07 夕暮れカノン
アイエスの声と共に、白い閃光が見えた。思わずそれに背を向け、息子を庇った。左肩を何かが触った気がしたが、なんともない。
「どうした、アイエス。魔力が尽きたのか。痛くも痒くも―。」
「狙い通りだがな、ウェン。お前の子どもを見ろよ。」
「何?」
おそるおそる、息子の顔を見た。左目の周りに、グレーグリーンの鱗があった。まるで竜だ。
「貴様・・・アルに何をした!」
「呪いだ・・・その子は左目に竜の力を宿した。いつか再び、アゼルの扉は開かれる。その時が、その子の命の尽きる時だ!」
「よくも・・・。」
「いい様だな、ウェン!これが貴様の・・・。」
そう言うと、アイエスは本当に力を使い果たしたのか、血を吐いて倒れた。
「今すぐ呪いを解け!アイエス!」
だが、アイエスは動かなかった。ウェンは目を閉じた。やはり、ここに連れて来るべきではなかった。フェンロンもだ。
ウェンの顔から、濃紺の痣が音もなく、痛みもなく消えた。呪いは、敗れた。
「王・・・。」
ウェンは顔を上げた。いつまでもここにいるわけにもいかない。
「水夫はこれで全員か?」
甲板を見渡した。十五人ほどいる。あの戦いを生き残って来たのだ。十分すぎる。だが、別の道から聖水の穴へ向かった者達は、誰一人として帰らなかった。
「戻ろう・・・。」
何をしに来たのか。何のためにここにいるのか。何のために自分は生きるのか。そして、何のためにこの子は生き残ったのか。
フェンロンを連れて帰りたかったが、自分は敗走するのだ。いくら愛する者とはいえ、もう死んでしまった者は、生きている者には代えられない。少しでも船は軽い方がいい。まだぬくもりの残っている体を抱き上げ、船から降りた。白い砂浜を通り抜け、草地へ入った。ちゃんと埋めて、埋葬してやりたかったが、時間もない。うかうかしていると、海軍に見つかる。大きな木の根元に横たえた。もともと自然に生きていた。自然の中に死ぬ方が、フェンロンにとってもいいだろう。
まだ、生きている気がする。ウェンは、涙を流した。許してくれ、こんな所に一人に置き去りにすることを。俺を恨んでくれ。
血染めの船はゆっくり水を滑り始めた。夕日になりそうな傾いた太陽が、空まで血染めにし始めていた。
サブタイトルの『カノン』は、音楽のあれです。前作で出て来た『カノン砲』とは違います。