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何も見えない。

真っ暗な空間。身動きもとれない。匂いや音もしない。

温かい。丁度いい温度で妙に安心する。

--これが、死後の世界か。


俺は死んだ。いや、殺されたんだ。

思い返せばつまらない人生だった。

幼い時に両親が他界し、俺と妹は親戚の家に転がり込んだ。

妹は容姿も良く、親戚の夫婦にも可愛がられていた。

でも俺は夫婦のストレス発散の為に存在していた。

イラついたときに俺を殴ってストレスを発散する。

顔だとバレてしまうから身体だけに暴行を加える。もちろん妹には内緒で。

妹が幸せに暮らせるなら、それでもよかった。

だから、俺は友達を家に連れてきたことなんてない。

連れてきたりしたらまた殴られるから。

門限だって絶対に守る。

学校が終わったらすぐに帰る。

寄り道もせず、いつもの道を、いつもの時間に帰宅する。

付き合いが悪いからと友達もいない。

でも別にいいんだ。

高校を卒業したら一人暮らしを始めて自由になれるから。

だから同じことの繰り返しの毎日でもよかった。

でも、数時間前に事件が起きたんだ。


§


俺は学校が終わってすぐに帰路についた。

いつも通りに何も考えずに帰るだけ。

先に見える角を曲がれば家が見える。

残り数歩で角を曲がるところで、女性の悲鳴が聞こえた。

俺はすぐに動きだし角を曲がって家の方へと駆け出した。

なぜなら、聞こえたのは妹の雪の声だったから。

数十メートル先に家の玄関が見えるが、玄関の扉は開いたままだった。

すぐに家まで走り玄関を見ると、叔母が首から血を大量に流して倒れていた。

目には生気が感じられず、目は俺を見ているようだった。

胃から込み上げてくるものを必死に飲み込み、ゆっくりと玄関へと近づいていく。

倒れた叔母によって扉は開いたままになっており、辺りは血だらけになっていた。

叔母を避けながら音をたてないように家へと入る。

おそらく強盗かなにかだろう。

刃物などで首を切られているようだった。

玄関に置いてあった叔父のゴルフクラブを手にとり、ゆっくりと侵入していく。

玄関を入ってすぐ目の前に階段があり、その階段には血の足跡が残っていた。

足音を立てないように階段を上り始める。

階段横のリビングの扉から、叔父らしき人物の足が見える。

周りには叔母と同じように血で溢れており、おそらく叔父ももう死んでいるだろう。

ゴクリと唾を飲み込み、ゆっくりと、ゆっくりと上へと進む。

あと少しで上りきるところで、雪の声が聞こえた。


「やだ。来ないで」


怯えた雪の声が聞こえた。

俺はすぐに雪の部屋へと駆け込んだ。


部屋の中には、包丁を持った男と、その先の壁にへたり込んでいる雪の姿が。

男が振り向こうとした時、俺は持っているゴルフクラブで男の頭を殴った。

男は殴られた勢いで左へと倒れた。

そのまま起き上がってこないか少し様子を見て、すぐに雪の元へと駆け寄った。


「雪! ケガはないか?」

「お兄ちゃん。叔父さんと、叔母さんが……」

「わかってる。もう大丈夫だ」


震えた雪の身体をそっと抱きしめ、「大丈夫。大丈夫」と声をかける。


「お、お兄ちゃん。後ろ……」


すぐに振り替えると、男が包丁を握りしめて起き上がろうとしていた。

まだ意識があったようだ。男は頭から血を垂れ流しているが、動けるようだ。

咄嗟に俺は男を押さえつけようと身体を投げ出した。


その時、男が付きだした包丁が俺の腹へと突き刺さった。

喉の奥から熱いものが込み上げてきて、口から血を吐き出した。


「ぐっ。この野郎」


意識が飛びそうになりながらも俺は腹に突き刺さった包丁を抜いて、そのまま男の喉元へと突き刺した。

男の口と喉から大量の血が出てきて、俺の顔にも吹きかかる。

男はすぐに動かなくなった。

力が入らなくなった俺は、男の横へと倒れこむ。


「お兄ちゃん!」


倒れこんだ俺の元へと雪が寄ってくる。


「雪。もう大丈……ゲボ」


口からどんどん血が溢れてきてうまく喋られない。


「お兄ちゃん! やだよ。死なないでよ」


だんだん意識が遠のいてきた。

もうここで死ぬんだというのが感覚的にわかった。

雪が無事そうでよかった。

苦しいはずなのに俺は微笑んでいた。


「雪。ごめんな、こんな兄ちゃんで」

「なんでそんなこと言うの!? やだよ! お兄ちゃん!」

「ゆ、雪ならきっと大丈夫だと思うから。元気でやっていけよ。へへっ」


雪の目から流れる涙が、俺の頬にポタポタと落ちてくる。

雪がまだなにか喋っているが……聞こえない。

だんだんと目の前が見えなくなってきて、俺はそのまま意識を失った。





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