上級ダンジョンに行きたい
一人というのは気が楽だ。
気を遣わなくていいし、好きな時に好きなことができるし、一緒にいる誰かを傷つけることもない。
だから俺は基本ソロで活動しているのだが……。
そうも行かなくなってしまった。
「上級ダンジョンは3人以上が原則……だと?」
「はい、すみません、規則ですので……」
すみません、すみませんと連呼する受付嬢を横目に、俺はスウ──……と息を吸い込んで、吐いた。
はあ……。
パーティ募集か……。
「アルガさんは今まで中級ダンジョンを中心に活動されていましたよね? 今回はなぜ上級ダンジョンに……?」
「大した理由でもない。 俺の探すランクの物が中級のどこにも無かったと言うだけだ」
ダンジョンは採れるモノの質で低級、中級、上級に分けられる。
なお危険度も比例して上がるため、国で法律が定められているのだ。
薄々上級にしかないだろうとは分かっていたが、誰かとつるむことが面倒くさすぎて現実を認めたくなかったんだよな……。
結局この国の全ての低級・中級ダンジョンを見て回ることになったが、どれもイマイチでダメだった。
一人で回れる範囲は全て見尽くしてしまった……。
ふと受付嬢を再び見ると、心配そうにこちらを見ていることに気づく。
「アルガさん、きっと募集をかけたら誰か来てくれますよ! 最近は野良パーティも増えていますし」
「ああ、まあな……」
野良パーティ。
ただの他人同士が一時的に組むパーティをそう呼ぶ。
噂によれば、まともに会話も成立しないヤツから、人の物を盗むヤツから、ロクでもない人間もいるらしい。
完全に自己責任の世界。
足手まといが居るくらいならソロの方が断然楽という気持ちは俄然強いが……。
「とりあえず申請するだけしてみるか」
「はい、募集要項を掲示板に貼っておきますね」
「ありがとう」
応募がくると連絡をくれると言う。
俺は待った。
待って、待って、待ち続け、一週間……。
「誰も応募してくれないのか」
残念な気持ち半分、誰も来なくてほっとする気持ち半分。
通常、こういったパーティ募集にはすぐ人が集まる。
冒険者はその日暮らしの人間も少なくなく、仕事の回転率は良いはずなのだが……。
普段から人と関わっていない人間が、都合の良い時だけ繋がりを求めようとしたのが悪いのかも知れない。
仕方ない。
こうなれば、金で解決するしかないな。
==== New!! クエスト ====
ただ依頼主についてくるだけ!
誰でもできる簡単な仕事です
命の保証 アリ
戦闘経験が無い方も歓迎!
内容:上級ダンジョンパーティへの参加。戦闘は不要。
条件:依頼主の邪魔をしない人
※邪魔をした瞬間命の保証は無くなります。
報酬:金貨100枚
==================
これで誰か釣れるといいが。
金貨100枚は、とある国の貨幣価値で諭吉(若しくは栄一)100枚分と言われるらしい。
これだけのお金があれば強い装備も買うことができるし、戦闘不要ならいい話じゃないか?と思うのだ。
しかし上級ダンジョンに行くということは命の危険があるということ。
実際起きるか分からない危険と金貨100枚が釣り合うかは、俺の知る領分ではない。
強ければ問題ないし。
しかし、冷静にみると巷で噂の闇バイト募集みたいな雰囲気になってしまったな。
そういう訳ではないのだが。
変な人間が来ても困るし、編集し直して条件を厳しくすると共に報酬を上げるか……。
そう思って張り紙を剥がそうとした、その時。
一瞬だが、俺より早くその紙を手にした人がいた。
「キミもこのクエスト、応募するつもりダッタの?」
ピラ、と紙を掲げる怪しげな女。
目の下にはクマがありいかにも不健康そうだ。パッと見、年は俺より幾分上そうなのに口調が全く成熟していない。
一番特長的なのはゴツい首輪だろう。
……こういう変なヤツが来る前に、編集し直そうと思ってたんだよ。
「いや違う。 おれは依頼主だ」
「フーン、そうなんダ! ワタシ応募するヨ! 雇ってヨ!」
はいはい、と手を挙げる女。
やかましそうなのでスルーしたい、が……。俺の怪訝な顔を見てか、彼女は説得を始めた。
「いないヨ、こんナ街に」
「何がだ」
「上級ダンジョンに行こうなんて殊勝な人間、いないヨ!」
……それもそうみたいだな。
「それにキミ有名人デショ」
……それは初耳だが。
「ありとあらゆるダンジョンをソロで潜り続ける修行僧。 ストイックさの行き過ぎで知り合いもロクにいない……デショ?
ギルドみたいな役所の人間からはよく働く無害なヤツとして何とも思われてないケド。 ぶっきらぼうで無愛想だシ、同じ冒険者からは変人を見る目で見られているト噂だヨ」
おい。そうだったのか。
上級ダンジョンが高難易度だから応募が来ないのかと思っていたが、普通に俺の人望も無さ過ぎたのかよ。
「ワタシにしときなヨ」
何か嫌だ……。
さながら今の俺は、虚無を体現したような顔をしているだろう。
どうしたものか。
考えていると、他にも声を掛けてくる者がいた。
「あの。 そのクエスト、オレも応募したいんですけど」
深くフードを被ったその声の主を見る。明らかに……小さい。
ガキだ。どう見ても。
「おい、遊びじゃないんだ。迷子か?」
「なっ、違!! ッ……います。金が必要なん、だ……です。……どうしても。」
訳アリ2号か。
このままじゃトンチキパーティになってしまいそうだ。
そう悩んでいたのが悪かったのか。面倒くさそうな輩が来てしまった。
「オイイ!! ウマそうな依頼あんじゃーーん」
「兄貴イ!! これでしばらく、俺ら楽できそうだねえ!!」
チンピラだ。絵に描いたようなチンピラ2人に絡まれてしまった。
そんなチンピラに、ベリッと紙を奪われる女。
「チョ、これはワタシが先に見つけたんダから! 取らないでヨ!!」
「そんな法律ないしい~~ イヤで~~す」
「あっ兄貴、俺いいこと思いついた!!
はい、あーげた…… なんつって! 上に持ち上げただけで~~す」
「は??
…………うっザ!! うっザ!!」
なんだこれ。ここは動物園か。
仕方ない、黙らせるか。
少年は見た。
キンッ──……と耳鳴りのような音を感じた次の瞬間、チンピラ2人と女性1人がドサドサと倒れた所を。
いきなりのことで息を飲むことしかできなかった少年に対して、依頼主の青年は当然のようにトコトコと彼らに近づき、張り紙を回収した。
「こいつらは、まぁうるさいから断るとして……
とりあえず離れるぞ。そこの小さいの、来るなら来い」
「え、な、何が──
って置いてくな……いや、置いていかないでください!!」
倒れている彼らを横に、2人はその場を立ち去った。




