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影喰い  作者: 双葉 燐
2/2

#1―1 二つの葉

 ――次のニュースです。昨夜遅くに大手株式会社の支店が崩壊するという事件が発生しました。崩壊したと思われる時刻、その付近で震度3程度の揺れが観測されておりそれが原因だと思われておりますが、原因は目下調査中とのことです。関係者の話によりますと……。

 昨夜の事が今朝のニュース番組に取り上げられている。

「怖いわね」

 台所で朝ごはんを作っている母親がフライ返しを片手にそんな言葉を漏らすと、料理に戻っていく。

 確かにここ最近この手のニュースが増えてきている。それをテロだとか言う政治家や、ニュースのコメンテイターが増えている。

 パンを片手にコーヒーを啜りながらそんなテレビを見ている。すこし考え事をしている間にニュースが別の話に移っている。今日のニュースも気付いたときには忘れ去られてしまうのだろうか。

 暗い話題の後には明るい話題とテレビの中では最近のタレントやら、若手俳優やらの話で盛り上がっている。

「この家が壊されなければいいけど」

 料理を終えた母親がエプロンを外すと向かいの席に座った。そんな言葉を聞くと体をびくつかせてしまう。その様子に母親は笑みを浮かべる。

「悠くんは相変わらず怖がりね。そんなんじゃ彼女に嫌われちゃうぞ」

 それとこれとは話が違うと言いたいが言葉が出てこない。その代りに顔が赤くなる。

 そんな様子の息子を見て母親は微笑むと、自分のカップにコーヒーを注ぐ。照れ隠しにパンにかぶりつく姿を見ながらコーヒーを啜る。

 父親は数年前にどこかへ行ってしまい、姿を消してからしばらくして離婚届が届いた。母親はそれを受け取ると何も言わずに判を押して出してしまった。

 その日以来、父親についての話は全くし無くなった。別に避けているというわけではないのだが……。

 後から聞いた話によれば、結婚する時にそういう約束をしていたらしいのだが、それ以上のことを話してくれない。なので、どういうことかは知らないが、母親がそれで納得しているのだから何もいう事はない。

 テレビではピピッという音の後に速報が流れた。どうやら変死の死体が出たらしい。普通なら取り上げられることのないニュースではあるが、崩壊事件と同様にここ最近増えている事件であるために速報で流れる事に。

「嫌な事件ね」

 母親そういうと同時にチンッとトースターが鳴りパンが焼けた。パンを取り出すとバターを塗っていく。その光景を見ながらコーヒーを飲み干す。

 流しにカップをもって行くとサクッとした気持ちのいい音が聞こえる。それと同時に何かに気付いたのか母親が呼ぶ。

「ちゃんと髪は梳いたの?」

 母親の近くまで行くと後ろを向かされた。手近にあった櫛で母親は髪を梳いていく。櫛が髪の間を流れている感触がなんともいえない。

「悠くんの髪ってほんと、女の子みたいね」

 母親と言うよりも女友達と言った感じで言葉をかけてくる。その声を聞くとなんともいえない気持ちになる。別に母親に恋をしているというのでは無く……なんと言えばいいのかわからない。

 肩を叩かれてゴムは……と言われて慌ててポケットを探る。そういえば止めていなかったということに今気付く。

 ゴムを渡すと止めてくれるまでの間その場で大人しくしている。母親が自分の子どもの髪の毛を大切に手入れしている暖かな光景がそこにはあった。

 それはただ母親が悠の髪の手入れをしているという事だけではなく、悠の容姿にも関係があるのだろう。スカートを穿かせたらそのまま女の子といわれても何も違和感のないその容姿に。

 出来たという合図に母親が悠の肩を叩く。その合図に幼げな表情を浮かべて振り返る。その表情に母親が後ろから抱きつく。

 その状況を理解するまでに数秒かかる。理解した時には顔が真っ赤になっていた。

「香奈……」

 不意に母親がそう呟く。その言葉に動かされるように悠は母親の背中に手を回すと、子どもを慰めるように優しい声で母親に話しかける。

「私は大丈夫だから……」

 しばらくして落ち着いたのか、目に浮かんだ涙を払う。

「ごめんね……」

 そうやって謝る母親になんと声をかければいいのかわからなかった。困ったような表情をしていると母親は悠の頭を撫でた。

「悠だって香奈のことは好きだったものね」

 面と向かってそんな事を言われて悠は顔を赤くして顔を背ける。その様子に母親は微笑む。

 香奈は悠の双子の姉で、中学校を卒業するのと同じ頃に病気のために無くなった。それまで三人で暮らしていたのが、気付いたら二人になっていた。

 テレビの音だけが聞こえる部屋にチャイムの音が響く。その音に母親が時間を確認する。

「いつも時間ぴったりね。たまには迎えに行ったら? きっと喜ぶわよ」

 さっきまでの雰囲気とは変わって小悪魔っぽい笑みを浮かべて言った。いらぬおせっかいだと思う。

 早く行きなさいよといった表情をしている。玄関の廊下までついてくると弁当を悠に差し出す。

「変出者には気をつけなさいよ」

「大丈夫だよ」

 そんなの気にする事ないよと思いながら靴を履くと弁当を受け取る。

「行ってきます」

 そういうと玄関のドアをあける。

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