表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女の子たちの話  作者: なす
11/16

つまらないこと2

真紀の部屋に入ると、机の上に赤本が開いてあった。

私たちは二人とも、大体どこでも行けるくらいには成績がいい。東大とか医学部とかは別だけど。

私は志望校の高望みをしていないので、このまま順当に固めていくつもりだ。


「勉強してたの?ごめんね」

「いいよ、飽きてきてたし」


そう言って大きく伸びをする。


「ね。どこいこっか。加奈から誘ってくれるの初めてだからうれしいな。つまんないこと、すっごく楽しみ」

「うーん一応考えてきたんだけど、寒い駅のホームでずっとしゃべってるのと、おもちゃ屋でおもちゃをずっと見てるの、どっちがいい?」

「それなら駅のホームかなあ。あ、この前テレビでみたんだけど、ホームに足湯がある駅があるんだよ?そこ行ってみない?」

「それいいね。楽しそう」

「楽しそうじゃダメじゃないの?」

「いいよ。二人で行けば、なにやっててもある程度楽しくなっちゃうもん」


そっか。そだね。真紀が小さく呟いた。


「どうする?乗り換え駅で待ち合わせる?加奈、高校の近くで私といるの嫌でしょ?」

「不倫旅行みたいだなあ」


色んな理由があって、私たちの関係はどこまでも後ろ暗い。

例えば私たちが男女で、付き合ったって公言したらこんなことはなかったんだろうな。


でも私たちは女同士で、私たちが付き合うことは普通じゃなくて、だから公言できない。

性的少数者への理解が進んでいるって言っても、学校という水槽でそれが浸透していると思えるほど、私たちは馬鹿じゃない。


普通じゃないということは難しい。なにをするにも説明しなきゃいけない。説明して分かってもらえるとも限らない。向こう側とこちらを隔てている硬い透明なガラスを、こちら側だけが認識している。

それは、私が真紀とこうなる前から感じていたものだった。恋愛に燃え上がる同級生を、私はずっと冷めた目で、馬鹿な酔っ払いくらいに思っていたのだ。それがずっと、寂しかった。


「私と真紀が男と女で、付き合ってたら一緒に駅にいけてたのかな」


それは、一番言ってはいけない言葉だった。

一緒にいて楽しい人の、大切な人の、一番もろい部分を私は的確にえぐったのだ。

今だったらそのことが分かるけど、このときの私は、彼女の見せた表情の意味が分からなかった。真紀の気持ちなんて、もう分かっていたはずなのに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ