第8話 喰う者、喰われる物
結局、ハンマーテールは引き返して行ったのか野営地までは来なかったらしく、荷物はそのまま残っていた、満月熊の肉もそのままだった事からハンマーテール以外の肉食獣も来なかった、と言うより近付かなかったようだ。
そのお陰か、気配を消していてもそれなりに休む事が出来て、結果だけを見ればその場に留まっていなくて良かったようだ。
朝日の下に再び集合した俺達は荷物を纏め、一旦はその場から戻り、ハンマーテールの行動範囲を把握するために2手に分かれる事にした。
「荷物番と、索敵班で別れよう。希望は有るか」
ブレンドンがみんなに尋ねる、俺達は顔を見合わせて後に希望を伝えた。
「索敵はシリルとベン、ロバートとバーナードだな。それじゃあ残りはここで荷物番だ、索敵班は決して無理はしない事、荷物番は周囲の警戒を怠らない事。それじゃあ、気を付けて行って来てくれ、明日にはハンマーテールの狩りに動きたい」
「わかった、それじゃあベン、行こうか」
俺はベンに声を掛けて獣道を進んだ、ロバートとバーナードとは途中で別れた。
昨日の野営地を過ぎ、かなり森の奥まで進んだ。踏み固められた落ち葉からかなりの巨体が動き回った事が伝わって来る。
「なあ、シリル」
周りに脅威を感じないのか、ベンが話しかけて来た、
「何か見つけたのかい、ベン」
「いや、多分この辺りには今は居無さそうだな、行動範囲では有ったと思うけど・・・、見ろよ」
そう言ってベンは踏み固められた落ち葉を蹴り上げた、踏み固められてはいるが少し前の物の様だ、
「ここには最近はあまり来ていないみたいだな、糞も硬くなっているどころか分解され始めてる」
蹴り上げたのは落ちがだけでなく、ハンマーテールの排泄物も一緒に蹴り上げていたようだ、
「だけど、そこを見ろよ。真新しい足跡だ」
ベンの指さしたところは落ち葉には複数のハンマーテールの足跡の形が残っていた、それに地面を蹴り上げた凹みと、鋭い爪が抉った細い傷痕、
「それがおかしいんだ、歩いた歩幅じゃないかなりの勢いで走っている、その証拠にそこら中の木に打つかっている」
「・・・獲物を追いかけていた」
「それだよ、その獲物の足跡が無いんだ。これだけ必死に走ったとなると、それ以外考えられないんだけど、シリルはどう思う」
確かに不思議だ、獲物として僕たちを認識していたとしたらこんな所を走り回る事は無い。
草食獣、肉食獣なんかは大きさにもよるだろうけれど、ハンマーテールからしたら全て獲物だろう。
これだけ必死に走り回って、ハンマーテールは何をしていたんだ。
俺達は何を見落としている。
ベンも押し黙り考えを巡らせている様だ、俺も思考を加速させてあらゆる可能性を模索した、そして俺は恐るべき仮説に到達した。その事をベンに話したところで、にわかには信じてくれないだろう、出来れば俺自身もそうであって欲しくは無い、だが、昨日のあの足音が俺達に向かってきた物じゃ無いとしたら。
そして獲物を追いかけるハンマーテールが居た事が事実だとしたら、残された足跡がハンマーテールの物しか無いとしたら、自ずと結論が導かれる。
「なあベン、これから話す事は事実で有って欲しくは無いんだけど」
「どうしたんだシリル、妙に真剣な顔をして」
「複数のハンマーテールの足跡は確認出来るだろ、だけど追いかけてる獲物の足跡が見つからない」
「ああ、それはシリルも見ればわかるだろう」
「もし、もしもだよ。獲物を追いかけるハンマーテールの足跡だと思っている物がさ」
「勿体ぶるなよ、どういう事だ」
「獲物を追いかけているのがハンマーテールだとして、追いかけられている獲物もハンマーテールだとしたら辻褄が合わないか」
「な、なんだって」
ベンは声を押し殺して叫んだ、大声を出すという愚行をベンは避けてくれた。
そして俺は自分の考えを伝えた、俺達が狩ろうとしているハンマーテールを食事として見ている未知のハンマーテールが居るかも知れない、その事実が俺の背筋を冷たくした。




