表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

また今年も夏が終わります

作者: ステレイ

これまたざっと書き上げました。

矛盾や、足りない部分があります。





毎年、不謹慎だが夏の恒例が少し楽しみになっていた。


前は四葉のクローバーを三つ。

その前は綺麗なビーチグラスを沢山。

その前は何処から盗ってきたのか、貰ってきたのか、夕方だというのに萎んでいないアサガオ。

その前も、その前も、全部覚えているし、取っておける物は全部保存している。

生花は押花などにして。


今年は貝殻だった。一人ずつの分と選びきれなかったのか、捨てるのが勿体なかったのか沢山。


一人分の貝殻は枕元に置いて行ったらしい。悪戯のつもりだろうか。

最初はソファーの隣の机の上の貝殻と砂に両親と気づいて苦笑いしながら『今年は"沢山"だったね。』と言って寝ようと布団を捲ったらあったのだ。

気づかずに寝そべっていたら俺の場合は痛かっただろうと思う。

俺の枕元にあったのは白い巻き貝だったからだ。



姉は本が好きだった。どんな分野もドンと来いの人種だ。

内緒で自分で小説も書いていたようだった。

姉の友達に以前、小説を投稿していたサイトと姉の活動名を教えて貰って読んだ事があった。

とても以外だったように思う。普段の姉からは見られない雰囲気を纏った言葉と文章だった。書き始めてまだ経験が少ないのか、拙いと思ったが。


姉は両親が嫌いだったと思う。他の人は反抗期と言うがそれとは違うと本人も言っていたし、俺もそう思う。

姉は他の人間と少し違った。もちろん両親とも。顔立ちはどことなく似ているかもしれないが、性格は全く違う。

両親とも、両親の祖父母とも、親戚の誰とも違う。似てもいない。


そんな姉にとって、この家は居心地が良いとは言えなかったのだろう。

前に数回、姉が友達と話しているのを見た事がある。とても、生き生きとしていて楽しそうだった。

家では必要な時ぐらいしか話さないし、自分の好きな事をやっている時以外は楽しそうでも無かったのに。


家族と友達は全然違う関係なのだとその時初めて知った。

でも、姉は誰も心から信頼はしていなかったと思う。

それだけは可哀想だと思った。

誰一人信じられない中でどうして生きていけるのか分からなかった。


一度だけ姉に聞いたことがある。

"どうやったらそんなふうに生きられるの?"

姉は最初とても鋭い目で俺を見てから一言言った。


『ある程度の所で頑張るのを辞めて、諦めて生きればこうなる。』


そうなのか、と思った。今思えばあの年齢でどういう考えをしたらあんな言葉が出るのか、とても慄いた。

流されるのとは少し違う。ある程度までは頑張るのだ。

小説では、"目立たないように平均までは頑張って成績を取るけど、実は、実力を隠しています"といった主人公が出てくるがそれとも違う。

何故なら彼らは諦めてはいないからだ。


姉は、何を思って生きていたのだろうと最近考える。

だが、本来の姉は天真爛漫が似合う人だった。今はあの暗い時間を上書きする様に、夏を楽しんでいるようだった。


運動神経がとても良い姉は、きっといろんな所を遊び回っているのだろう。

何故なら、ご近所さんや、姉を知っている俺の友達、そして姉の友達。はたまた、全く接点の無かった他人から目撃情報が来るからだ。


前の前は姉の友達と駅の車掌さんがビーチグラスを貰っていた。

俺の友達は去年姉が猫と戯れて居たのを見たらしい。彼いわく、『やっぱりお前の姉ちゃん美人だよなー』らしい。幽霊を見たのだからもう少し別の事は無いのだろうか。

前の前の前の年は買い物帰りのご近所さんが並木通りの車道の真ん中を何やら口遊みながら歩いていた姉を見たらしい。ご近所さん曰く、『とても可愛らしい声だったわ!』らしい。


姉はとても不思議な人だ。

どうやら幽霊はいるらしいし、足もあるらしいし、声もあるらしい。

輪郭がぼんやりとしてるらしいが、ちゃんと見えるらしい。

しかも幽霊は、物に触れない、持てないと思っていたのに、ちゃんと実物を持ってくるのだからもう可笑しくてしかたがない。


今年は何処で何をしていたのだろうか。

貝殻を拾ってきたのだから海に居たのだろうか。

猫と戯れていたのかもしれない。姉は猫が好きだったからなぁ。


『世界で愛すべき生き物は猫だ。』


と豪語していたから。今年も猫グッズがいろんな人から届く。喜んでいるだろうか。……いや、現実主義な姉は


『今の私じゃ使えないじゃん!』


と怒るだろうか。それでも、彼女は今年もどうやら来ていたらしい。毎年、彼女が家から出て行く瞬間だけは家族は姿を少しだけ見ることがある。


何やらくぐもった声で叫んで、笑顔で何処かに消えて行く。

今年は風に乗ったカーテンでよく見えなかったが。毎年何かに邪魔されてしっかりと姉を見ることが出来ないのだ。

これがご都合主義というものだろうか。


手元にある白い巻き貝を見つめながら思った。明日は何もない日だし近くの海にでも行こうかな、と。

今年も車掌さんに聞き込みをして。

他に見た人はいないか探してみよう。


来年は何を持ってくるのだろう。そのうちネタが尽きるんじゃないのか?

思わず笑みが零れた。


ああ、来年が楽しみだ。

楽しみにしてるよ、姉ちゃん。







誤字脱字、なんかここ変!という箇所のご指摘よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ