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野良パーティも悪くない  作者: いりま


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2/2

とある酒場にて

 先ほどの現場から少しだけ離れた場所にある酒場。

 騒々しい騒ぎ声の中、二人は対面する。


 アルガは少年をそれとなく観察した。


 歳は12かそこらだろう。

 痩せ細ってはおらず、普段から栄養のある物をしっかり食べている体つきをしているが、髪はボサボサでなんだか小汚い。

 おそらくここ数日あたり、まともな暮らしをしていないと見た。

 このような場に慣れていないのか、周囲をキョロキョロと見回している。


 酒場ともあって上手そうな飯もいたるところのテーブルに転がっている訳で、少年はその一つ一つをガン見しては羨ましそうな目をしていた。


「お待たせしましたあ~特製ハンバーグ定食です~」

「!!」


 俺の前にも飯が来たようだ。当然、少年はそれに敏感に反応する。


「なんだ。酒場で飯を食うのは当たり前だろ」

「う、うう……」

「俺が俺の金で何を食おうが文句ないだろ」


 アツアツの鉄板に乗った肉をナイフで切ってかぶりつく。

 店主こだわりの焼き方で石釜によりふんわりジューシーに焼き上げられたこのハンバーグは名物料理となっている。


 目の前の少年は、本当は見たくないのに匂いに釣られてこちらを見ざるを得ないようだ。

 よだれも垂れようとしている。心ここにあらずといった様子だ。


 こちらも落ち着かないが、話を進めることにした。


「名前は何と言う?」

「……」

「おい」

「はっ……な、名前? ……オレはレイ。よろしく、お願いします」

「俺はアルガだ。無理に敬語でなくていい。普段通り喋ってもらえば構わない」


 取って付けたような敬語が気になったので楽にするよう促す。

 俺もぶっきらぼうだし砕けていて構わない。


 少年──レイはほっとしたような顔で喋り始めた。


「なら遠慮なく……。なあ、さっきの人達って、無事なの?」

「ん? ああ、問題ないだろう。少し眠ってもらっただけだ。」


 ポケットから眠り薬の入った包みを見せる。

 嗅がせれば大型の獣でも半日は起き上がれない代物だ。


「これをぶちまけて嗅がせた」

「簡単に言うけど……投げたりするそぶりなんか無かった気ような」


 うんうんと唸るレイ。違和感を感じているのだろう。

 説明するのも面倒くさいので話題を変えることにした。


「人の心配ができるほど余裕があるのか? 先に言っておくが俺は面倒事は好かない性質(たち)だ。

 ……親はどうした? 保護者はお前がこんなところを徘徊していることを知っているのか?」


 ここは冒険者ギルド周辺。先程のように揉み合いの結果、人が倒れても気にも留めないのが通常運転だ。

 治安は悪いと言える。


 場合によってはここでオサラバだ。

 レイは気まずそうに目線をウロウロさせた後、観念したように口を開けた。


「親は……俺が今何やってるか知らない。黙って出てきたんだ。バレたら怒られるから……」

「オイオイ……」

「違う、オレは面倒くさくないし怪しくない……!

 壊してしまったんだ。家の大事なものを。だから、代わりを見つけるまで帰らないし帰れないんだよ……!」


 なんだか泣きそうな顔をしている。

 大事なもの、ねえ……。

 レイが肩に掛けている鞄にその”壊した大事なもの”とやらが入っているのろうか。

 路頭に迷いかけるくらい必死になって、こんな得体の知れない依頼に応募するほど追い詰められている、と。


「ちょっと見せてくれないか、その壊したもの」

「ええ、いやだ……」

「ならここでサヨナラだ」

「……見せる一択しか用意されてないじゃんか」


 ごろんと出てきたのは直径20cmほどの透明な玉。

 琥珀色で美しいが、大きなヒビが入っている。

 これは……「魔核」と呼ばれるものだ。

 魔素と呼ばれるエネルギーが詰まっており、魔道具の動力源として使われることが多い。


 ダンジョンで採れるものの代表にこの魔核がある。

 これほどの大きさ・純度なら、国で管理されるレベルだろう。

 素人が持っていて良いものではない。


 金が必要って……。

 この魔核を購入によって入手するとなると、金貨1万枚あっても足りないぞ。


「直ぐに仕舞え」

「え?」

「さっさと仕舞え」


「なんだよ、見せろっていったり、すぐ仕舞えっていったり……」とブツブツ言いながら片付けるレイ。


「俺だってそんな代物が出てくると思わなかったんだ。

 壊れた状態とはいえこれ程のお宝、襲われても文句は言えないぞ。」

「……オレは言われたから見せたんだけど???」


 それはさておき。

「計画性が全く感じられないな。

 そのレベルの魔核を手に入れようとしているのに現状が無一文とは。」

「べ、べつに無一文じゃないし……」

「ならその鳴っている腹を抑えるために注文の一つでもしたらどうだ」

「うう……」


 ──レイは思い出していた。

 普段から屋敷の外へ出ない自分。

 魔核の情報を求めて、慣れない街へ繰り出すも勝手が分からず途方に暮れ。

 金だけが出て行き何も掴めなかった毎日……。


 泣きそうなレイ。

 もくもくと飯を食べる俺。

 沈黙が支配するテーブル。


 気まずい。超気まずい。

 そんな中、のほほんとした声が俺達にかけられた。

 店員だ。


「お待たせしましたあ~ハンバーグ定食ですう。

 ご注文は以上でよろしかったですかあ~?」

「ああ、大丈夫だ」


 同時に2人分注文したんだがな。

 ここの酒場は安さ・旨さの代償にマイペースなので遅れてきたようだ。


「ごゆっくり~」と言いながら離れていく店員。

 ほかほかのご飯を目の前にして、レイは目を丸くしている。

 ……明らかに腹を空かせた関係者のガキをほっとくほど俺は落ちぶれていないぞ。


「食べないのか」

「え、でも、オレ、お金なんか……」

「俺が俺の金をどう使おうが俺の自由だろうが」


 恐る恐る一口食べて、ポロリと涙を流すレイ。


 ああ、くそ。

 ……こういうのは苦手だ。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 時を同じくして。

 ゆらり、と立ち上がる女がいた。


 ぼんやりする頭を抑え、記憶を反芻する。

 この頭の、霞がかった感覚は何かの薬のせいだろうか。

 ワタシは足下に転がるチンピラ達と話をしていて……。


 辺りを見渡すも、倒れるまでいた依頼主の男と少年がいない。

 どちらかにやられたのか。

 順当に考えて依頼主の方だろう、なんだか鬱陶しそうな顔をしてこちらを見ていた気がするし。


「あっ、お目覚めですね。もう、困るんですよ。いくらギルド構内だからって、倒れていてもずっと見守ってあげられる訳ではないんですから」


 ギルドの受付嬢だ。

 まったくもう、と言いながらチンピラ達をソファに寝かせようとしてくれている。


「ご迷惑をお掛けしたようダネ」

「慣れっこですから」

「ワタシ、どれくらい寝てタ?」

「えーと……そうですね、30分くらいでしょうか?」


 30分。

 薬物に慣れた自分をそれだけ昏倒させるとは。

 いつもと効き方が違うから、調合が特殊なのかもしれない……。


 なんにせよ。

 アルガは興味深い対象として、めでたくロックオンされたのだった。


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