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三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語  作者: 言詠 紅華
─ 第弐章 ─
21/81

其ノ捌 ── 桜ヲ守レド護ル能ワズ (8/11)


 白い霧と、柱に囲まれた空間の中。

 子元(しげん)伯約(はくやく)と刃を交えていた頃、桜と菊──厳密には桜と狼が、その手を止めることなく闘っていた。

 どちらも引けを取ることなく、刀による互角の撃ち合いが続いている。


 紅玉の太刀筋、(しろがね)の閃き。

 それらと共に、桜色の和服と灰色の毛並みが靡く、奇妙で、而して妖艶な世界が、其処に展開されていた。


 撃ち合いから互いに距離を取ったとき。

 狼が再び地を蹴って間合いを詰める。

 一方で薙瑠は、狼が目の前に接近した、その瞬間を狙って。


「〈紅桜(くおう)八重(やえ)(かた)〉!」


 横に薙ぐ一振りで幾重にも重なっている刃が、狼を襲う──かと思われた、その刹那。

 狼の青白い瞳が煌めき。

 見えない盾のようなものが、その斬撃を防いだ。

 その衝撃で辺りに暴風が吹き荒れ、霧も瞬く間に消えていく。

 薙瑠も後方へと吹き飛ばされるも、宙で一回転して軽快に着地した。


「私相手だと、分が悪いんじゃない~?」


 刀を咥え、低い態勢で睨む狼の後方で、狼莎が穏やかに微笑んだ。

 彼女は薙瑠と狼の戦闘中、その場から一歩も動いていない。

 そんな彼女を、薙瑠は笑みを浮かべることなく、桃色の双眸で鋭く射抜く。


「……そうですね。

 今目の前にいる狼は、〈神霊術(しんれいじゅつ)〉で呼び出した、神使の一種である狼の分御霊(わけみたま)──即ち分身体、ですよね」

「うん、そうだよ〜」

「神使の中には、守護するべき対象への妖術による攻撃を、防ぐ力を持つ者がいる。

 狼もその一種で、分身体でも本体と同様の力を持つ……ですから、その狼がいる限り、私の攻撃が通ることはないでしょう」

「ふふふ、その通りだよ〜。

 薙瑠ちゃんもそういう顔、するんだね~」


 人が変わったかのような薙瑠の顔つきに、狼莎は何故か嬉しそうに笑っていた。


「妖術が封じられるのなら」


 瞬間、薙瑠の姿が消えた。

 ──かと思われた、直後。

 彼女は狼莎の背後に姿を現した。

 狼莎に振り返る隙を与えることなく。


「本人を直接狙えばいい!!」


 刀を振りかぶり、上から下へと、将に振り下ろさんとしたが。


 そんな彼女の動きは、完全に読まれていたらしい。


 狼莎は瞬間的に振り返り、その双眸に薙瑠の姿をしっかりと捉え。


「〈斬菊(きりぎく)(ざん)こう〉!」

「──っ!」


 いつの間にか手にしていた刀を、大きな隙ができていた薙瑠の腹部めがけて薙いだ。

 しかし間一髪、薙瑠は後方に飛び退き、直撃を避ける。

 

 切っ先が僅かに薙瑠の腹部を捉え、彼女の着物に傷が付く。


 後方に飛び退いた薙瑠に、今度は狼莎が隙を与えることなく。


「〈斬菊(きりぎく)(しょう)(こう)〉」


 そんな言葉を紡ぎ、その場で刀を軽く薙ぐ。

 刹那、その太刀筋から無数の菊の花弁(はなびら)が、薙瑠目掛けて飛翔する。


「っ!」


 目の前に迫るそれを、薙瑠は瞬間的に上に飛んで避けた。

 背後で轟く音。

 僅かに後ろを振り返れば、花弁(はなびら)が直撃した柱が、いとも簡単に倒壊している景色が目に映る。

 焦りもせずに、その景色を目に焼き付けたあと、彼女は再び前を向く。

 その双眸に映るは、狼莎の更に後方にいる、両軍の兵士たち。


 彼らを──巻き込むわけにはいかない。


 静かに、而して鋭い視線で兵士たちを捉える桃色の瞳には、そんな強かな意思が込められているようだった。


「油断してると直撃しちゃうよ〜」


 足元からそんな声が聞こえると同時に、刃の如き無数の花弁(はなびら)が下から飛来する。

 宙に舞う今、薙瑠にそれを躱す術がない。

 そんな彼女は、刀を振りかぶり。


「〈紅桜(くおう)八重(やえ)(かた)〉!」


 一振り薙いで、幾重にも重なる斬撃を放った。

 それにより菊の花弁(はなびら)は散り散りに裂かれ、消滅する。

 さらにその斬撃は、とどまることなく狼莎目掛けて飛んでいくが。

 すかさず狼が間に入り、守護の力で狼莎を守る。


 着地した薙瑠に、間髪開けることなく、菊の花弁(はなびら)が飛来する。

 彼女はそれを、素早く躱す。

 地の上を駆けて、時には宙に飛んで。

 次から次へと襲い来る菊の舞を、一度も身に受けることなく、尚且つ味方を巻き込まないよう、その方向に行くことなく躱した。

 彼女が躱すことにより、周囲の柱が至るところで崩壊している。

 その音を聞きながら、いつまでも躱してるばかりではいられないと、そう思った彼女は。

 菊の飛来が収まった一瞬の隙に足を止め、自分めがけてかけて襲い来る狼の姿を、しっかりと捉えながら。


「〈紅桜(くおう)(かすみ)(かた)〉」


 静かに言葉を紡いだ。

 直後、狼莎(ろうさ)の狼が彼女に襲いかかる。

 しかし、狼のくわえる刀が薙瑠を斬りつけた瞬間。

 狼の視界を覆うほどの桜が舞い、その場にいるはずの彼女の姿は消えていた。

 狼の斬撃は虚しく空を斬ったのだ。


「〈(かすみ)(かた)〉……桜の鬼が得意とする、幻術を用いた型。

 ここで出会ったときから思ってたけど、敵になるととてもやっかいね〜」


 おっとりとした、しかし冷静に事を分析する狼莎は、狼を自分のもとへと呼び戻す。

 そして、自身の刀を地面に垂直に突き立てて。


「逃さないよ〜、〈斬菊(きりぎく)開花(かいか)〉」


 すると突如、辺り一面に数多の菊が現れる。


 ──見えないならば、見えるようにすればいい。


 姿を消している間、薙瑠は攻撃を仕掛けるために、なんらかの動きをするに違いない。

 狼の嗅覚だけでは、確実に狙いを定めることができなくても。

 一面に花を咲かせておけば、動きに応じて花弁(はなびら)が舞い──その居場所を特定することが可能になる。

 姿を消している彼女を捉えるための、狼莎なりの対策だった。


 数多の菊が一面に花を咲かせた直後、僅かにふわり、と花弁が舞った箇所があったらしい。

 狼莎の隣で、彼女の背後を見ていた狼が威嚇するように小さく唸り、瞬時にその方向へと駆け出した。

 それを合図に、狼莎も後ろを振り返る。

 当然ながら、薙瑠の姿を捉えることはできない。

 しかし、居場所を捉えられた薙瑠もそのまま攻撃を受けるような事はせず、逆に狼に向かって駆け出したようで。

 姿は見えないものの、彼女の居場所を知らせるように、彼女が通った場所に花弁がふわりふわりと舞っていた。

 二つの刃が交錯する──かと思われた、その瞬間。

 突如、花弁の舞う動きが無くなった。


 ──薙瑠が上へ飛び、狼の斬撃を避けたのだ。


 忘れてはいけないのは、彼女の姿は狼莎たちの目には見えていないという事。

 空中へ避けた今、狼莎からは薙瑠の行動を予測できない。


 ──まずい。


「〈斬菊(きりぎく)(さん)〉!」

「〈紅桜(くおう)緋寒(ひかん)かた〉!」


 後方に飛び退きながら発した狼莎の言葉と、桜の花弁(はなびら)と共に空中で姿を現した薙瑠の言葉が重なった。

 しかし、僅かに狼莎のほうが早かったようで、空中から薙瑠の刀が振り下ろされる瞬間、辺り一面に咲いていた菊の花弁が舞い上がり、薙瑠の視界を塞ぐ。

 その影響で、僅かに薙瑠の動きが止まった。


(かい)!」


 その一瞬の隙に狼を自分のもとに呼び、守護の力による見えない盾を用いて、薙瑠の攻撃を防いだ。

 斬撃が盾に弾かれ、その衝撃でごうっと突風が吹き荒れる。

 その衝撃を避ける余裕がなかったらしい薙瑠の身体は、後方に勢い良く吹っ飛び。

 激しい音を立てて、背中から岩の柱に衝突した。

 幸い倒壊することはなかったが、柱は大きく抉れ、薙瑠はその場に倒れ込む。

 しかしすぐに、ゆっくりとその場に立ち上がる。

 衝突による粉塵が収まり、視界が晴れたとき。

 薙瑠は柱の上から、地上にいる狼莎を見下ろす。


「薙瑠っ……!?」


 突如、少し離れた柱の方から、そんな声が降ってきた。

 聞き慣れた、男性の声。

 それが子元の声であると瞬時に把握したからこそ、薙瑠はその姿を確認することなく、じっと鋭く、それでいてどこか冷たい視線で、狼莎を見据えている。


 そんな彼女の視線を受けながらも、狼莎はいつもと変わらず、優しく微笑んでいる。

 しかし、狼莎は冷静に薙瑠の行動を分析していた。

 彼女のいる柱の上には、いつの間に来たのか、伯約と子元の姿があり。

 二人を巻き込まないためにも、瞬間的に間合いを詰めて来るに違いない。

 その前にこちらから──そう思い、菊を飛翔させようと、刀を振りかぶったとき。


「──待って」


 静かに、しかしはっきりとした言葉が発せられた。

 その声の主はもちろん薙瑠だ。


 直後、辺りに戦場とは思えない静寂が訪れる。

 その言葉の意味するところが分からなかった狼莎だったが、薙瑠が自分ではなく、更に後方へと視線を向けていることに気付く。


「……薙瑠ちゃん?」


 不思議に思った狼莎は、構えを解いて呼びかけるが、薙瑠は黙って何かを見つめていた。

 そして暫くした後、軽快に地上に降りて、狼莎の元へ駆け寄ると。


「……見張られてる」


 静かな声で、而してその視線は狼莎以外の〝何か〟に向けたまま、そう言った。


「……え?」

「偶然、視界に入ったのですが。

 何もせずその場に立っているだけで……こちらをずっと見ている人がいるんです」


 狼莎は不思議に思いながら、薙瑠が見る方へと振り返る。

 しかし、乱立する柱と倒壊した柱の景色があるだけで、そんな人物は見当たらない。

 狼莎が薙瑠へ視線を戻すのと同時に、薙瑠は漸く、狼莎と目を合わせた。


「私には、その人がどこにいるか分からないけど……もしかして……」

「……はい。彼は姿を消しています。恐らく、私にしか視えないはずです」

「やっぱりそうなんだね〜……」


 納得したように狼莎は頷いた。

 薙瑠にしか視えない。

 彼女の眼は特殊で、〝視えないものが視える〟眼なのである。

 そんな彼女の眼に映るもの。

 それは、何らかの方法で姿を消しているものか、普通は絶対に視えないもののどちらかであるという。

 今彼女が視ている人物は前者にあたる。

 そして後者のひとつに当たるのが〈華〉だ。

 彼は二人からかなり離れたところに立っている。

 僅かな風が吹き、その風に乗るように砂埃が舞っていることもあり、顔まではよく分からない。

 ただ、その格好や体格からおそらく男性であろうことは分かった。

 そんな彼が突如、左手をあげた。


 ──何かの合図だろうか。


 そう思った刹那。


 何かが割れるような、甲高い音が木霊(こだま)して。



 彼女の変化(へんげ)が、解けた。



 ──否。


 彼の手によって解かれた(丶丶丶丶)、と言ったほうが正しいだろう。


「……え……」


 薙瑠の周囲にガラス片の様なものが舞い、空へと消えていく。

 鬼の姿だった彼女は、ガラス片が飛び散るように変化が解け、人間(ヒト)の姿に戻っていた。


「……え? 薙瑠ちゃん?」


 驚いたように目を丸くしている狼莎が声をかけるが、薙瑠は何も答えなかった。

 驚きのあまり理解が追いついていないのだろう。

 彼女も驚きの表情で、自分の姿を見下ろしていた。


 本来ならば、鬼の変化(へんげ)は他人が解くことが出来るものではない。

 それが今は解けたのだ。

 ──彼がただ、左手をあげただけで。


「……なんで……」

「今の……変化が解けたのは……」

「私の意思じゃありません。彼が……」


 そう言いながら改めて彼の方へと視線を移す。

 しかし、そこにはもう、彼の姿は無かった。


 彼は何者なのか。

 彼の目的は何なのか。

 そして、どうして他人の変化を解くことができたのか。


 そんなことを考えながら呆然と立ち尽くす薙瑠に、狼莎は静かな口調で語りかける。


「落ち着いて。薙瑠ちゃん、もう一度鬼に変化することはできる?」


 声をかけられて我に返った薙瑠は、狼莎に言われて変化する。

 特に異常はなく、普通に鬼の姿に変化できた。

 それどころか、身体的にも精神的にも、何も異常は無いのだ。

 彼はただ、変化を解いただけなのである。


「彼は一体……何者なんでしょうか……」

「私は姿を見てないから分からないけれど……でも、何か異変が起こっている……気がする」

「異変……?」

「まだ確証はないけれど、変化を解かれたとき、何かが割れるような音がしたよね。その音が、結界が破られた音に似ていたの」

「結界が、破れる音」


 狼莎の言葉を復唱する薙瑠には、その言葉に心当たりがあった。

 その心当たりあるものを利用すれば、桜の鬼の(丶丶丶丶)変化を解くことが可能になる。

 そしてそのことは、薙瑠だけでなく、狼莎も同じように考えていた。


 そんな彼女たちの元に、とある二人が駆けてくる。

 柱の上で傍観していた、子元(しげん)伯約(はくやく)だ。


「狼莎、何かあったのか?

 急に戦闘を中断したから気になって様子を見に来たんだが」


 駆けつけるなり、伯約は単刀直入に問うた。

 そんな伯約を見て、狼莎は小さく微笑む。


「少し気になったことがあったんだけど……まだ何も確証を持ててないから、確証を持てたときにまた報告するよ〜」

「それは……あの割れるような音に関しても、か?」

「……うん、そうだね」


 狼莎の頷きに、僅かな間が生じた。

 伯約はそれが気になったようだが、特に問い詰めることはせず。

 分かった、と小さく頷いた。

 そんな中、薙瑠は何かを考え込むように、己の手のひらを見つめており。


「……薙瑠?」


 不思議に思った子元が名を呼べば。

 薙瑠はびくりと肩を震わせて顔を上げる。


「大丈夫か?」

「は、はい……大丈夫です、すみません」


 心配そうな顔をする子元に、薙瑠は申し訳なさそうに謝罪する。

 今の彼女に、狼莎と戦っていたときのような冷たい表情はなく。

 いつも通りの、柔らかい彼女に戻っていて。

 そのことに、子元は誰よりも安堵していた。


「帰るか」

「……は?」


 突如紡がれた伯約の言葉に、子元が素っ頓狂な声を上げた。

 狼莎も伯約に賛同するように、そうだね〜と呑気に頷いている。


「お前……桜と戦うために来たのではなかったのか?」

「いいや、本当はそのつもりだったさ。

 だけど、なーんか、やる気が失せた」

「……はぁ?」


 気分屋にも程があるだろうと思いながら、子元は怪訝な顔をする。

 一方で薙瑠は、「桜と戦うため」というその言葉で、何かに気付いたようで。

 どこか不安そうな声で伯約に声をかけた。


「……伯約様、あなたは……」

「ああ、今お前が思ってる通りで間違いないぜ。

 今回のことは全て、狼莎の計らいあってのことだ」

「薙瑠ちゃんのことだから、言わないほうが本気で相手してくれるだろうと思ったの〜」

「……そうだったんですね」


 二人の言葉に、薙瑠の瞳は悲しそうに揺れていた。

 そんな彼女を安心させるように、狼莎は微笑む。


「大丈夫、もう終わったことだから」

「……はい」

「じゃあまたね、薙瑠ちゃん」

「はい、狼莎様もお気をつけて」


 狼莎は小さく手を振ると、伯約と共に兵士たちのいる方へと去ってゆく。

 徐々に小さくなる二人の後ろ姿を見届けながら、今まで黙って話を聞いていた子元が、漸く口を開いた。


「薙瑠、あいつ……伯約は一体、お前と戦ってどうする気だったんだ……?」

「……それは」


 二人の後ろ姿を見ながら、僅かに言葉を噤んだ彼女だったが、直ぐに静かに紡がれた。



「私に斬られることで……死ぬつもりだったんでしょう」



 彼女の言葉に、子元は目を丸くする他なかった。

 辺りに冷たい風が吹き。

 薙瑠と子元、それぞれの髪を揺らす。


 桜と戦うこと、即ち桜に斬られるということ。

 その斬られるということこそが、桜に喰われることを意味するのだと。

 そして更に。

 桜は鬼を斬ることで、その妖力を喰らうのだと。


 ──遅ぇんだよ。

 ──そんなんじゃ……桜に喰われる(丶丶丶丶)ぞ。



 ──お前が(丶丶丶)知らなければ(丶丶丶丶丶丶)ならない(丶丶丶丶)ことだ、司馬(しば)子元。



 そんな伯約の言葉が、子元の中で反復していた。


「安心してください」


 どこか不安を覚えている気持ちが顔に出ていたのだろう。

 子元を見ながら、薙瑠は柔らかく微笑んだ。


「まだ時間はあります。

 これからゆっくりと、進んでいけばいいんです」


 頭の中を見透かしたかのような言葉に、子元は半ば驚かされるも。

 その言葉が、色々な事で混乱気味の彼にとって、とても安心できるものであることは間違いなかった。

 そのせいで、気が緩んだのだろう。

 子元は漸く、その表情(かお)に小さな笑みを浮かべた。


 そんな彼に応じるように、薙瑠も小さく微笑む。

 そして彼女はふと、空を見上げた。

 気付けば金烏(たいよう)は傾き、空は(あか)く染まりつつあった。

 その朱い色が、どこか不吉な雰囲気を醸し出していて。


 ──嫌な予感がする。


 根拠があるわけではなく、ただなんとなく、そう感じた。

 そして、このときの彼女はまだ知らなかった。



 残りの時間など、殆ど残されていないという事実を。



───────────────



 被操 傀儡(アヤツラレシ クグツ)(サクラノ) (クラフ) (トコロト) (ナル)

 (ソレ) (スナハチ)(サクラ) 吸収(ソノ ヨウリョクヲ) 其 妖力(キュウシュウスルコト) (ナリ)

 以是(コレヲモッテ)(サクラ) 所 集(ヨウリョクヲ) 妖力アツムル トコロ (ナリ)

 然而(シカレドモ)不 在(サクラノ モチシ) 桜 持 刀(カタナ アラザレバ) 不 成(ナラズ)

 (ソノ) 刀 能力(カタナノ チカラ)(ショウ)〈逍遙樹〉(ヨウジュニ ヨル )(モノ) (ナリ)

 〈逍遙樹(ショウヨウジュ)〉、(コノ) (セカイノ) (ドコカニ) 此時間 何処(ヒソカニ アリ)


 (サクラ)()(ハジマリ)()(ツナガリ)() 記憶(キオク)眠 其樹(ソノ キニ ネムル)


傀儡(くぐつ)を操り、桜に喰わせる。

 それ即ち、桜に傀儡を斬らせ、その妖力(ようりょく)を吸い取らせること。

 こうして桜は、妖力を集めていく。

 けれどその能力(ちから)は、桜が持つ刀があってこそ。

 その刀の能力(ちから)は、〈逍遙樹(しょうようじゅ)〉があってこそ。

 この時間(せかい)何処(どこ)かに、密かに存在する〈逍遥樹〉。


 その樹に、桜の〝始まりと繋がりの記憶〟が眠っていた。】

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