4話
竜王様…セオドア様視点です
「………っはぁぁぁあ…」
「珍しく緊張していらっしゃいましたね、陛下」
「…誰でも緊張するだろう、あんな美しい姫を前にしては…」
「それにしても真顔でしたよ。ま、が、お!」
「ぬぅ…」
自室のソファに沈み、熱く火照る顔を仰ぐ。メイドのジュリアが冷たい水を渡してきたので一気に飲み干した。こんなに緊張したのは何年ぶりか…隣のメイドの声をシャットアウトして記憶を辿る。
あの揺れる白銀の髪に、白く透き通るような柔肌。幼く繊細な雰囲気を漂わせるあの娘に触れることすら気が引ける。触れたら壊してしまいそうで恐怖を覚える。自分の鋭くとがった黒い爪を見つめていればジュリアが溜息をつきながら呟いた。
「それにしても挨拶だけして帰れなんてきっと傷ついたでしょうね、リュエシア様は」
「……だかあんなに幼い身体で遠いメンシュから来たのだ、疲れているだろうと思って…」
実際はあれ以上見ていたら自分がおかしくなりそうで帰らせたのだが…いや、もちろんそうは思っていた。建前に過ぎないことくらいは自覚している。
「ロリエから聞いたのですが連れてきたメイド以外を払って自室に篭もってしまわれたそうです。すこししたら出てきたらしいですがそのメイドのそばから離れないそうで」
それを聞いた瞬間さっと顔が青くなり項垂れた。早々やってしまった…頭の中で今後どう対応するかと考える。だが、きっと、あの繊細であろう彼女に不器用な私が何をかけても傷つけてしまう気しかしない。
「………はぁ…」
「ふふ…相変わらず不器用ですねぇ」
「うるさい」
確かに、この不器用は悩みものだ。今までは分かってくれる者ばかりだったから苦労していなかったが、未来の妻に初対面から不器用を発揮し傷つけるなんて以ての外だ。部屋で泣いていないだろうか、だとか私のつがいになるのが嫌になってしまっただろうか、などブツブツと呟いているとドアのノックの音が聞こえた。
「兄上、入ってもいいか?」
「…構わん」
扉を開けて入ってきた弟…疲れ果てた顔で部屋に入ると私の膝に倒れ込む。ずももも…と黒いオーラをまとっているのできっとどこかでつがいの悪口でも言われたのだろうか。とりあえず彼女のことを考えつつ弟…アドルファスの柔らかな髪を撫でた。
ジュリアはすん、といつもの真顔に戻り後ろに佇んだ。
「リリアーナのことを赤毛の売女なんていいやがって…クソが…」
「リリアーナはどうせ気にしていないぞ。そんなことよりお前の帰りが遅いのを心配していた」
「今日は日が落ちる前に帰るからな」
「ペース上げろよ」
「わかってるって…それより兄上、つがい…あー、確か、メンシュ国のご令嬢だったよな。どうだ?」
「……聞いてくれるかアドルファス…」
アドルファスが立ち上がりソファに座る。次は私がソファに移りアドルファスの肩に頭をのせ、悩みをこぼした。彼女が不安がっていないか、泣いていないか、私を嫌ってはいないか…
「子供の頃から不器用だよなぁ、兄上…だが相手はまだ5歳の子供だろ?そんな心揺らいだのか?」
「彼女の美しさについ、な…あの白い肌にアメジストよりも美しい紫の瞳、輝く銀の髪を見れば…例え、相手が幼子でも心なんてすぐ揺さぶられるぞ。…彼女が大人になるまで待てないやもしれん…」
今でも思い出しただけで動悸がする。大の大人でも相手が5歳だと侮っていたら直ぐに彼女の美貌に酔いしれるだろう。現に私がそうだ。5歳であれならば、育ったらどんなに美しくなるのだろうと、期待とともに恐怖を覚える。はやく、つがいの印をつけなければ…
「へぇ…兄上がそこまで言うなんて興味湧いてきた。今度暇があったら見てみるかな。」
「あぁ。良ければだが様子も伺ってきてくれ、怖がってないかだとか…」
そう言えば呆れたように小さく溜息をつき手をひらひらと振った。
「はいはいわかった。ちゃんと報告するから安心しろよ兄貴」
「あぁ。…それと好みの何か…なんでもいい、食べ物でも服でも宝石でも…聞いてきてくれ。直接じゃなく、お付のメイドで構わんから…」
そう言ってアドルファスの服を掴めばぱっと払われる。
「それは自分で聞け、本人じゃなくていいなら尚更だろ。」
「……わかった…」
流石に、ここまで弟に頼る訳にはいかないな…。
確か、金髪碧眼の娘だったな。彼女が連れてきたメイドは。
「あのメイドはアリスという名前です。」
「わかった」
次回はメリリースちゃん視点に戻ります