第10話 「幻の最終回、建田さんと僕」(エピローグ)
……というのが、僕が今日の朝起きて、全部イチから考えたデタラメです。
芥川賞に二回もノミネートされてる放送作家の建田さんや、女の股間をまさぐりながら、僕に作家の何たるかを教えてくれた師匠や、ガンギマリになった僕の姿を見てドン引きした、喫茶店『KaWA・KaWA』のウエイトレスは、この世界には存在しません。
100歩譲って、建田さんはいいでしょう。ですが、日本の将来を決める上流階級のサロンでの密談や、天啓を得ておかしくなった後の僕の行動を、「もしかしたら本当の話かもなー」と思ったら、君らはちょっと、なろう小説の読み過ぎだと思います。少なくとも、相場には向いていません。
闇人妻の杜は、エンタメ志向のフェイク・ドキュメンタリーです。ですが、私小説タグが付いてるせいか、【本当の話】と思われる事が、とても多い。色んなことを、一生懸命調べてリアルっぽく書いているのに、「そうはいっても、いくらかは本当の事もあるんでしょ?」って、よく言われます。
「ならば、徹頭徹尾100%大ウソの話を、何の下調べもせずに一日で書いて、どれくらい読者を嵌められるか試してみよう。勿論、ちゃんとエンタメとして成立するクオリティで」
それが、この最終回における僕の狙いでした。だから、読者に嘘だと見抜いてもらわなきゃ困るんだけど、いきなりバレてもつまらないから、前半戦は極力真面目に書いたんです。でも早い人なら、前編のうちから大ウソだと気づけたと思います。VIPルームは勿論の事、兜町にマ〇クはないですし。
そもそも、僕はこの外伝を【堅気の人が、相場で損しないように】ために書いてました。物語なら、「嵌められたー!」で済むし、それが快感でもありますが、リアルな相場ではお金が減ります。下手したら、借金まで抱えてヤクザに追い込みかけられます。あの世界には、倫理観の欠如した、僕みたいな大嘘つきが大勢いるんです。
大丈夫。始めなければ、損をすることはありません。相場はとても楽しいものだし、うまくやれば儲かることもありますが、その二つが両立することは、まずありません。僕はそのことを骨身に知ってます。
たかだか金を得るために、楽しくないことをするのは馬鹿げたことです。そして、楽しい事のために、自分の身を持ち崩すのはもっと馬鹿げたことです。娯楽でやるなら、もっと健全でお金のかからない遊びが、この世界にはいっぱいあります。だから、他人を疑う事を知らない人、人生を最後まで楽しく生きたい人は、相場になんて手を出さない方が良いんです。
僕自身は相場が大好きだし、一生張っていくと思いますが、その事だけは自信を持って言えます。だから、妻子のある人とか、美しい心を持ってるなあって人には、「相場なんて止めた方がいいよ」って、いつも言うんです。
僕とアケミは人間的には似てるけど、作品中で起こってる出来事は全てフィクションです。僕の相方は、物語を愛せとは言ったけど、物語と現実を一緒にしろとは言ってない。この物語を最後まで読んでくれた貴方が、ジャス子のようにならないことを願っています。
「幻の最終回、建田さんと僕」(おしまい)
面白かったら、闇人妻の外伝を読んでみてくださいね。




