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三國ノ華 ◇ 偽リノ陽ノ物語  作者: 言詠 紅華
─ 第弐章 ─
16/81

其ノ参 ── 桜ニ侍リシ陰陽ノ烏 (3/11)


 最初(ハジマリ)( ノ )(オニハ) (ヒトリ) (ナリ)

 家族(カゾク) 在 而(アレドモ) 仲間(ナカマ) 不 在( ソコニ )其処(アラズ)

 共闘(キョウトウセシ) (モノ) (ミナ) (シセルガ) (ユエニ) 最初(ハジマリ)( ノ )(オニ) (ヒトリ) (ノコル)

 (コレ) 何遽(ナンゾ) (タダ) (ソノ) (オニノミ) (ノコラン) ()

 (コレ) 何遽(ナンゾ) (ソノオニ) 其鬼(コドクト) 孤独(ナラン) ()


 (ソレ) (スナハチ)(タダ) (カレ) 所以( ノミ ) (オニ) (タル) (ユエン) (ナリ)


最初(はじまり)の鬼は独りだった。

 仲間と呼べる存在は、もう誰もいない。

 家庭を築いた今、家族と呼べる存在は居るけれど。

 戦いを共にした仲間は皆死んだ。

 彼を置いて先立った。

 何故、彼だけ残ったのか。

 何故、彼は独りになったのか。


 それは──彼だけが鬼だったからだ。】



───────────────



 一方その頃、軍議室を後にした薙瑠(ちる)神流(かんな)、そして(からす)の三人は、軍議室から少し離れた裏庭に来ていた。

 まだ金烏(たいよう)は高い位置にあり、暖かい日差しが裏庭を包んでいる。

 木に囲まれた森の中のような場所だからか、そんな時間帯でも人気が全く無いこの場所は、〝秘密の話〟をするのには最適な場所だった。


「っあー! やっぱあいつらといる時は堅苦しいし疲れるぜ全く……」


 鴉は裏庭に来るなり、伸びをしたり肩を回し始めた。

 そんな彼──いや、彼女(丶丶)を、神流は呆れたような顔で見ている。


「相変わらずあんたが『俺』って言ってても違和感ないわね」

「それは褒めてんのか貶してんのかどっちなんだよ」

「褒めてるんじゃないでしょうか」

「……お前に言われても嬉しくねーぞ、薙瑠」


 眉を下げて怒ったように言う鴉だが、薙瑠の微笑んで言う姿に思わずため息をついた。

 言葉こそ悪いが、この鴉という人物、実は女性である。

 この事実を知っているのは、現時点では〈六華將(ろっかしょう)〉だけだ。


「でも、これだけ仲達(ちゅうたつ)と頻繁に会ってるのに、女だと気付かれないあたり流石よね」

「……だからそれは褒めてんのか貶してんのかどっちだってんだよ」


 苛立ちながら返答する鴉だが、殴りかかりたい衝動を、手のひらをぎゅっと握りしめて堪える。


「ところで、鴉……いえ、紗鴉那(しゃあな)様、話したいこととは……?」


 薙瑠が二人の言い合いを止めるようにして、話題を切り出した。

 紗鴉那、と言うのが鴉と呼ばれる彼女の本当の名前らしい。


「……ああ、そうだったな。さっきも言ったように曹操(そうそう)に会えたんだが、その時の事をあんたたちにも伝えておこうと思ってな」


 真剣な表情になって紗鴉那は言う。


「曹操は全て知っていたみたいだ。

 母親の正体のことも、そして……彼女が犯した過ちの事も」

「じゃあ曹操は……私達が現れることを知っていた?」

「そういうことだ」


 神流の問い掛けに、紗鴉那は頷く。


「だから、あたしたちの事も話したんだ。

 〈六華將〉の目的のことを」

「目的……とは、この世界を元に戻す……ことですよね」


 薙瑠も言葉を挟みつつ、紗鴉那の話を聞いている。


「ああ、そしたらさ、曹操はこう言ったんだよ。

 『お前たちのことを優先しろ、仲達には手を出さないように言え』ってな。

 だからあたしは、あの言伝を仲達に伝えたってわけだ」

「あの人がまだ表舞台に立っていた頃、私は何度か会ってたけど、その時は〈六華將〉の話なんてしなかったから……そこまで協力的だったなんて、驚いた」

「だろ? 理由は聞いてないが、あいつなりに何か思うことがあったんだろうな。

 ……何処か寂しそうに見えたから」


 そう言って、紗鴉那はどこか遠くを見るように空を見上げた。

 それにつられるようにして、神流と薙瑠の二人も空を見上げる。


 ふわり、とそよ風が吹く。

 その柔らかな風が三人の髪を揺らし、一時の静寂が訪れた。


 そんな中、突如ばさばさと羽音が響く。

 三人が同時に羽音がした方へと視線を移した。

 木々の間から現れたのは真っ黒な一羽のカラス。

 三人の近くに着地したかと思えば、小さな疾風がカラスを包み、再び姿を現した時にはカラスではなく、人間(ヒト)の姿になっていた。

 しかし、その背には茶色い翼が在るという、奇妙な人間(ヒト)の姿をしている。


「まだ昼間だぞ、お前の存在を誰かに見られてたらどうするつもりだ、兄貴」


 紗鴉那が突如現れた人物に向かって、嫌そうな顔をして言い放つ。

 兄貴、と呼ばれた彼の容姿は、紗鴉那にそっくりだった。

 明らかな違いがあるのは身長と、前髪の特徴的な癖毛。

 紗鴉那よりも背が高く、癖毛に関しては左に流れる彼女とは逆で、右側に流れている。


「……問題ない。誰も居ねぇことを確認したから姿を現した」

「そーかよ」


 軽く舌打ちをしながら睨む紗鴉那に対し、彼も睨み返している。

 ──とは言え、彼の睨むような、というよりは怒ったような顔つきはいつもの事で、その点は仲達に似ているのかもしれない。

 そんな二人を見て、神流はため息をつき、薙瑠はくすくすと笑っていた。

 それに気付いた紗鴉那は、笑う薙瑠の方へ顔を近づけて怒ったように言う。

 だが、その声音は親友にでも言うように穏やかなもので。


「なーに笑ってんだよ薙瑠」

「いえ、鴉斗(あと)様が来ると、いつも賑やかで楽しそうだなと」


 薙瑠は翼を持つ彼の事を鴉斗、と呼んだ。


「確かに賑やかだが楽しくはねーぞ……」

「薙瑠ちゃんにはそう見えてるんだからそういう事で良いじゃない」

「……っこの野郎……」


 にやにやしながら揶揄(からか)うような神流の言葉に、紗鴉那は納得がいかないような顔をしながら、うるせぇなと内心で反論する。

 そしてむしゃくしゃするように片手で頭を掻いたあと。

 紗鴉那は先程までの嫌そうな顔からは一転して、真剣な眼差しで鴉斗を見た。


「んなことより……お前が姿を現したってことは、何か動きがあったんだな?」


 鴉斗は紗鴉那をちらりと横目で見た後、薙瑠に視線を移す。

 そして静かに。



「蜀が動き出した。

 ──来るぞ、狼莎(ろうさ)が」



 そう告げた。

 その言葉に薙瑠だけでなく、紗鴉那や神流も目も目を丸くする。


「それは……狼莎様と戦うことになると、そういう事ですか……?」

「ああ。俺達の仲間でも、国として攻めてくるなら……その時は敵だ」


 ゆっくりと言葉を紡いだ薙瑠に、鴉斗は否定することなく答えた。

 その返答を聞き、薙瑠は僅かに俯いて寂しそうな顔をしたが、直ぐに顔をあげて真っ直ぐな瞳を彼に向ける。


「……分かりました。このことは仲達様にも伝えなければなりませんね」

「そうね、でも私達がこの話をするよりも、紗鴉那──いえ、鴉に任せた方が良さそうね」

「はい」


 神流と薙瑠の言葉に、紗鴉那はむすっとした顔をしたあと、小さくため息をつきながら、分かったよ、と頷く。


「あたしは今からこの事を仲達に伝えに軍議室へ行く。あんたたちはどうする?」

「私達も軍議室に戻るわ」

「そうですね」

「……俺はもう一度、狼莎の元に行く」


 鴉斗はそう一言呟いた後、踵を返して森の方へと向かう。

 そして再びカラスの姿へと戻り、空へと飛び立った。


「狼莎の方は兄貴に任せといて大丈夫そうだな。……よし、戻るか」


 紗鴉那の言葉を合図に、三人は軍議室へと向かう。

 秘密の時間が流れた裏庭。

 誰も居なくなったその場所には、静かに風が吹き、木々の葉をざわざわと揺らしていた。


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