3話
メンシュ国を発って2週間が経つ。ゴトゴトと揺れる馬車は揺れも少なくなっていて、地面が舗装されていることに気がついた。やることも無くてぼんやりしていたけど、外を見ればメンシュ国とは違う風景が広がっていた。
「わ…」
連なる山々に空を飛び交う大きなドラゴン。遠くにはキラキラと輝く海が見えた。馬車の窓を開けて顔を出して前の方を見れば、ドラゴニュート国を囲む高くそびえる壁があり、ドラゴニュート国の国印が刻まれていた。
「大きい……っきゃ、」
その壁を潜った瞬間ぱっと色とりどりの花や葉が散った。大きな歓声とドラゴンの鳴き声が行き交い、次々にまた花葉が散っている。慌てて外を見ればドラゴニュート国の国民であろう、老若男女皆が笑顔で私たちを出迎えてくれた。私の目のあった人々は皆輝くような笑みを浮かべている。どうやら歓迎してくれているようで、緊張がいくらか解れ、ぽふん、と椅子に座り直した。
そのまましばらくして、ドラゴニュート城に入城したのだったー
「メリリース・リュエシアと申しますわ。これからよろしくお願いします」
「王妃専属メイドのロリエ・ルワードと申します。ロリエとお呼びください。王妃様、長旅おつかれでしょう。湯浴みで体を休めましょう」
ついて早々、王妃専用の部屋に案内された。王は今不在らしく、ただ昼には帰ってくるだろうとのことなので、先に身支度を終えてしまおうということらしい。
メイドのロリエさんは黒髪と緑の瞳の、いわゆるクールビューティだ。上の方にきゅっと結んだお団子と、目尻のほくろ、黒縁メガネがどことなくお色気担当かな?という雰囲気を漂わせる。ぱっと見た感じ胸は結構大きめだ。あれくらい私の胸も育ってくれたらなぁ、とまだ成長する前の胸を見つめた。
「どうかなさいましたか?」
「いえ、……まだ王妃ではないので、リュエシアかメリリースと呼んでください。ドラゴニュート王と結ばれた時にお願いします」
「…かしこまりました。ではリュエシア様、こちらに」
少しの間、ロリエさんは目をぱちくりさせたかと思うと、先程までの真顔とは打って変わって柔らかな笑顔を浮かべた。
「リュエシア様。失礼ですが、お歳は…」
「5歳です。来年で6歳ですね。」
「5歳でその立ち振る舞い…きっと、将来は聡明な方にお育ちになりましょう」
「そんなこと…その、お母様に教えられたんです」
「なるほど…」
そんな会話を湯浴みをしてもらっている間続けていた。そのあとは髪を乾かし、豪奢なドレスを着せてもらう。ルビーの散りばめられた、真っ赤なベルラインのドレス。後ろのリボンから垂れる長いリボンがひらひらと揺れて可愛い。
「よくお似合いです〜〜〜」
「あ、アリス。いままでどこにいたの?」
いつの間にかアリスが私の髪をセットしていた。後ろを振り返れば、ロリエさんと同じメイド服のアリスが笑っており、髪もいつも以上にきっちりセットしている。いつもは二つ結びだが、
「お嬢様のお荷物を下ろしてたんですよっ。そのあとこのドレス見繕ってましたぁ〜」
「……あの、リュエシア様?こちらの方は…」
不思議そうにアリスを見つめるロリエさん。アリスはにこっとロリエに微笑む。
「お嬢様のお付のメイドのアリスですぅ。見知らぬ土地と見知らぬ人々にお世話をされるのは不安を覚えるんじゃないか、というご主人様のご好意と一人は寂しいから着いてきて?というお嬢様のお願いで着いてきましたぁ〜。よろしくお願いしますねっ、ロリエさんっ」
「…王妃専属メイドのロリエ・ルワードですわ。よろしくお願いします。」
ロリエさんはそっとメイド服の裾を持ち上げお辞儀し、にこりと微笑む。アリスもまた、それに合わせて微笑んだ。美女と美少女が微笑み合う絵になるような後継のはずだけどブリザードと稲妻が走ってる気がしてならない。
「…えっと、ロリエさん、アリス、チョーカー…選んで欲しいんですけど……」
「あっ、こちらになりますねぇ〜。さ、お付けしますよぉ」
「うん」
髪を手で抑えてチョーカーをつけてもらう。今日は黄色い宝石が散りばめられた赤いレースのチョーカーだった。
「つい先程王がお帰りになったそうなので行きましょ〜」
「うんっ」
「案内致します。こちらへどうぞ、リュエシア様」
「はい。アリスも着いてきて」
「かしこまりましたぁ」
ロリエさん、私、アリスの順で廊下を歩く。ロリエさんもそうだったけど、ちらほらと見かけるメイドや執事達はとても美しい。儚げだったり、筋骨隆々だったり、細身だったり、中にはでっぷりとした体の人もいる。なのに全員美しいと思える容姿だった。私は人の中での見た目は上の上だと思っているが、ちょっとその自身もなくしそう。
「…こちらになります。ここは王族とその伴侶のみ立ち入れる部屋ですので、使用人等はここまでになります。」
「…わかりました、ここまでありがとうございます。アリス、またね」
「ここでお待ちしてますねぇ」
ロリエさんが扉を開ければ、カウチが2つ、長テーブルが1つ、その他諸々の家具が並べられていたが一際目立つのが奥のカウチにすわる1人の男性。今まで見た中で最も美しい人だった。それと同時に、本能的な恐怖が私の体を襲った。逆らったら死ぬ、なんて思えた。
「おはつめに、おめにかかります。メリリース・リュエシアです」
「セオドア・オスカー・ドラゴニュートだ。慣れない長旅で疲れているだろう。早く部屋に帰るといい」
「、………はい」
あっさり、会話も何もせず部屋にもどれと、言われた。言われた通りに部屋を出て、廊下を歩き、与えられた部屋に戻った。ロリエさんに人を払うように伝えて、アリスだけを部屋に残してもらった。
「……お嬢様、いつもの元気はどうしたんですかぁ?らしくないですよぉ」
「……んー…その、…私って、子供産むためにここにきたんだって、思って」
「…はい?」
心底自分のことを馬鹿だと思った。実は、少し期待していたのだ。もしかしたら好いてくれるかもしれない、愛してくれるかもしれない、漫画のように、運命の人に一目惚れ、なんて。そんなことなかった。
彼の瞳はただただ黒く、なんの感情もなかった。見定めも、興味も、好意も敵意も悪意もなにも。私の幼い部分が、すっかり震え上がっていて、声を出すことすら難しかった。
「王様とね、お話すら出来なかったの。挨拶したら、部屋に戻れって。気を使ってくれたのか、こんな子供と話すことなんてないと思われたのか、わからないけど。」
「きっと気を使ってくださったんですよ。お嬢様はまだまだ子供で儚げな印象なんですから疲れたらそのまま死んでしまいそうですもん」
「あはっ、見た目は、でしょ?」
「そうそう見た目が。中身は案外図太いですもんねぇ」
「今その図太さは消え去ってるけどねぇ」
「あらら」
でもアリスと話したおかげでちょっと元気になった。
「とりあえず王様に言われたとおり、疲れてるし少し寝たい…」
「それじゃあお着替えしましょうねぇ」
重いドレスからぱぱっとネグリジェに着替えさせてもらい、布団に潜る。柔らかくてふかふかなお布団とぽんぽんとアリスがあやしてくれるので、すぐに私は眠りに落ちた。