これから1
その道のり、私たちは話さなかった。
一緒に最寄り駅に行って、一緒に電車に乗った。
だいぶ北上して乗り換えると、電車がボックス席になったので、ボックス席に並んで座った。
私たち以外には、部活の午前練習を終えたのであろう高校生がぽつぽつといるだけだった。
真紀の肩がときおり私の肩に触れて、真紀はどう思ってるのかなと考える。
嬉しかったりするんだろうか。それとも、案外もう嫌になっていたりしているんだろうか。私の体に触れることが。
彼女がどう思っているのか、その感情を知らない私には分からない。
窓から見える山間の川がきれいだった。
電車の暖房が暖かくて、少し眠くなる。
景色がきれいで、眠気が心地よくて、この子といる時間が好きなんだって、私はやっと理解する。
写真を撮りたいと思えないし、体を欲しがれない。一緒にいることで苦しんだりもしないけど、それでも私は真紀と一緒にいるのが好きだった。
でも、私はこれからを考えなければいけない。
この心地よさは多分、全部真紀が用意してくれたものだった。
気づかない間に優しくされて、甘やかされて。
真紀の好意を利用して、私が気持ちよくなってただけだった。
だから私は、これからを考えなければいけなかった。
電車がゆっくりと速度を落とす。
「ここの駅だね。降りよっか。加奈、眠そうだけど大丈夫?外、多分寒いから気を付けてね」
「うん、ありがと」
駅に降りると、全然人がいなかった。
テレビで紹介されていたとはいえ、冬も十分に深まったこの季節に、足湯につかりにくる人なんていないのだろう。
私たちの街よりも冷たい風が、マフラーの隙間を通り抜ける。
駅のホームにポツンと置かれている足湯があり、隣にある靴箱に靴をしまった。
おそるおそる真紀が足を浸し、白い息を吐きながらつぶやく。
「ほんとに寒いね。お湯から出られなくなりそうだなあ」
「そしたら、ずっとここにいようよ」
「死ぬまで?」
「それでもいいよ」
私たちの間にはこぶし一つ分ほどの隙間があって、それを埋めたいと思うのがきっと恋で、でも私は、その隙間も好きだった。
真紀の方をみると、真紀も私の方を見る。
「気持ちいいねえ」
「うん」
そういえばと言いながら、真紀が自分の鞄をあさる。
「家出るとき、来客用のお菓子持ってきといたんだ。加奈もお饅頭食べる?」
「お、いいね」
お饅頭、そんな賞味期限が長いものでもない。
たまたま家にあったのかもしれないけど、真紀が用意していたんだろうな。
両親がほとんどいないあの家で、お菓子を家に供給するのは真紀だけのはずだった。