僕のお父さん 一条護 ②
「宇宙ステーション天岩戸との定時通信を開始、アマテラスシステム管制プログラムにアクセス」
「情報リンク完了、アマテラスシステム全機異常なし、エネルギー補充に問題なし」
「防空航空管制問題なし、アマテラスシステム周辺には民間機、軍用機共に存在せず」
「アマテラスシステム全機のリンク確認。照準誤差修正開始」
JAXA、種子島宇宙センターに併設されたアマテラスシステム管制センターは今日も定時通りの動きを開始することになった。私は一条、アマテラスシステム管理官である。
「よろしい、ではアマテラスシステム、定時起動に入る。副管理官、アマテラスシステムロック解除のプロセスに入るぞ」
もうひとりの若い男と共に右手には赤い鍵を持ち、二人して解除装置へ向かうことになった。
解除装置の青いパネルに左手を置き、右手の鍵を鍵穴に差し込めば、専用のスキャナーを覗き込む。
「一条管理官、村井副管理官のロック解除プロセス開始」
「網膜、指紋、掌紋、静脈、本人認証クリア」
「カウントダウン、3、2、1、解除。キーロック解除。最終セーフティ解除確認」
スキャニング装置で二人の生体認証をクリアすればアマテラスシステムオペレーターのカウントダウンに合わせて鍵を回す。二人同時に回さなければ最終セーフティは解除されない。後はこのままの姿勢を維持しなければならない。
「アマテラスシステム、エネルギー充填130パーセント、準備よし」
「ではこれより、アマテラスシステムを起動させる。アマテラスシステム、発射!」
アマテラスシステム管理センターセンター長の声が響く。唯一、センター長だけが持っているだろう鍵を回し、破壊が困難な強化素材のカバーの奥に封印されたボタンが解放され、それが押された。
人工衛星アマテラスシステム、JAXAが研究を重ねたマイクロウエーブ照射システムが衛星軌道上から地上の受信システムに一気にエネルギーを地上に向けて撃ち出したようだ。マイクロウェーブは地上の受信システムにより電力変換され、日本中へ行き渡る。複数機ある送受信システムは今日も日本中に電力を届けたようだ。
あの福島の原発を襲った東日本大震災。あれからの教訓は原発をなくせという世論へと傾き、大学が持つ実験炉規模の小さな物も従来以上の厳重な警備と監視にさらされることになった。
即時廃炉ではなく、段階的な廃炉を行うことを確約させられた電力業界であったが、それはすなわち、火力発電への移行と言う不安定なものへと変わってしまった。
そこで当時試験的にJAXAで研究されていたマイクロウェーブ照射受信システムによるエネルギー変換システムが候補にあがった。
人工衛星で太陽光発電を行い、地上に向けてマイクロウェーブに変換して照射、それを受信して再変換するシステムは効率的だが、同時に対地高出力電磁パルス砲ともなりえるシステムだった。
それでも原発をなくして昭和の石炭での火力発電での公害覚悟の生活か、電力を使わない生活か選べとゴリ押しされたためか、世論は反対派が減っていき、ついには過激な反対派ぐらいしか残されていなかった。
その過激な反対派へ対処するために核ミサイル発射システム並の厳重な管理センターが作られ、こうして毎日エネルギーを届けている。それもすべては息子たちの未来を作るためだ。