木花咲耶ノ名ノモトニ (1/1)
住 人間 世界、則 人間界 也。
其 世界、元来 惟 人間 在 世界 也。
現在 鬼 在 於 其処。 夫 所以 偽之時間 也。
在 立上者 為正偽。
偽 之 時間之住人、夫等 呼〈六華將〉。
其 意味、持 強〈華〉六人 之 将 也。
【人間だけが暮らす世界──即ち人間界。
本来は〝人間しか存在しない〟場所。
その場所に、今は鬼がいる。
故にこの時間は〝偽り〟なのだ。
その偽りを正す為に、立ち上がった者達が居た。
偽りの時間の住人は、彼等をこう呼んだ。
強き〈華〉を持つ六人の将、即ち〈六華將〉と──】
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──〈六華將〉。
花の名を姓に持つ六人。
春の闇夜に潜む花、菖蒲。
夏に飛翔く白き花、鷺草。
秋に香る千代の花、菊。
冬の雪に隠る花、柊。
そして──花を代表する存在、桜。
六人で、五種類の花を咲かせる〈六華將〉。
彼らのうち、一人でも国に所属していれば百人力となるほど、強力な力を持つ存在だ。
時は今、北方に領土を展開する魏国に対し、南西地方では蜀国、南東地方では呉国が中心となって土地を治める、三国鼎立の時代。
しかし昨年、北伐と称して魏を責めていた蜀の諸葛亮が亡くなったことをきっかけに、現在の三国間は膠着状態にあった。
そんな状況の中、仲達率いる魏国には、桜が加わったことで二人の〈六華將〉が所属していることになる。
魏国に所属するもう一人は鷺草。
そして他国──蜀国には菊。
菖蒲と柊の行方は、現在もわからないまま。
呉国は何れかの一人を既に雇っているのではないかと、そんな噂もあるが。
その〈六華將〉に関して、この時間にはとある奇譚、即ち不思議な言い伝えが存在していた。
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桜 咲 時、動 神使
菖蒲 示、烏 之〝陰陽〟
〝祓〟之 鷺草、如 白鷺
千代 之〝守護〟、鬼狼 之 契
潜 柊、〝隠〟之 白蛇
逍遙 之 桜、繋 全
将 示 六華 之 真実
桜 咲 時、進 物語
在 其 先、偽 之〝終焉〟
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この奇譚は、約四十年前の、桜の鬼がいた時代に言い伝えられたものだという。
しかし、その奇譚は今になって、こんな解釈をされたのだった。
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桜が咲くとき神使が動き出す
菖蒲が示す烏の〝陰陽〟は
陰影と陽光の二面性
〝祓〟の鷺草は白鷺のように
悪しき者を排除する
菊が施す千代の〝守護〟は
鬼狼が結んだ契によるもの
柊に潜む〝隠〟の白蛇は
雪に忍びて姿を消す
彷徨う桜が全てを繋ぎ
〈六華將〉の真実を示すだろう
桜が咲くとき物語が進む
そして偽りは〝終焉〟を迎える
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このような解釈が成されたことが、奇譚を知らなかった者も知る機会となり、各国でも再び話題に上がるようになったのである。
解釈の発端は、噂によるととある呉国の将だという。
しかし、これはあくまでも解釈。
その真実を知っているのは〈六華將〉のみである。
そして、その解釈をきっかけに。
複雑に絡み合う謎は、徐々に明かされていくこととなる。




