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女の子たちの話  作者: なす
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そんなこんな

正直なところ、そういう嫌悪感が自分にあることが意外だった。



三か月前、初めて彼氏っていうのものができた。高校二年生の夏。

悪くない時期に作れたと思う。


これ以上遅くなると、受験勉強が本格化する。

受験と恋愛を両立できる保証はなかったし、今が罪悪感なく遊べる高校生活最後のタイミングだ。

三年になってから付き合い始めた人はみんな浪人したと、先輩も言っていた。


でも、恋愛経験もないまま大学に行くのもなにか違う。

大学は自由が広がり、結婚相手だって見つかる場所だ。

そんな場所に、恋愛経験がないまま行きたくはなかった。

なんだって予習は大事だ。


そんな中、高校二年生の夏に告白された。

私はまだ、適切なステップを踏んでいる。

適切な時期に、必要な経験をつめている。

ひとまず安心って感じ。



彼氏と一通りの経験をつむつもりだった。

だから驚いたのだ。手を触れられた瞬間、全身に沸き上がった嫌悪感に。


水族館デート。

まあそんなもんかなあと思いながら、私は彼女をしていた。

先週買った服をきて、適当に話をあわせた。


イルカのショーを見て、きゃーなんて言って、たまに彼氏のほうをみてちゃんと目なんかあわせて。

ちゃんとデートができていたと思う。

そんなとき、彼氏が私の手をそっと握ってきた。

それは、虫の大群が足元から頭まで這い上がってくるような感覚だった。

頭がガンガン殴られているみたいに気持ちが悪くて、私の顔より下に向いている彼氏の視線が気持ち悪くて、息遣いが気持ち悪かった。


しばらくして、適当に理由をつけて別れた。




そんなことがあったのが、8月の話。

そして今、私は暖房のかかった真紀の部屋で裸になっていた。

「どしたの?疲れた?お茶持ってくんね」

こっちは疲労困憊なのに、元気いっぱいなのが腹立たしい。

「ありがと」

差し出された麦茶を飲む。もう冬の入り口なのに麦茶。

でも、いまは冷たいものの方がありがたい。

「ねえ真紀。なんで私を誘ったの?」

「今更それ聞く?体がエロいから」

「まじめに聞いてるんだけど」

「まじめな話だよ。私みたいなナチュラルボーンレズにとってはね。それに、あんたレズだろうなって思ってたから、中学のときから狙ってたのよ」


真紀は私をレズだと思ってた。私は自分をそうだとは思っていなかった。


「レズではないんじゃない?」

「私とやってるじゃん。男には手を触られるだけで無理だったのに」


麦茶を低いテーブルに置いて、真紀のベッドに横になる。

先ほどの行為の残り香が鼻をくすぐる。


「真紀はよく知ってる友達だし。顔もよく覚えてないあいつとは違うよ」


真紀は大笑いした。口を大きく開いて笑っているのに、それでも顔がきれいで腹が立つ。


「普通の人は友達とこういうことしないよ。あんたさ、男の人みてかっこいいなって思ったことある?好きになったこともときめいたこともないでしょ。一般的な女って、中学くらいまででそういう風になるらしいよ」

「それを言うなら女にだってときめいたことないよ。そのうち誰かにときめくんでしょ。きっと」

「ほんとにそう思う?そうなった自分を想像できる?」


できない。


「いま、あんたについてわかってることは3つだけ。あんたは人を好きになったことがない。あんたは男に触られることが無理。あんたは私とやりに家に通ってる。立派なレズだよ」

「最後については、あんたが呼び出してるんでしょ」

「でも来てくれてるじゃん」


こんなことを言っていても、顔がいいとそれだけでかわいい感じになる。ずるい。

えいやと言いながら、真紀もベッドで横になった。顔が近い。真紀の体温を感じる。


「困るんだよ。いきなりレズだって言われても」

「困る?」

「私ってさ、顔も頭も容量もいいじゃん」

「うん。しかもエロい」

「だからさ、普通の人ができることは普通にできるもんだと思ってたの。成長段階を普通に踏んでいって、普通に人生をまっとうできるって。でも、レズじゃ普通の人生を生きれない。男の人と付き合えないし、結婚だってできない。子どもも作れない。そりゃ頑張ったり、理解してくれる人をみつけられればできるのかもしれないけど、それって『普通』じゃないじゃん。ここまでうまくやってきておいて、いきなりそんなところでダメですって言われても、困るよ。ほんとに困る」


真紀の手が、私の顔に触れる。


「私はナチュラルボーンレズだったからなあ。あんたの気持ちはわかんないや。保育園のときには女の子が好きだったし、小学校の時には自分がマイノリティで隠れて生きていかなきゃいけないってわかってたから」

「うん」


「でもまあさ、いいんじゃない?適当にやることやって、楽しくって、気持ちよくて。私たちには、それしかないんだから」

「うん」

「あんたはさ、女とやりたい思ってるレズじゃないから、いつか私が不要になるんだと思うよ。理解してくれる男の人をみつけて、いい感じに幸せになっていくんだと思う。私だって、高校出たら東京行って、体の相性がいいレズみつけて楽しいレズ生活を送るんだよ」

「うん」

「だからさ、今を適当にやり過ごしてこ。少なくとも、いまあんたのことを分かってあげられるのは私だけなんだから」


優しくて、暖かくて、ずるい言葉だった。責任なんてどこにもない。でも、居心地がよかった。

少なくともあの男とのデートよりもずっと。


きっと色んなことがダメになっていくんだろう。普通の人から離れていくんだろう。でも、今はもう少しここにいよう。そんなことを思いながら、シーツに顔をうずめた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] しっとりした雰囲気の文章がすごく好きになりました。
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