黒き疾走
炎弾が降り注ぐ中、その銃を手に裁定者は駆ける。
風よりも速く、駿馬のように力強く。
ただ一人駆け抜ける。
五十人程であろうか、眼前の黒衣の集団の統率はしかし徐々に乱れていく。
多段的に効率よく迫ってきていた炎は次第に彼等の焦りを表すかのようにまばらになってきている。
右に転がり、左に躱し、前に跳びあがる。
もう黒き者達の詠唱すら聞こえる距離、手の中の「暴威」を確かめる。
翻るマントの中にあって目の前の黒堂魔術師達にその武器は見えていない。
しかし裁定者が駆ける先にいる黒き者達はその「暴威」を知っている、その凶名を知っている。
禁忌を犯した魔術師を狩る「暴威の短弓」
結界を割り、魔術を弾き、鎧を貫き、肉を吹き飛ばす。
知識の探究者たる魔術師達ですらこの銃の仕組みはおろか、これが銃だということすら知らない。
これは世界で唯一の裁定者の得物である。
黒き衣に縁どられた恐怖に歪む顔が見える。
走りながら腕を前へと出す。
狙いをつけながら自分のカオが歪むのを感じる。
――あぁ、なんて愉しいんだ
高揚感と共に仄暗き力を込める。
――お願いします
身に当たり、肉を焦がす炎を無視する。
――天におわす我が主よ
眼前の隊列は崩壊し始めている。
――お願いします、今日は、どうか、長く遊べますように
奇妙な笑い声と共に充填された殺意が放たれる、
無慈悲なほど直線的に、この世の理を侵す醜き魔術共へと。
禁忌を犯した魔術師達の絶望の叫びが短く空気を震わせる。
そして
黒き死が黒き魔術師達に訪れた。