これから2
「真紀、ありがとね」
「うん」
言葉がふわふわと宙に浮く。
北風だけが音を運んできて、私たちだけがこの世界に残されたみたいだった。
「ごめんね。私、真紀といて辛くならない。ずっとうれしくて、ずっと楽しい」
「知ってるよ」
ぴんと張りつめた真紀はその言葉の意味をよく分かっていて、ただ遠くを見ていた。
「真紀は辛いの?」
「辛いよ、自分の嫌なところがどんどん見えてきて。同じ景色をみれないあんたにイライラして、それが理不尽だって分かってるからそんな自分にイライラして、小細工して、嘘ついて、好きな人を不幸にしようとして。私と一緒にこっちに来てって思っちゃう。レズなのに。そこら辺の男と一緒になった方が、私といるより絶対にいいって分かってるのに。私は感情的で、理不尽で、迷惑な女なんだよ」
「そんなことないよ」
「あるよ」
「ねえ真紀。私、あなたとずっと一緒にいたいよ。知らない男との未来なんていらない。私をちゃんと独占してよ」
多分それは、真紀にとって予想外の言葉で、私の決めたこれからの話だった。
私が自分で決めた、これからの話。
時間が止まったみたいになって、私は体が熱くなった。
「なんで?」
真紀が言葉を絞り出す。
「一緒にいたいからだよ。でも。傷つけてまで一緒にいたい訳じゃない。それならこれしかないじゃん」
選択できたはずのもう一つの未来を、私は口にはしなかった。
「加奈は頭いいじゃん。それがどういうことか分かってるでしょ?きっといつか、気の迷いだったって思う日が来るよ」
「そりゃまあそういう日も来るかもしれないけどさ、どんなカップルだってそれは同じだよ。この人は違ったとか、この人は将来性がないとか、そうやって別れてくんだよ。でも、最初からそれを前提に話すことはないんじゃない?少なくともさ、レズだからって理由で真紀を突き放したりはしないよ、私」
「社会は私たちに厳しいよ」
「レズじゃなかろうが、社会が私たちに優しかったことなんてないよ。自分に溶け込めっていいながら、溶け込むのを諦めた子を徹底的に排除する。あいつはずっと敵だ。でも私は溶け込むのが結構うまいから、一つくらい隠すものが増えたって大丈夫。安心してよ。レズの一つや二つ、抱えながら生きてやるよ」