第7話 急接近
森の中の行進をすると、どうしてもディーゼルハットでの初めての課外授業を思い出す。
あの時と比べると進める歩の速度は違うけれど、やはりどこかしらわくわくする気持ちを抑えきれない。
野営地を巡るだけのあの時とは違い、これから向かう場所には安全な場所なんて無いかも知れない、もしかしたらこの中の誰かが命を落とすかも知れない、もちろんそれは自分自身で有るかも知れないのにだ。
俺はいつまで経っても危険と隣り合わせな事に心が弾んでしまう、恐らくハンマーテールを前にしても変わらないだろう。
日が傾くまで進んだところで地図を確認して、ハンマーテールの生息地の手前まで来れている事に安堵し、これ以上進むと縄張りに入ってしまう恐れが有るために、初日の行進はここまでとなった。
幸いな事に満月熊の爪痕や痕跡が見当たらず、夜中に襲われる事は避けれそうだった。
その時にはまだ俺達は気が付いていなかった、なぜ満月熊が近くに居ないのかを。
満月熊に襲われたぐらいなら簡単に対処する事が出来るのに、なぜもっと疑問に思わなかったのか。
俺達は火を熾して木を背にして円を作った、そして満月熊の肉を齧り、明日の予定を相談し、順番に見張りをする事を決めて仮眠を取り始めた。
目を瞑って睡魔に襲われる前に気付けたのは僥倖だった、興奮が睡眠を妨げていたからだとしたら、俺は自分を褒めてやりたい。
普通の森の中は、思いの外雑音が多く、虫や小動物の動く音、夜行性の動物の活動の音など、何かしら聞こえてくるはずだった。
だがその夜は違った、地面を揺らす程の大きな振動、腹の底に響く様なその音が、こっちに近付いて来るのが全身に伝わって来た。
大きな声を立てずにみんなに伝えるのは容易かった、音を立てない様に飛び起きると見張りのダンとベンが何事かと俺に注目をしたため、それに釣られたのかみんなも目を開けてくれた。
「ここは危ない、ハンマーテールが火を見つけて近付いて来ている様だ」
俺はみんなに聞こえる限界の小声で伝えた、それを聞いてみんなは小さく頷き、
「荷物はどうする」
ブレンドンに判断を頼った、
「武器以外は持てるだけにしよう、最悪は夜を徹して走り回る事になるかも知れないから」
ブレンドンの判断は早かった、これは本当の幸いなのだが月明かりが届く為、松明を持っていなくても何とか駆け回る事が出来そうだ。
「それじゃあ生きていたら太陽が出たらここへ集合、昼まではここで待機する事」
「それじゃあな」
「おやすみ、って言いたかったな」
「またここで」
みんなが口々に挨拶をして闇に消えて行った、焚火が消えた事を確認し、地面の振動を確認すると、どうやらかなり近くまで来ている様だった。
どうする、俺はどうしたら良い。
かなり激しく葛藤をしたが、最終的にはブレンドンの判断通りにその場を離れる事にした。
そして闇に紛れ、月が眠りにつくまで気配を消した。




