「2」たす「2」の「4」
今日は七夕!
ということで、『夏』を取り入れて書いてみました。(七夕どこ行った……)
この作品は他シリーズとは一切関係無い、完全短編です。
いろいろと推測や妄想しながら読んでいただけたらな、と思います。
「おーい、遠藤ぉ!」
前田がこっちこっち、と手を振っている。
待ち合わせ場所には、もう俺以外の三人が揃っていた。
「遅い。何してたのよ。」
ピンクの浴衣、くるくるに巻いた髪。言ってしまえば、少しギャルっぽい。同学年の花道だ。
「迷子にでもなってたのか?」
甚平、だっけ?和風の男用の着物みたいなやつを着ているこいつは前田。
俺たち三人は幼稚園からの幼馴染みだ。毎年こうして、夏祭りの日になると集まって、一緒に花火を見る。
そして今日はもう一人。
「まぁ、いいじゃない。さ、行こうよ!」
淡い水色の浴衣、整えられた黒髪。
高校に入ってからの花道の友達、城ヶ崎だ。
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「花火大会来るの初めてなのか!」
後ろから前田の大袈裟な声が届く。
「そう。だからね、今日はとっても楽しみだったんだ。」
城ヶ崎がふふ、て笑うのが聞こえる。
会場へ向かう途中、横にならんで歩くのは危ないから、自然と2列が出来上がる。前田と城ヶ崎が話始めたから、必然的に俺と花道が前に並んだのだが……
ちらっと左を見る。
「──何よ。」
ぷぅ、と頬を膨らませた花道は不機嫌そうに聞いてきた。
「いや、何も。」と俺は慌てて前を向いたが、そんなことどうでもいいというように、花道は何かぶつくさと唱えながら、早足で進んで行く。
花道は前田のことが好きなのだ。
きっと今まで着てこなかった浴衣を今年になって着たのは、今日にかけているからだろう。
「──え、本当?すごい!」
城ヶ崎と前田の楽しそうな声が聞こえてくる。
少し胸の奥がむずむずした。
でもそれは、花道のことを考えて、ではない。
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会場はすでにたくさんの人で溢れていた。
日が落ちて薄暗い中、提灯が赤々と灯る。
太鼓の音、屋台の声、ぬるっとした風。
ちょっと目眩がしたというようにクラリ。
「大丈夫、遠藤君?」
城ヶ崎が、心配そうに俺を見上げる。
「あ、だ、大丈夫……。」
城ヶ崎を見て、またクラリとしたなんて言えない。
「もう、何やってんのよ、あんたは花火始まるまでそこで待ってなさい。あ、由香、悪いけど遠藤見てあげて──私と玲二は少し屋台回ってくるから。」
半ば強引に前田を引っ張っていく花道。
城ヶ崎は、気をつけてね、なんて言って花道たちに手を振った。
俺は小さく拳を作って花道にエールを送る。
花道は気づいたようだが、無視してさっさと行ってしまった。
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ますます人が増えて、今度こそ本当にクラリと酔って仕舞いそうだ。
「ふぁああぁあ……」
城ヶ崎が片手を口に当てながらあくびをした。少し目が潤んでいる。
──何か話しかけなければ。
つうっと冷たい汗が首筋を通っていく。
「あ、暑いなぁ」
これが無難なはず。
「だね。」
終了。冬のような沈黙が訪れる。
祭りの喧騒に飲み込まれそうになる。永遠かと思われた沈黙。
──頑張れ、俺。
「そ、そういえばさ、城ヶ崎、花火好きなの?」
「え、どうして?」
城ヶ崎はびっくりしたというように胸元に拳を二つ作って、こちらを向く。
お、好感触。
「さっき前田と話してただろ?『楽しみ』って。」
胸の奥がズキッと痛む。まさか自爆とは……
それを無視して続ける。
「だからさ、『好き』なのかな、て……」
『何が』とは言えないけど。
「聞いてたの?」
「いや、違くて、盗み聞きとかじゃなくて!」
城ヶ崎がふふ、とイタズラっぽく笑う。
「好きだよ。花火も。」
そう言った後、城ヶ崎は片手で髪をいじりながら、少しうつ向いた。
「え?」
再びこっちを向いた城ヶ崎はいつも通りの笑顔で聞いてきた。
「遠藤君は、好き?」
たった二文字に脳内を埋め尽くされる。時間にして一瞬。しかし間違いなく俺の中でそれは永遠だった。
シドロモドロになって答える。
「……好き、だよ……」
「良かった!」
城ヶ崎は手をパチンと合わせて、
「一緒だね。」
てへ、と笑った。
胸の奥がまた痛んだ。
でも、さっきより心地よい痛み。
「ねぇ、遠藤くんは何の花火が好きなの?」
「え?あぁ、ええと……なんだろう。たぶん花火全般が好きなんだよ。」
「へぇ。私はね、線香花火が好き。ぱちぱちして可愛いでしょ?あと、夏が終わった、て感じがする儚さが好き。あれを見たら、諦めもつくの。」
そう言う城ヶ崎は、どこか寂しげに空を見上げた。
だから、元気を出してほしくって、あんなこと言ったんだろう。
「見れるといいな。」
「え?」
「え?、て……線香花火、見れるといいなって。」
城ヶ崎は一瞬、きょとんとした顔をして、その後すぐにあははは、て笑い出した。
それを見て俺が今何をいっているか理解した。
花火大会に線香花火は無い。
「あ、違う!ごめん……」
カッーと熱くなる。耳の先まで。
不思議そうな顔で俺を見ていた城ヶ崎が不意に笑って、
「ふふ……もう。でも、そうだね。」
また、空を見上げた。
遠くから前田が「おーい」と行っているのが聞こえた。
「今度、一緒に見よ?線香花火。約束だよ?」
「え?」
迫力ある破裂音。
花火大会の始めを表す大きな一発目。
続けて何発か花開く。
「わぁ、綺麗……」
城ヶ崎はもう花火に夢中だ。
「『綺麗』だな。」
『何が』とは言わないが。
こんばんは。ななるです。
この作品はフィクションです。自分の実体験にこんなキラキラしたものはありません……うう……
作中に『好きな花火トーク』がありましたが、自分はノーマルな手に持つタイプのが好きです。魔法使いになれた気分になれて現実を忘れることが出来ます……うう……
楽しんで読んでいただけたなら幸いです!