ラスボスの攻撃から勇者(♀)を庇って死んだら、闇堕ちヤンデレ化した勇者にTS蘇生され溺愛されてる件
初投稿です(大嘘)
気だるげな曇天の空の下。
俺の胸を、黒い炎の矢が貫いていた。
「お兄ちゃんっ!!! お兄ちゃん!!!!」
「ティオ……無事で、良かった……」
この物語の〝主人公〟――ティオは、自慢の桃色の髪が乱れる事も気にせず、倒れようとする俺を受け止めた。
『勇者を庇ったか、余計な真似を……。次こそは勇者、貴様を仕留めてくれる』
俺の背後から、どす黒い声が響く。
ラスボスの魔神王だ。
俺はたった今、あいつの攻撃からティオを庇ったのだ。
「治癒! 治癒!! なんで傷が塞がんないの……!? ダメお兄ちゃん、血が止まんない……!!」
「すまない……俺は、ここまでのようだ……」
穴の開いたバケツみたいに、俺の全身からどんどん命が流れ出てしまう。
間違いなく、俺は間もなく死ぬ。
更に……胸の傷口から、黒い炎が燃え広がり始めた。
「ティオ、頼む――」
俺は最後の力を振り絞り、ティオの頬に触れた。
どうか……このまま〝ハッピーエンド〟を迎えてもらうために。
「魔神王を、倒して……必ず生きて、帰ってくれ……!」
「お兄ちゃ……」
プツンと、俺の中で何か決定的なものが切れたような気がした。
それと同時に、全身から一気に力が抜けて視界もたちまち闇に吸い込まれていく。
最期に見えたのは、見たこともないくらいにくしゃくしゃになったティオの泣き顔だった。
*
やっぱ、ダメか。
まあここまでは想定内だ。
俺の今生の名は『エスペランサ』。前世では地球で大学生をやっていた。
例のごとくトラックに轢かれるテンプレ転生を果たしたはいいものの、やべーことに気づいてしまった。
――ここ、俺が遊んでた鬱ゲー『アルマファンタジア』の世界じゃね!?
しかも俺は主人公のティオの幼なじみの少年『エスペランサ』である。
最悪なことに俺は、チュートリアルでラスボスに殺される。そしてティオの覚醒のきっかけになる、当て馬みてぇなキャラだ。
その後もティオには様々な曇らせイベントが待ち受けている。そうして精神を磨り減らしきったティオは、最後は必ず死ぬ。
――何をどうやっても必ずラスボスに殺される。
良くて相討ち、悪けりゃ敗北して世界滅亡である。
シナリオ書いたやつ人の心とかないんか?
世界滅亡はもちろん避けたい。だが、そのためにティオが人柱になるのはもっと最悪だ。ティオは俺の前世の推しなのである。
そもそも今生ではティオは可愛い幼なじみだ。
だから俺、頑張った。
本編開始2年前に一人村を出て、装備を集めたりレベリングをしたり、めちゃくちゃ頑張った。
そうしてチュートリアルに当たるタイミングで故郷の村に襲来してきた魔神王を撃退。
しかし、ラスボスこと魔神王は不死である。
ティオの持つ〝勇者〟という属性でしか、滅ぼせないのである。
だから、魔神王を倒すにはティオの力は必須。村からティオを連れ出し、潤沢な装備や資金を使ってティオの接待レベリングを始めた。
もちろん極力曇らせイベントを回避しながらだ。
そしてついにティオは〝覚醒〟無しで成長限界に到達した。
そこから俺とティオは魔神王にカチコミを仕掛け、ボッコボコにした。
が、不意打ちを喰らい、それを俺が庇った結果があの冒頭だ。
曇らせを回避してきたこの世界のティオにとって、初めての曇らせイベント。
しかし正史では序盤に俺が死ぬことで、〝覚醒〟して魔神王を撃退したのだ。
……余談だがゲーム上では、〝覚醒〟はその時点でのレベルを除く全ステータスの数値が恒久的に3倍に上がるという仕様だった。
(なおチュートリアル中にレベルを上げる手段は存在しない)
だからレベルMAXの今、更に〝覚醒〟が起きれば間違いなく魔神王を圧倒できるだろう。
相討ちエンドも敗北エンドも、これで避けられる。
未練は、ない。
『もうこっちに来ちゃったの?』
気がつくと、地平線の彼方まで広がる白い花畑の中心に立っていた。空は夜よりも黒く、この世のものとは思えない異様な光景だ。
「あぁ、死んじまったようだな。……できれば、チートとか転生特典欲しかったな」
『悪いわね、私はそういう神様じゃないから』
俺の目の前に立つのは、毛先だけ血に濡らしたように紅い、金髪の少女。
彼女のステンドグラスみたいに7色に光る瞳孔が、俺をじっと捉えていた。
トラックに轢かれて転生する時にも会った、たぶん神様的な人だと思う。
「悔いは……まぁ、無いかな。ティオが生きて帰ってくれてたらの話だが。来世は穏やかに暮らせたらいいな」
『……来世ねぇ。ふふ、まだわからないわよ?』
「え? それってどういう……」
『これから色々苦労すると思うけど、……せいぜい頑張んなさい』
そう言われたのと同時に、俺の意識は果て無き闇に沈みこんでいった。
*
……知らない天井だ。
ふかふかのお布団っていいよな。眠らなくてもこうしてぼーっとしてるだけで幸福感を与えてくれる。
……なんか木目が俺を睨んでいるみたいに思えてきた。居心地が悪くなって思わず視線を横に逸らしてみると……
「お兄ちゃん、起きた?」
見慣れた幼なじみの顔が覗き込んできた。
「ティオ……?」
俺の喉から思わず出た声が、妙に甲高い。
というか俺って死んだはずじゃ……
「魔神王は……?」
ゆっくりと上半身を起こすと、ティオがそっと俺の頭を抱き締めてきた。
「大丈夫だよお兄ちゃん。魔神王は私がやっつけたから。もう、ぜんぶ終わったんだよ」
ぎゅっと、強く優しく、ティオの温もりが俺を包み込む。
……そうか、良かった。俺のやってきたことは、無駄じゃなかったんだな。
ティオは魔神王に勝って、どうやら俺は死なずに済んだんだな。
これ以上のハッピーエンドがどこにあるってんだ。
そう思ったら、鼻の奥が痛くなってきた。
「お兄ちゃん……ありがとう、ずっと私を守ってくれて。私のために、あんなに頑張ってくれたって分かってるよ」
「ティオ……ぐすっ、俺……」
俺、こんなに涙脆かったっけ?
うぅ、涙が止まらない……。
「ティオ? どこ行くんだ?」
「……ちょっと待っててね」
それからティオは、俺から手を離して大きな姿見を隣の部屋から引っ張ってきた。
そこには、ティオの後ろ姿と……
ベッドの上からこちらを見つめる、銀髪の幼い少女の姿があった。
……?
え、この子、誰?
「ふふふ……これが、今のお兄ちゃんだよ」
イマノオニイチャン?
変わった名前だな。
……。
は?!
「ごめんね、お兄ちゃんのこと頑張って蘇生しようとしたんだけど……ちょっと失敗しちゃって」
「は……はあぁぁぁぁ!?」
これは夢か……?
頬をつまんでみると、ちゃんと痛い。
「だからね、お兄ちゃん。これからは私が、お兄ちゃんのこと守ってあげる。もう頑張らなくていいんだよ?」
*
「お兄ちゃん、はいあーん♡」
「あーん」
もぐもぐ。うん、なかなか美味しいな。
ティオもあれから四年間、お料理頑張ったんだな。
ティオから聞いた話によると、決戦から四年が経過してるらしい。
その間に俺を蘇生させるために様々な魔法を極めたそうだが……何をどうしたら女の子の体になるんだ?
今はそれはともかくとして。
「はい、ごちそうさま!! お口拭いてあげるねお兄ちゃん」
「自分ででき――んむ」
「お兄ちゃん、私がぜんぶやってあげるから」
ティオが、なんかその……少し過保護な感じがするというか……。
目覚めてから三日間。
ティオは俺の側から離れようとしない。比喩じゃなくてマジで。
「大丈夫、お兄ちゃんのぜんぶ私がやってあげるから。もう、頑張らないでいいんだよ?」
食事はもちろん、就寝時は抱き枕にしてくるし、俺がトイレ行こうとするとついてくるし……極めつけは――
「お兄ちゃん、一緒にお風呂入ろっか!」
さすがに!!
それは!!!
ダメだろ!!!!
「ちょ……ちょっと距離感近くない? さすがにお風呂は……」
「ごっ、ごめんねお兄ちゃん!! 私ったら……
あぁ、大丈夫だから、大丈夫……あの時私がちゃんとしてれば……。ごめんね、ごめんなさい」
突然、ティオはその場に縮こまり、謝罪を連呼するようになってしまった。
「あ、あのさティオ? 俺はティオが俺の事を大事に思ってくれてすごく嬉しいよ? 別に怒ってないし、顔を上げてくれないかな……?」
「お兄ちゃん……」
ティオの表情はまだ浮かない。
「明日は外に出掛けてみたいな。あっ! もちろんティオも一緒にな? 俺のこと守ってくれるんだろ?」
「……うん。お兄ちゃんは絶対に私が守る」
よし、ティオの顔がちょっとだけ晴れた気がする。
俺もさすがにこの家の中にずっとっていうのもキツいしな。
明日は気分転換だ。
……って、この時は意気込んでいたんだがなぁ
翌朝――
「かぁんわいぃぃぃ!!!!! お兄ちゃん次はこれ着てみて!!!」
「お、俺は男なのに……」
俺は今、ティオの着せ替え人形と化していた。
フリフリのワンピースとかスカートとか、なんかもう名称のわからん可愛らしい服が次から次に出てくる。
お出かけするって言うからさ、お洒落するのは分かるよ?
たださ、なんでこんなに今の俺にぴったりの服を持ってるんだよ?
「え~? 私のお古だよ~?」
うそこけ!!
ティオが子供の頃こんな服着てるの見たことないわ!!
俺がこの姿になったのは偶然だとか失敗って言ってたけど、実は確信犯なんじゃないか?
「可愛すぎるでしょお兄ちゃん……」
あの、いきなりほっぺむにむにしてきてこそばゆいんですけど。
ほっぺ柔らかい? そりゃどうも。中身は成人男性ですけどね。
エスペヲイジメヌンデ……
外に出てみると、これまた知らない街だった。
「お外は危険がいっぱいだから、絶対に離れないでね」
俺の手を繋ぎ隣を歩くティオは、なぜだか深い外套を被っていた。まるで顔を他人に見られないよう隠しているみたいだ。
「あら~可愛い子ねえ~、妹さんかしら?」
「はい、自慢のかわいい妹です」
くっ、澄ました顔で言い切りやがって。
通りすがりのおばさまも完全に信じてやがる。
だが……「俺はお兄ちゃんだぞ!!」って言ったところで、この姿じゃもう誰も信じてはくれないだろう。
もうお兄ちゃんはおしまいです……
「お兄ちゃん、何か食べたいものとかある?」
食べたいものか……何日かぶりに外に出たのなら、新鮮なものを口にしたい。
そうだなぁ……
「甘いものが、食べたいな」
「ふーーーーん、甘いものかぁ……」
何だよ、何ニヤニヤしてんだよ。
この体のせいか無性に甘いもの食べたいんだよ。
「見てお兄ちゃん! あっちにいっぱいお店があるよ! きっと甘いものもあるよ!」
「ティオは相変わらず無邪気だなぁ」
ティオに手を引かれ、俺は出店の並ぶ街の中心部へと足を踏み入れた。
ティオは相変わらずフードを深く被り、顔を隠している。
……そりゃあそうか。ティオは魔神王を倒した〝勇者〟だもんな。有名人だし目立つ訳だ。
そう勝手に納得して、俺はその疑問を思考の片隅に追いやった。
「懐かしいねぇお兄ちゃん。昔はお兄ちゃんが私の手を引いてたのに、ふふっ……今じゃ私がお兄ちゃんの手を引いてる」
「どっかの誰かさんのせいで小さくなっちまったからな」
「それは……ごめんね。でも大丈夫、もうずっとずうっと一緒だから。お兄ちゃんに不便なんて絶対にさせないから」
「そりゃあ嬉しいな」
不本意ながら、今は子供の体じゃできない事も多い。成長するまでは、ティオに頼るしかないだろう。
それに……ティオにはたくさん寂しい思いをさせてしまったしな。
しばらくはティオの望み通りにしてやろうかな。
――
「これ一つくださーい!」
「はいよー、お嬢さんたち仲良くお食べ」
出店でティオはポンメという菓子を一袋買った。
ポンメは砂糖をまぶした小麦粉を丸く固めたモノを揚げた……ドーナツみたいなお菓子だ。
「ここがいいかな?」
ティオと俺は街はずれの広場のベンチに腰かけ、おやつタイムと洒落こもうとした。
……その時
「見つけたぞ!! ティオ・ペペリアだ!!!」
寛いでいた俺の耳に、突然罵声に似た声が突き刺さった。
声の主の男は抜き身の剣を構え、ティオを睨んでいた。
胸元のあの鷲の紋章……憲兵か?
「そこの君! そいつはティオ・ペペリアだ!! 危険だ、すぐにこっちに来なさい!!」
「危険? ティオが?」
何を言ってんだこいつ。
俺が首をかしげている内に、憲兵がぞろぞろと集まってくる。
そして、いつの間にか俺たちをぐるりと取り囲んでいた。
これは……どういう事だ?
「君、その悪魔は本当に危険なんだ! こっちに来なさい!」
「ど、どういうこと……?」
「大罪人ティオ・ペペリア! 貴様には数多の重罪容疑がかけられている!!
――王族含む貴族16人と、英雄エスペランサを殺害した罪。
――更に自らの故郷であるサミリーシュの村を焼き、300人以上を殺害した疑いがある!!」
「わかったかお嬢ちゃん! そいつは大量殺人鬼なんだ!!!」
……は?
ティオが、殺人鬼?
そんなことある訳がない。
あり得ない。
英雄エスペランサってのは俺のことだ。
俺はティオに殺されたんじゃない、庇って死んだんだ。
それに……あの優しいティオが、人殺しなんてする訳が――
そう思って俺はティオを見上げ、そしてゾッとした。
フードに隠れたティオの顔は、ひどく冷たく寒気を覚えるほどに無表情であった。
何を考えているのか、幼なじみの俺でさえ全く分からないほどに。
「えっ?」
その時、憲兵の一人が後ろから俺の手を取り引っ張った。
「逃げるんだ君!!」
「待ってくれ! ティオがそんなことするハズが――」
と、言いかけたその時。
俺の腕を引っ張る感覚がふっと軽くなって……
「がっ、ああぁぁぁ!?!?」
俺を引いていた憲兵さんの腕が、地面にこぼれ落ちていた。
「――お兄ちゃんに触ってんじゃねぇよ」
まるで――脳をやすられるような、背骨に氷の棒を入れられたような。
そう錯覚してしまうほどの悪寒。
ティオの声が、ゆっくりと俺へ向けられる顔が、まるで世界の中心のように思えた。
ティオは――ただ、笑っていた。
笑っているはずなのに、何故これほどまでに――
「大丈夫だよお兄ちゃん、すぐに片付けるからね」
いつものように優しく語るティオの体が、異様な音を立てる。
ばきっ、めきっ、ぶちっ
シルエットが変わって、大きくなって、ティオがどんどん俺の知る姿からかけ離れて――
――どうして気づかなかったんだろう?
――あれから4年も経っているのに、どうしてティオはあの日の少女の姿のままだったのか。
「ひっ、化物……!」
「怯むな! 将軍様が来るまで時間を稼ぐのだ!!!」
『それ』にティオの面影はある。体格は女性らしく、胸もある。
けれどもそれ以上に……見覚えがあった。
全身は赤黒い毛皮に覆われ、頭からは山羊の角を生やし、顔は獅子のよう。尻からは蠍の尾が伸びていた。
それは……その姿はまるで――
『ちょっと待っててね、すぐ終わるから』
――魔神王、そのものじゃないか
呆然とする俺を横目に、ティオが腕を頭上に振り上げた。
その手のひらに、黒い瘴気と白い光が寄り集まってゆく。
「あれはまさか魔神王の……アレを撃たせるな!!」
『うるさい』
憲兵の何人かがティオに向かって迫る。しかし、ティオは片腕でそれらをあっさりと薙ぎ払った。
手のひらの上の白黒は、球体となりどんどん大きくなっている。今の大きさはバスケットボールほど。
あれは……〝勇者〟の魔を祓う光と、〝魔神王〟の全てを滅する闇、か? それを、混ぜ合わせて――
「な、何をするつもりなんだティオ……?」
『私のことバレちゃったから、街ごと消し去るの。大丈夫、お兄ちゃんだけは守るから』
「そんなことしたらたくさん人が死ぬぞ」
『どうでもいい。お兄ちゃんに危険が及ぶくらいなら、みんなみーんな死んじゃえばいい!!』
ヤバい。ヤバいヤバいヤバい!!
ティオをどうにかして止めないと!
「人殺しはダメだ! お兄ちゃんが許さない!!」
『お兄ちゃんは優しいね』
その瞬間――光と闇の珠が眩く輝き、辺りを飲み込んで――
「……あれ?」
目あれほどの魔力が解き放たれたのなら、一帯は灰塵に帰していてもおかしくはない。
しかし目を開けると、辺りはなんともなっていなかった。
憲兵たちはほとんど気絶しているようだけど、誰も死んではいないようだ。
「おのれ……この悪魔め……!」
唯一意識を保っていた憲兵さんがティオを睨み付ける。
「お兄ちゃんのお願いだから、今回はこれで許してあげる」
行こっかお兄ちゃん。そう言うと、元の姿に戻っていたティオは俺の手を引いて帰路についた。
……俺は。
俺は……どうすりゃいい?
「またお引っ越しか~」
ティオがたくさん人を殺した?
「今度はお兄ちゃんもいるし寂しくないね」
聞かなくちゃ。何かの間違いだって
「な、なあティオ」
部屋に着いて、ティオが扉を開ける。
開かれた玄関へ片足を入れたティオへ、意を決して切り出した。
「あの人達が言っていた事って、嘘だよな? ティオが貴族を……村の人達もみんな殺したって、そんなこと――」
「お兄ちゃん」
俺の言葉を遮り、ティオは微笑を浮かべた。
そしてゆっくり膝を折り、俺と目線を合わせて子供を諭すかのように語りだした。
「そんなどうでもいい事、お兄ちゃんは知らなくていいんだよ」
異様なほどに澄みきったティオの眼差しが、逆にひどく冷たく不気味に思えた。
「心配しなくても、何があっても私だけはお兄ちゃんの味方だからね」
満面の笑みでそう言いきると、ティオは俺を抱え上げた。
背後でばたんと閉まる扉の音が、もう引き返せない事を暗示しているように思えて仕方がなかった。
「そんなことより、次は何処に引っ越そうかな? お兄ちゃん行きたい所ある?」
「お、俺は……」
俺は――
――もしかしたら俺は、何処かで選択を間違えていたのではないか。
「大丈夫、お兄ちゃんと一緒ならどこでも天国だから!」
ティオの笑顔を真っ直ぐに見られない。
そんな自分に、嫌気が差しそうだった。
お読みいただきありがとうございます!
面白いと思っていただけたら、感想やページ下部より星評価など押してもらえると励みになります!!




