それでも好きがある
猛烈な暑さと共にやってくるのは、なんて極端な天候、台風である。
「はい、現場の高安です!今、大分では猛烈な風と雨!!傘が、ああーっと!飛んでしまいました!!凄い風です!川もこう、見えますかね!?濁流となっております!!この台風は今、東に進み!明日には関西に行くでしょう!いやー、ヤバイです」
現場実況さん達が可哀想な台風さんの来襲。
大雨に暴風、地滑りなどなど。災害に巻き込まれないよう願いたい。そんな台風が急に、
「!ああーっと!なにやら、空が急に……日差しが出て来た!?どういう事でしょう、台風が我々の予測とはまったく異なった動きをしております!どこかへ向かっていきます!!」
広島県のとある場所に向かって、全てを清算するようにそこへ衝撃を与えたのであった。
大型の台風は関西、及び関東に行く事なく、消滅したのであった。
◇ ◇
そんな台風の予想できない行動と消滅が起きて、2日。
今は夏祭りの時期と時間。東京のお祭りに浴衣着用で友達と参加していた沖ミムラは、わざわざ遠くからやって来てくれた人物を見つけ、嬉しい声を出して、呼んであげた。
「あーっ!来てくれたんだ、広嶋くーん!」
「……………」
そんなミムラの声とは正反対に、恰好こそまともな夏衣装の男性浴衣であるが、物凄く元気のない男。この夏祭りへの参加そのものに、意義を申し立ててるような顔でミムラを見ていた。
「良かったー!今日は夏祭りを楽しんじゃおう!無事に晴れたわけだしね!」
「……俺、無事じゃないんだけどよ。”天運”のミムラ」
信じられない事であるが、2日前の台風の消滅には。この沖ミムラの隠された力、”天運”によるものであった。それがどんなものか、ミムラの口から。かなり見当違いな照れも出しつつ
「広嶋くんなら台風が消滅するまで、生きてると思ったよ。私が好きな強い人だしね!」
「止めろ。ふざけんな。俺はお前のそーいうところが好きじゃない」
「でもでも、夏祭りって大事じゃん!台風で潰れちゃったら可哀想じゃーん!私と広嶋くんの浴衣なんて珍し~い」
「こっちは台風がずーっと俺だけに直撃だったんだぞ。家は当然、壊れたぞ。台風が消滅するほどの威力ってのはな、核兵器が数百万本必要だと言われてるらしいんだ。俺1人だけだぞ。言う事あんだろ」
「うん!それでも死なない広嶋くん、ホントに強いね!!これからもよろしく!!」
「聞けよ!!一言、謝れよ!ごめんねっとか」
ミムラの”天運”は、あらゆる運を超越した運を手にしているが、絶妙なリスクがある。
それはミムラが好きになっている人に不幸や不運などが、吸い寄せられる事である。
「不運ってレベルじゃねぇよ。お前は自分に降りかかる災害を俺にぶん投げてくるんだぞ!」
「はいはい!お返しはりんご飴でいいよね!」
こんなのに好かれてしまった広嶋はかなり可哀想である。嫌いだ嫌いだって叫んでも、広嶋の好意ではなく、ミムラの好意で不幸が流れてくるため、まったく改善されない。
それに加え、世界的に見ても
「私や世界に起こる特大な不幸を、広嶋くんが受けてくれるから、広嶋くん以外はみんな幸せなんだよ!」
「しっかり言うな!」
「幸せじゃないなら、私の事を好きになって幸せになろー!なっちゃえ!私の彼氏に!」
「死よりも恐ろしい事が沢山起きるだろうが」
とてつもなく不幸に見舞われても、生き残ってくれる彼がいる方が嬉しいものだ。
そこで疑問がある。けれど、ミムラは知っている。
「ちっ………、ここまで来るのも、楽じゃなかったんだぞ」
「分かってるよー。わざわざ来てくれる事もありがとねー」
「ここまで礼を返してやる」
あーだこーだって、言いながら。もう元気が出て来た顔になって、構ってくれること。
ただ強いだけでなく、口はあーでも、行動はいつも優しい。
あんまりこっちは見てくれないが、こんな酷い目にあっても、こんな時期だからこその彼の願いもついでにやってあげる。
「甲子園は晴れだよな?暑さも抑えたか?」
「ばーっちりの晴れだよ。当日の暑さまでは分からないけどさ」
「俺にとってこの時期は、夏祭りより高校野球とプロ野球だからな。総じて、野球だ。3日目は甲子園に行くぞ。それと、投手が登板過多になる準々決勝の日取りで、雨を降らせろ!」
「そ、そこまで私の運じゃできないよ」
野球のためだけにそこまで背負い込める辺り、やっぱり好きなんだ~。
私、暑いの嫌いだし、野球は詳しくないけど。ペアの観戦チケットまで用意するなんて、優しい。
やっぱり、この2人がしっくり来ますね。