第八十四話「開戦」
朝、予定の時刻が間もなくやってくる。
当然ながら人機軍はショウを渡さず、両軍は北の街壁を挟んで対峙していた。
「予想通りだが、ウィルスどもは戦うことを選んだか......」
バルクは腕を組みながら丘の頂上で北門を見下ろしている。
眺める先には、こちらも腕を組んで門前に佇むダンが居た。
「想定通りの敵の数、だがショウのお陰で一方的な蹂躙では無くなりそうだな」
こちらも丘の頂上で余裕そうに見下すバルクを睨みつけている。
予定の時刻を知らせる聖街の鐘の音がゴーン、ゴーンと鳴り響き
その音に続いて両軍のトップが指令を出す。
「全軍、突撃ィィィイイイ!!!」
「迎え撃て!一機たりとも街に入れるな!!」
人機軍は北門にほぼ全ての戦力を配置して迎え撃つが、
対する機械軍の数が尋常ではない。
丘の奥から大量の機械が押し寄せる様は、
まさにこれからこの街を粉もないようにする物量だった。
「こんな数....いくらなんでも勝てるわけが......」
騎士団の戦闘員たちが足を震わせながら武器を構えている。
動揺していたのか、気づいた時には機械軍がすぐ目の前に迫っていた。
「ウイルス体一ツ、排除ダ」
「ヒィィイイッ!?」
飛び掛かる機械に戦闘員の一人が反応できず背中を丸めて蹲り、
死を覚悟したーーが
ズダァァァアアアンッ!!
と、街壁の横に取り付けられた砲台から火が吹き、
飛び掛かる機械を撃ち抜いた。
あっけなく分裂した機械に、他の機械たちも止まる。
全員の視界の先にはショウが制作したあの自動迎撃砲が
至るところに配置されていた。
「コレハマズイ.....」
意気揚々と進軍した機械たちも一方的に侵略出来ない事実にようやく気付き始めたが、
最前線の機械たちには気付くのが少し遅かった。
「全軍下がれっ!!」
人機軍がダンの指示で北門のスレスレまで飛び退いて下がると
街壁の横や上に設置された機械が、
ババババババババッ
と一斉掃射を開始する。
「退避ダッ!退避シロッ!」
「何ダ何ダ?」
「進メェェ」
「ドケ!退ルンダ!!」
「ガッ?」「ゴガッ!?」
一網打尽の未来を悟った先頭の機械が後退しようとするが後方の機械は気付かず進軍する。
結局、最前線で砲台たちの射程範囲に入っていた
戦闘機械たちはもれなく粉々に砕けたのだった。
「さすがショウ様だ!」
「ああ、この機械があれば百人力!
いやっ、千人力だ!!」
予想を上回る自動迎撃システムの活躍に街の中はショウを称える声で溢れていた。
「安心するのはまだ早いっ
確かに大幅な戦力アップだが、門に雪崩れ込む敵を一掃しただけだ!
後方にはまだまだ敵が大量に構えているぞ!!」
ダンの叫びに部隊は気合いを入れなおす、
再び物量でこちらに突撃してくると構えていたが、
相手の出方は少し違うようだった。
「??
さっきから機械軍の奴ら、全然攻めてこなっーー」
正面ばかり気にしていた人機軍だったが丘の側面、
しかも空から昨日のドローンがスピーカーに代わって
マシンガンをぶら下げ突っ込んできた。
「やっぱ戦闘用じゃないか!!」
ドローンは街壁の横や上に付いたタレットの前を挑発するように飛び回り、
砲撃を搔い潜りながら反撃を繰り広げていた。
「やはり、厄介な迎撃システムを最初に破壊する魂胆だな!!」
「見ろ!正面からもさっきの機械たちが突撃してきてるぞ!」
人機軍の一人が気付き、大声で知らせる。
言葉通り再び正面から機械軍が攻め込んできていた。
「なるほど、こちらの砲台の狙いを逸らし、その上で突入する作戦か!
ツヴァイ殿、君は十人ほど引き連れてドローンを破壊してくれ!
正面は私と人機軍、残った騎士団で応戦する!!」
ダンはツヴァイに指示を出すとスタンディングスタートの形から少し上半身を落として両拳を握り、腰の辺りまで引き絞る構えを取った。
「分かりました!
べスティア隊は一度後方へ集合!
集まり次第街壁に登り、ドローンを撃ち落とします!!」
「了解!」
ツヴァイの指示で騎士団の一部が後方に移動する。
ツヴァイたち援軍がまだ到達しない中、
自動迎撃システムは至近距離で飛び回るドローンを破壊するべく弾を浴びせていた。
小回りの利いたドローンはスルスルと砲撃を避け、流れ弾が侵攻する地上の機械にあたる。
しかし先ほどの掃射に比べれば優しいものであった。
「クソッ!
敵の数が減らない!!
門の前まで来るぞぉ、迎え撃っ!?」
いよいよ始まる大混戦を覚悟する戦闘員たちの真ん中をとてつもない気迫で突き進むダン、先程の構えのまま走るその機体は次第に黒から赤に変わっていった。
「ウォォォオオオッ!!」
(体温を感じられないこの身体でも、 守るべきものがある。)
「蹴散らせっ!!『レッドボア・ストライク』」
北門前で赤い一鉄と無地の多鉄がぶつかり合い、多鉄が面白いくらいに吹き飛んで火花が散る。
粉々になった大量の鉄くずが地面に落ち、ダンが通った後には道が出来ていた。
「.....ほぅ、あれがウイルスの親玉か?
なかなかやるじゃねぇか」
丘の上で赤い突進を眺めていたバルクは、
興味深そうにダンを見つめていた。
「あれを準備しておけ、俺も出る。
久々に楽しめそうだな。
あと、用意でき次第構わず撃つように
仲間のことなど気にするなよ」
「承知シマシタ」
戦いの盛り上がりにバルクがウズウズしながら丘から滑り降りて行った。
そんな戦闘狂と思しき敵将から関心を得ているなど知らないダンは
突進だけで留まらず、機械たちを千切っては捨て千切っては捨て、首ねじ切って捨ててんげりと戦線を押し上げていく
「防衛だけにかまけるな!
こちらから攻めて潰せっ!数を減らすぞ!!」
「......うっ....ウォォオオ!!」
ダンの掛け声に戦闘員は鼓舞され、
一人、また一人と北門から突撃を開始する。
ダンの活躍により、戦いは人機軍が優勢だった。
ーー
「あ、あれが....人機軍戦闘部隊隊長 不死身のダン.......」
数名の人機を後方に集め、街壁に登り始めていたツヴァイは凄まじい勢いで敵を薙ぎ倒すダンを見ながら呟くが、その眼にはただの感嘆だけではなく、反撃の狼煙を心に刻むような決意が燃えていた。
「急いで登れ!登り切った者たちは等間隔に拡がり射程内のドローンに支給した追尾型グレネードを投擲しろ!!」
「了解!」
「グレネードォォオオ!」
登り切った者たちが指示通り次々に投擲していく、ドローンたちは常に変幻自在な動きをしているので一つも命中することなく地面に落ちていくーーと思いきや、落下するグレネードが独りでに上昇し、ドローンに向かって激突、爆ぜた。
「命中!」
「こちらも命中です!!」
ドンッ ドドンッ ドドドンッ!っと投げられたグレネードがドローンを撃ち落とし、数が減っていく
「よし!これなら地上部隊に心置きなく支援攻撃がっーー!?」
街壁前に漂うドローンは全て破壊され、脅威の一つが去ったと思われたが、丘の上から同じドローンがさっきの三倍に増えて飛んできているのが見えてしまった。
「気合いを入れ直しなさい!
昨日街上空を占拠したドローンです!
今飛んできているのでようやく半分くらいですよ!!」
「......そんな....こちらのグレネードは一人三つしかありません!これではっ」
ツヴァイの言葉に街壁で応戦する人機たちの士気が総崩れする、その隙を狙ったか定かではないがドローンが数体接近していた。
「うわぁぁ!?」
「任せなさい!!」
ツヴァイは腰にぶら下がった三十センチ程の円筒が束になったものを取り、そのうちの二本を引っ張る。引っ張られた円筒たちが左右に離れ、それにつられて他の円筒もギュイッと伸び、一本の棒へと形を変える。
「全員伏せなさいっ」
指示が出て、全員が慌てて伏せたことを確認し、ツヴァイが棒の左端を右手で握る。
握る時に身体を捻って力を込めーー
『戸愚呂乱舞』
回転しながら棒を振り回し、棒がドローンに当たる。叩かれた機械はバランスを崩すが墜ちない、大したダメージにはなっていないようだがツヴァイの攻撃は止まらなかった。
いつの間にか棒の振り回しは振り下ろしに変わり、回転しながらも的確に棒が振るわれる。
数刻にも感じる長い回転の中、気付けばドローンたちは一箇所に固まっていた。
「ここ!串刺せっ!!『刺突・鎌簪』」
振り下ろされる棒の先端に紫色の刃が顕現する。
集められたドローンは団子串のように並んで刃が突き刺さり、その機能を停止した。
「おお!!
流石ツヴァイ副長だぁぁああ!!!」
街壁の上は崩れた士気を取り戻して湧く、すかさずツヴァイが指示を飛ばした。
「接近する前に撃ち落とします!
困難と思われる時だけグレネードを投擲!
接近戦に持ち込まれたならば私に任せなさい?」
いつの間にか棒でも大鎌でもなく、幾つものヌンチャクが連結しているような形になった武器をブンブンと振り回わし、ツヴァイは余裕そうに空を飛ぶドローンを見つめていた。
ーー
「ウハァ〜〜
隊長も騎士団の変態さんも凄いね.....」
街壁と門の奥をおでこに手を添えて眺めるシェルンが感嘆の声を漏らす。
「....私たちも...負けてられない」
二丁のショットガンを構えて声を掛けるのはエリナ。
二人は門の内側で戦況を見極め、参戦の機会を伺っていた。
「だね!
私たちの新技、お披露目しちゃおっか!!」
「ちょっと待ってシェルン.....この機体、結構良いブースター積んでる......これなら特訓の時より楽に新技できるかも」
今にも飛び出しそうなシェルンを抑え、エリナが自身の腰帯についたボタンを押してブースターのテスト点火をしてみせる。
「そうなの!?
でも、使い勝手が分からないんじゃない??」
「大丈夫、暴れて振り回されるだけ.....でしょ?」
ニヤリと笑うエリナの言葉はその笑顔と似合わず物騒以外の何者でもなかったーーが
「それもそうだね!」
とシェルンも気にする素振りすら見せず、さも当たり前かのように返答して二人は同時に動き出した。
「....先ずは」
「敵の中にっっ!」
二人は各々リボルバーとショットガンで機械に風穴を開け、前へ前へと進んで行く。
味方と肩を並べていたところから更に奥へと先行し、とうとう周囲には敵しかいなくなっていた。
「コイツラ馬鹿ダ」
「自分カラヤラレニ来タゾ」
囲んだ機械たちが退路を絶つべく群がるが、
二人は全く動揺していなかった。
「行くよっ!エリナ!!」
リボルバーを仕舞い、代わりに鞭を取り出すシェルンが叫び、それに反応してエリナが全速力で駆け出す。
「.....いつでも行けるっ!」
敵から数メートルの所でエリナが跳躍、そのままブースターを点火し、ショットガンを構える。
「イッケェェェエエエ!!!」
いつの間にかエリナの後方に立つシェルンが鞭を伸ばし、何を思ったかエリナの脚を絡め取るーーと、そのまま振り回した。
『蛇邪縄』
シェルンの鞭がエリナを目まぐるしく動かす、
ぐわんぐわん視界が揺れる中、エリナは構えたショットガンで取り囲んでいる敵を撃ち抜いていく、一撃、一発で二撃、二丁で大風穴、鞭の動きはどんどん早くなる、気付けば囲む敵は十機まで減っていた。
「一網打尽!」
ジャイアントスイングのように鞭を回すシェルンが叫び、エリナが引っ張られる前の滞空時間でリロードを終わらせる。
再び構え直すとシェルンが鞭を緩めてエリナがすっぽ抜ける。
『.....爆竹蓮華』
鞭から離れるエリナは捻りを加えて回転する、空中で両手を開きショットガンを敵に向け、一発、また一発と浴びせ、計十発を放って着地した。
「....この新技.....さっきの人(変態)とちょっと被ってない?」
「ああっっ!
気づいても言わないでおいたのに!!」
大技を決め、ドヤ顔のエリナとそのセリフにツッコミを入れるシェルン。
二人が向かい合ってグーサインを出そうとする視界の横で、
「シェルンちゃんっエリナちゃんっ危ないっっ!!」と誰かが叫び、二人を突き飛ばす。
吹き飛ぶシェルンとエリナの視界に、
高出力の赤黒いエネルギー粒子が一面を覆った。
ーー
赤黒いエネルギーが炸裂する――
その光を、 門前で戦うダンが横目で捉える。
「……っ!?」
一瞬だけ生まれる焦り。
だが次の瞬間、目の前に一際ガタイの大きい機械が襲いかかる。
「前を見ろ!」
咄嗟の判断でダンは相手の攻撃をいなす、追撃を入れられる前に蹴りで吹っ飛ばし距離を取ると、開戦前に丘で直立していた敵将バルクがそこにいた。
「いよいよご対面だな?」
不敵に笑うバルクと無言で睨みつけるダン、二人の間の空間は歪んでいるように見える。
――戦いは、今ようやく牙を出し始めた。




