煙草
これはとある馬鹿な女と心が馬鹿みたいに広い男の物語。
要は、馬鹿が二人出てくる話。
俺は何故また、こいつの横顔を見ながらタバコを吸っているんだろうか。
やけに気持ちよさそうに寝息を立てる女の顔を見てため息をつく。だが、そのため息は、悪いため息ではない。
こんなしょうもない関係性にも、幸せを感じる俺がいる。幸せを予感してしまう俺がいる。
こいつの笑顔にその予感はいつも粉々に打ち砕かれるのに。
ふっ、と自傷気味に笑いタバコの火を消してこの馬鹿女の隣に寝そべる。
おデコを少し撫でて、
「好きだ」とつぶやく俺の声は、ラブホの暗闇に吸い取られていった。
「あのね、今度海行くんだー!いいでしょー!リア充でしょー!?」
ムカつくほど能天気に話す声。
25歳にしては幼稚すぎる笑顔。
「あっそ。あいつもいるんだ?」
嫌味100%の声で返答すると
「お!なんでわかんのー?さすがっ!物分りがいいねー」
余計腹がたつほどの笑顔で俺を指差す。
その指先に、フーッとタバコの煙を吹きかけてやった。
「やめて!タバコの臭いってすぐつくんだから!
落とすの毎回大変なんだよ?」
だからやってんだよ。
俺の匂いが消えねーように。
そんなことは言わずに、へーと興味なさげに返事をする。
その返事さえも華麗にスルーして、水着の話を始める能天気女。
そんな能天気の性悪女のくせに、どうにも叶わぬ恋をしているらしい。
相手は地元の同級生。去年の秋に振られたのに、仲良しなグループの一員だから、旅行や飲み会でたまに顔をあわせるらしい。
ほんとうに諦めるつもりならば、もうそんな集まりに行かなきゃいいものを、集まりに行っては傷ついて帰ってくる。
どうしたら好きじゃなくなるんだろう。
なんてLINEが来てもどう返答していいかわかんねえし、酔っ払って「あいつに避けられたー」て電話してこられても、あっそ、としか返せない。
本気で馬鹿だな、と思うたびに俺も同じか。と余計惨めになる。
「なあ、なんで俺と会うの?」
一度だけ、酔った勢いで聞いたことがある。
「本当にそいつが好きなら、俺みたいなセフレがいるの変じゃね?」
みるみるうちに、あいつの顔は涙で濡れていった。
「本当に好きだからこそ、ほかで紛わさなきゃ死にたくなるんだよ?」
泣きながら微笑む彼女を、美しいと思った。
そして、自分の心が崩れていく音が聞こえた。
いつも不真面目に生きてるような顔をしているこの女の、ただ一つだけの誠実。
嘘の皮を被せた誠実の愛が、俺の心をえぐっていく。
「…俺はなんでお前と会うか知ってる?」
「そんなん、興味ない。」
急に彼女の瞳が色を無くす。
あいつのことを話すとき。
あいつのことを思っているとき。
そんな時に見える輝きが全て影をひそめた。
ああ、あいつのことを思っているこの女を美しいと思うのか。
大きすぎる矛盾を抱えた心の着地点がわからない。
「ただ、、あたしは、あんたの傷ついた顔に救われてるのかもしれない。」
歪んだ笑みをたたえるこの女は、俺の心まで読み取っている悪魔だ。
ただ、彼女が輝いて失恋を繰り返す限り、俺は彼女の一番近くでまた失恋を繰り返すのだろう。
タバコの煙を燻らせながら。
男はただただ女を思い、女はそれに気付きながらも他の男への思いを断ち切れないのです。
でも本当に誠実な人であれば、セフレなんかつくらないですよね(._.)
思うところがあり、衝動的に書き上げました。ご拝読ありがとうございます!