13 白の錯覚
崖で死角になる海辺に三隻の船があった。その中で、一番大きな戦艦に乗せられた。海軍は何をやっているんだろう、と思った。
「さっさと乗れ。」
士官に小突かれて、少年は後ろを振り返りながら乗った。こんな大きな船に乗るのは初めてだ。大人しく言うとおりにすると、甲板にカニバーリェス卿がいた。
「悪いね、ウィリアム君。だがこうするしかないのだ。」
ウィリアム、と呼ばれた少年が呆気にとられていると、カニバーリェス卿は横にいた士官に、手錠をかけて牢へ入れろ、と命令した。士官は相手が子どもだったのでためらったが、言うとおりにした。
牢の中で、ウィリアムはうとうとしながら考えていた。どうしてスペイン海軍が自分の力を欲しているのか。この力は呪いなのに。それよりも、なぜ、このことが国外に知られているのか。まあ思い当る節はあるのだが・・・。
出港してかなり経って、牢の鍵が開けられた。例え運よく逃げられたとしても、もう岸にたどり着けないだろう。
「出ろ、カニバーリェス卿がお呼びだ。」
ウィリアムは無言で従った。大人の言うことには逆らえない。特に、こういう類のことには。
船長室へ連れて行かれた。比較的広い部屋で、一人の男がグラスを手に持って、窓の外を眺めていた。時間がどのくらい経ったか分からなかったが、空はもう明るい。昼が近いようだ。同じ眩しさでも、夕暮れの光は包み込むように暖かいのに、朝の光は刺すような鋭さを持つことに気付いた。
「閣下、連れて参りました。」
「ご苦労、下がって良い。」
士官は、失礼します、と言って出て行った。カニバーリェス卿がウィリアムに向き合った。




