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Personal Distance - ぼくたちのキョリ

今朝も自転車に乗り、最寄りの駅まで向かう。

いつも乗る電車、あの娘がいつも乗っている。


間に合った。

自転車を駐輪所に置き、いつもの電車に乗る。

あの娘も列に並んでいる。

僕はあの娘の乗る車両とは別の隣の車両に乗る。

あえて一緒には乗らなかった。

普通に話ができればよかった。

だけど、あの娘と喋るのはどうも気まずかった。


高校受験、あの娘と一緒に同じ高校を目指した。

だけど二人とも、志望校に落ちてしまい、

二人とも滑り止めの高校に通うことになった。

僕は男子校、あの娘は女子校。

二人とも、学校内では恋愛に縁遠い生活になった。

だけど、僕とあの娘は付き合うこともなかった。

高校生になってからはむしろ、疎遠になってしまった。

どちらからも、距離を近づけようとはしなかった。

とにかく気まずかった。


二人、同じ電車なのに、別々の車両に乗り、別々の学校に向かう。

少しでも近づこうとはしなかった。

ただ、お互い近づけないまま、同じ距離を保ったまま、

高校生活を過ごしてしまった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ある日、僕はこのままではいけないと思い立った。

高校2年の秋になる頃だった。


あの娘と距離を近づけるか、それとも、別の女の子と新しく始めるべきだ。

とにかくそう思った。


僕は後者の道を選んだ。

自分の気持ちを確かめようと思ったからだ。


あの娘と距離が近づけないのも、

僕にその気がないからだと思った。

あの娘もそうだろう。


だから、別の女の子と新しい恋愛をすることで、

あの娘のことなんてどうでもよくなるんじゃないかと、そう思ったのだ。


女友達に、誰か女の子はいないか、紹介してくれと頼んだ。

そうすると、ちょうどその女友達は、別の高校の女子を紹介してくれると言ってくれたのだった。

早速、その女子と会ってみることにした。


なかなかかわいい子だった。

愛らしく、小顔で、小動物みたいに甘えてくる子。

正直、女性が男性に媚びるというのはあまり好きではなく、

強く自我と信念を持った女性に憧れる僕ではあるが、

そんなポリシーもよそにかわいらしかった。

割と向こうもその気で会ってくれたようで、

すぐに付き合うことになった。


お付き合いを始めたとはいえ、

お互い別々の高校で、しかもバイトもしておらず少ないお小遣いのやりくりで過ごしていたので、

会ってデートするのは月に一、二回にとどまった。


ショッピングに行って服を見たり、

映画館に映画を観に行ったり、

水族館で魚を見に行ったり、

遊園地で観覧車に乗ったり、

デートは作業のように一つ一つのノルマをこなしていく感じだった。


もちろん、性行為もした。

お互い初めてで、ネットでやり方を見ながら

とりあえず流れでやりきったという感じで、

1日、2日はそれなりに感動もありはしたが、

段々大したことでもないように思えた。

誰もが経験するようなことだと思った。


制服デートはしなかった。

高校時代に恋愛をしなかった人は憧れるらしいと聞く。

だが、制服は動きにくいし、何より街ゆく人にいかにも高校生とは思われたくはなかったからだ。

恋愛を通じて、大人の階段を登りたかったのだろう。

それでも登れる階段なんて、人生のステージの中でも大したものではないと後で思った。



僕が経験した初恋愛、

大した感動もなく、ただこなしたという感慨が強かった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



いつものように学校に通う。

今日もやはりあの娘は電車に乗っていた。

どうしてもあの娘が気になるけど、

彼女がいる手前、気にしていいのかわからない。


だけど。

今日もいる。

それはなぜだか安心感にも近い気持ちを与えるのだった。


いつもいてくれるあの娘は、

きっとこの先、僕とは違う道を歩んでいくだろう。

医学部に行きたいと言っていたのを覚えている。

僕は法学部志望だ。だからきっと交わることはない。


それでも、

あの娘と持つこの距離感は

その間にいくつものドラマを抱えて今ここにあることだろう。



はじめまして の距離

さようなら  の距離

また会う日までの距離

ごきげんよう の距離



永遠に交わらないこの二重奏は

明日も明後日も、二人の間の世界を開けたものにしているみたいだ。

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