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1話

「……んー…」



 あ、なんか、修学旅行のホテル泊まった時の感覚だ…。ふわふわで、なんかいい香りがするお布団。…あ、それ以上かも。このふかふかはあかん……



「メリリースお嬢様、起床のお時間ですよ」


「………めりりーす…ぅ…?」


「まだ微睡んでらっしゃいますの?さ、扉の前で坊ちゃんがお待ちですから、はやく支度してしまいましょう?」


「……ん…」



 のそりとベッドから起きあがり、いつもの様に服を着させてもらって…あ、今日は真っ白なワンピースだ…レース可愛い………うん?


 鏡に映ったのは見知らぬ少女。…いや、知ってる、はずなんだ。なんだか、変な違和感がある。朝日に反射して眩しいくらいに輝く白い髪。……あ、ほんのり黄色?瞳は紫。そんなの当たり前、知ってる、……いや、私は、誰?メリリースって、もちろん、私の名前。…でも、琴葉、っていう名前も、私の名前で…あれ?



「…め、めりっさ…」


「どうかなさいました、お嬢様。怖い夢でも見ましたか?」


「………」



 メリッサも、知ってる。黒い髪をお団子にして、黒縁の眼鏡に青い瞳。ちょっと怖そうな見た目だけど、とっても優しいのは知ってる。この屋敷のメイド長で…いつも朝、私を起こすのはメリッサの役目で…あれ?いつも起こしてくれたのはお母さん…お母さん?お母様?リリーお母様は朝ごはん、…あれ?あれ??



「………………だ、い、じょうぶ…あのね、変な夢、見たの」


「まぁ、どんな夢です?」


「……灰色の、たてものがね、たかくて…銀色とか、赤色とか、いろんな色の…四角が道を滑ってて………猫をね、…助けたら…あれ?」



 なんか、ぐちゃぐちゃになって上手く言葉にできない。多分、きっと、ラノベとかにある、異世界転生だ。ラノベ?ラノベ、うん、わかる。多分、この誰かの記憶が…この体の子の記憶と混ざってるんだ。うん?この身体?私?…うーん、まぁ、大丈夫でしょ。後で整理しよう。



「不思議な夢ですねぇ…」


「………ことは…」


「コトハ?」


「…ううん、なんでもないの。はやくお兄様のとこ、行きたい」



 扉に目を向ける。きっと、いつもの様に扉の横の壁に寄りかかって、私の支度を待っているんだろう。待たせちゃ悪いし、早くしなきゃ。



「ふふ、それでは御髪を梳かしますから…」



 丁寧に丁寧に髪の毛を梳かされる。髪にはちょっとした自信があるのをメリッサは知っているから、特別丁寧に整えてくれる。今日は毛先を緩く巻いて、頭の後ろに服とお揃いのレースのリボンをつけてくれた。



「さ、坊ちゃんがお待ちですよ」


「うんっ」



 メリッサが扉を開けてくれれば穏やかな笑みを浮かべたお兄様が迎えてくれた。……こうしてみると、本当に美形だなぁ…顔はお父様そっくりなのに雰囲気はお母様そっくり。ほんわかしてる。



「おはよう、メリー」


「おはようございます、お兄様」


「お母様もお父様も待ってるよ。早く行こう」


「はいっ」



 綺麗な細い手が私の小さた手を優しく握ってくれた。ごちゃごちゃになってた頭も、少し霧が晴れる。

 お兄様が食事部屋の扉を開けると、いつもの席に座っているお母様とお父様…の様子がおかしい?



「…………」


「………………りりぃ…」


「諦めなさい、陛下と他国の王からの命よ。」


「……だよなぁ…」



 あれ、なんかすんごい空気が重い…



「………お父様?お母様?」


「どうしたんですか、お父様?なにかあったんですか?」



 いつもの甘いマスクがくずれて、目の下にうっすらと隈が出来ている。こんなお父様初めてだ。いつでも明るいお父様が…



「……まさか、お父様、メリーのつがいが見つかったんですか」


「……つがい…ぇ、?…ぁ…」



 ぽたりとお兄様の顎から汗が垂れた。私の手を握る力が弱まったり、強くなったりしている。

 そうだ、私、5歳の誕生日にΩだってわかったんだ。もしかして、私のつがいが碌でもないやつだったりとか…?でも、そんな…



「……昨日の夜、王宮から伝達があった。メリーが……メリーが、」


「わたくしが話すわ。メリー、貴女はドラゴニュート国に嫁ぐことになったわ。」



 お母様が私の肩を優しく抱いて、教えてくれた。……まさかの、他国。しかも、ドラゴニュート国って確か…



「………ど、ら、…ドラゴニュート国ですか!?ドラゴン族の、あの、」



 珍しく取り乱しているお兄様を見れば、顔を真っ青にしている。え、そんなにやばい所なの…?



「……お母様、私、他の国の人のお嫁さんになるの?」


「そうよ。…ドラゴニュート国国王の、妻になるの。」


「…っ国王!?」


「っぃ、あ、おにいさま、いたい、」


「あっ、…ごめんね、メリー…」



 ぎゅぅっとお兄様の手に力がこもり、思わず悲鳴をあげればぱっと手が離される。汗ばんだお兄様の手と取り乱した様子は只事ではなさそうだ。……いや、実際只事じゃない。そうだ、私今5歳なんだ。5歳で、王妃にならなくちゃいけない…の?



「……とりあえず、わたくしと旦那様は急いで支度をしなければならないから、ルーと食事をとりなさい。終わったらお部屋に戻って、メリッサと一緒に必要なものと、持っていきたいものを選んでいて。」


「お母様、僕、…メリーと一緒に、必要なもの、選んでいていいですか」


「…いいわよ。それじゃあ…ウィル、行くわよ」


「あ、あぁ…メリー、ルー、夜には帰ってくるから。」



 お父様はそう一言残して部屋を出ていった。広い広い食事部屋は酷く静かで…



「………お兄様、ご飯…食べませんか?」


「…そう、だね。そういえば聞いてなかったけど、僕も一緒に荷物まとめ、してもいい?」


「はいっ」


 いつも面白いお話をしてくれるお父様がいないから、食事を始めても微かなフォークとお皿のぶつかる音しか聞こえない。なんだか、いつも美味しいご飯もあんまり味がしなかった。

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