17 手をとって
家にいるより、ここでセルヴァンテスと話している方が楽しい。本気でそう思った。だが、義父のことを考えると、表情は暗くなった。
「どうしたの?」
セルヴァンテスが鉄格子を挟んで尋ねてきた。
「何でもないよ。」
ウィリアムは焦って、話題を変えようとした。が、とっさのことに、深く考えもしないで、思ったことそのままを口にした。
「いつ、その『場所』に着くの?」
「え?」
「だから、いつ、目的の場所に着くの?いつまで僕は、こうしていなくちゃいけないの?」
すると、階段の方から、セルヴァンテスとは違う声が応えた。
「もうすぐだ。」
セルヴァンテスとウィリアムは、同時に振り返った。
「閣下。」
「セルヴァンテス、ウィリアムを連れて来い。」
カニバーリェス卿は、それだけ言うと、背を向けて立ち去ろうとした。
「閣下。」
「何だ。」
「あの・・・手錠を外してあげても良いでしょうか?」
「何?」
カニバーリェス卿は、ウィリアムの手を見た。重みのせいか、綺麗な象牙色の肌が、手だけ血色が悪い。
「好きにしろ。但し、逃がすなよ。と言っても、逃げることは叶わんだろうがな。」
セルヴァンテスは、ありがとうございます、と言うと、牢の鍵を開けた。そして、ウィリアムの手錠を外すと、優しく手を握った。ウィリアムは思わずセルヴァンテスを見上げた。だが、そこにはいつもの微笑みがあるだけだった。




