08 破滅のトライアングル
「あれは、ウェン・ツェンの船じゃないか?」
夕暮れの海にイギリス海軍の艦隊がいた。艦隊といっても、小規模だ。一番立派な船の上で、一人の男が隣の男に話しかけた。どちらも上級士官服を着て、貴族の白いかつらをかぶっている。同じくらいの年齢だ。話しかけた方は青の瞳、もう一人は茶色の瞳だ。
「ああ。間違いなさそうだ。こんなところで一体何を・・・?」
「とりあえず、獲物が自ら来てくれたんだ。行こうか、エドモンド。」
「そうだな、ロバート。」
二人の将校は、全軍に戦闘態勢をとらせた。
一方、ウェンも艦隊に気付いていた。こっちに来る。だが、戦えば負けるだろう。
「お頭、逃げ切りますか。」
部下が尋ねた。だが、逃げ切ることも不可能だ。向こうの方が足が速いし、最新式の大砲もある。ウェンは覚悟を決めた。
「東の海賊王が、たかだか小規模艦隊に、背を見せたという噂は立てられん。」
ウェンは、首にかけていたペンダントを握った。古びた指輪が、革紐に通してあるだけだ。部下はにやり、と笑った。
「いよいよ、ですねえ。」
船は互いに近づいていった。並んだ時、どちらからともなく大砲が火を噴いた。たちまち辺りが白くなる。木の裂ける音が聞こえた。煙で前が見えない。
ロバート・シアーズ海軍大将は、敵船に乗り移るよう指示した。
「くそっ、蹴散らせ!」
ウェンはやみくもに斬りかかった。数が多い。駄目だ。
一対一なら勝てる相手も、まとめて来られると敵わない。しかも、自分は今、かなりの手負いだ。ウェンは無理矢理甲板にねじ伏せられ、縛られた。部下も掴まっている。なんと呆気ない。これがあの東の海賊王か。唇を噛んだ。
辺りが静かになった。ロバート・シアーズ大将が、ウェンを見下ろした。
「お前も年貢の納め時ってやつだな、ウェン。」
ウェンは黙って睨みつけた。シアーズ大将は、ウェンが妙に血だらけなのを不審に思ったのか、しばらく眺めていた。顔に痣が無いのを確認したようで、少し不思議そうな顔をした。
「このまま本国に戻る。お前もそこでおしまいだ。」
シアーズ大将は嫌味ったらしく笑いかけると、去って行った。