櫻桃ノ籠ハ鳥ヲ隠ス (1/1)
回廊に響くは靴の音。
「……短命 咲儚 華」
紡がれるは妖艶な詩。
短命 咲儚 華
解放 眠 籠鳥
其 則 終焉 鳥
不在 時 告終
靴音は、一つの扉の前で止まる。
扉の前に居た二人の衛兵が拱手し、ゆっくりと扉を開けた。
開けばそこは、豪華絢爛な一室。
中央にあるは玉座なるもの。
その通り道には、左右に一人ずつ、片足をつき、拱手の姿勢を取るようにして男女が侍る。
その間を、彼は詩を紡ぎながら通ってゆく。
焉 鳥 出自籠
其籠 終 役目────
「枯木の如く朽ちる籠、か」
詩の最後に、ぽつりと呟いた。
彼は玉座に腰を下ろし、侍っていた二人を見下ろす。
「桜は無事か?」
「はっ、先程目覚めたとの報せが御座いました。そのうちお会い出来るかと」
滑らかな、それでいて威厳のある声での問いかけに、拱手をしながら男性が答える。
同時に、女性も口を開いた。
「既に手筈は整っております。いつでもお申し付け下さいませ」
「そうか」
二人の言葉を聞いて満足したのか、彼は嗤った。
「では命ず。子桓、そして神流よ。
桜の鬼を──この曹孟徳のもとへ連れて来い」
「「はっ!」」
玉兎明かりに照らされるは、鄴の都。
〝最初の鬼〟が動き出す。
───────────────
最初之鬼。
彼 為 紡、終焉之詩 焉。
為 解明 六華之謎、要 物語 也。
【最初の鬼。
彼が紡ぐは終焉の詩。
六華の謎を解き明かす、要となりし物語。】




