい。
「ねえ加奈。ありがとう」
「こちらこそ」
「私がんばるね。加奈のことずっと、世界で一番分かってあげられる人になる。こうなったら、死んでも後悔させてあげないから」
「真紀がそういうと、なんでも実現できそうだなあ」
「頭いいからね、私」
「そうだね」
きっと大丈夫なんだろうなと思う。
北風が吹いて、真紀が私の肩に頭を預ける。
マフラーからはみ出した髪が、私の頬をくすぐる。
真紀が私に預けた体重がうれしかった。
無理しないで、頼ってね。
北風が吹いて、私たちはまた身を寄せ合う。
髪がなびいて、いつも彼女がやっているように、真紀の首筋にそっと歯を立てる。
生臭い味がした。
「加奈、無理はしないでね」
ああそっか。分かるんだ。私は私のために噛んだんじゃないって。
そっか。私はずっとこの子と生きていくんだ。
その時初めて、私は自然にそう感じた。
それは泣きそうなくらい嬉しくて、私はこのとき、生まれて初めて一人じゃなくなった。
二人で入る足湯は、温かくて、気持ちよくて、世界で一番幸せだった。