第八十二話「整え備える者、とっとと逃げる者」
「ぼくは今回、デヘンさんの技術を応用して
自動迎撃システムを搭載したミサイル砲や機関砲を外壁に設置、
人機軍の戦力を大幅に増やすサポートをするよ!」
「デヘンのアイディアを応用?
そんなので自動迎撃装置なんて作れるの?」
セレナが置いてあったタコ機体の足パーツを掴んでペシペシしながら片手間に聞く
「うん、デヘンさんがぼくに託してくれたこの設計図の中に役立ちそうなものがあったんだ」
ショウはそう言うとバックパックから一枚のチップを取り出してセレナたちに見せる。
「こんな小さい板に設計図が入ってるなんて信じられないわぁ〜」
「実はアルボリアに居た時にデヘンさんからホバーの遠隔射撃の構造を教えてもらってたんだ。
自動迎撃装置もそれの延長線上だからそんなに大変ではないと思う。」
「たしか...(ショウ殿に秘伝の術を享受するでござる~)って言ってたアレ?」
「うん、話のメインはメカスーツだったけど、
それを最大限生かすための装備の構造もたくさん教えてくれたんだ........」
ショウは思い返して、デヘンから受けた恩に涙腺が緩んだ。
「なら、デヘンが託した技術、存分に使わせてもらおうじゃない?」
ゴシゴシと涙を拭うショウの肩を叩きながらセレナが語り掛ける。
「うん......そうだねっ.......」
「じゃあすぐにでも製作に取り掛かろう!」
「...よし!
まずは高射砲や砲台の部品を一か所に集めておいてくれないかな?」
張り切って声を上げるシン、それに続いてショウが指示を出す。
「分かったわ!......ってショウは一緒に集めないの?」
「ぼくは少しでも戦力を増やすためにホバーを取りに行ってくるよ
それに、アンバーにも話しておかないと、すぐに戻るからこっちはお願いね?」
「話は分かったけど、一人で行くのは反対よ?」
セレナが腕を組みながら険しい顔をする。
「じゃあ、僕が付いて行くよ、早速ホバーを取りに行こう?」
シンがグーサインを出しながら立候補し、
それによってセレナの顔の険しさも消えていた。
「それなら安心ね?
気を付けて行ってらっしゃいっ」
「うん!行ってきます、
それじゃ、シン!湖に向かうおう!!」
ーー
「教皇様こちらでございます。」
一方で煩し者たちはシェルターの奥を突き進み、
最奥の部屋へと到着していた。
「ここは?」
デイマーレの案内でたどり着いたそこには、壁に布が掛けられている。
掛けられた布を引きはがすとーー
「こんなこともあろうかと隠し通路をご用意しておりました」
デイマーレは執事のように丁寧なお辞儀を披露しながら
自身の成果を教皇へと存分に奏上する。
(クククッ、ある日偶然見つけたこの通路が役立つとは
天はようやく私の味方をする気になったようですね)
「こんな通路を用意しているとは…脱帽ですぞデイマーレ卿……」
デイマーレ以外の枢機衆は、その用意周到(?)さによって、
彼の評価を改めなくてはならないと感じ始めていた。
「出口に出てからは私が先行致します」
デイマーレはまたまた丁寧なお辞儀を披露しながら
鰻登りに上昇する自身の評価を感じて、その感覚に酔いしれていた。
「おお、よろしく頼むデイマーレ卿…今は其方だけが頼りだ」
「教皇様、全て私にお任せください……お?」
一行が通路を進んでいると奥のほうが
薄っすらと明るくなっているのが見えた。
「どうやら街の外に出られたようですな?」
「助かった…」
そのまま進むと街壁からある程度離れた外に出たようだった。
前方には小高い丘が見える。
「あの丘で辺りを見渡せるはず、様子を見てまいりますのでお待ちを」
デイマーレが張り切って丘の方へ走っていったが
自身も同行しようという人物は誰一人としていなかった。
「ふぅ.....一先ず安心ですな?」
「後もうひと踏ん張りすれば、街から離れ、
戦いに巻き込まれることもなくなるでしょう」
枢機衆たちがその場に座り込んで安堵していると、
丘の方から叫び声が聞こえた。
「うわぁぁっ」
「デイマーレ卿!?」
教皇たちは急いで立ち上がり、デイマーレが向かった丘に近づく、
幸い近くに大きな岩があったのでその裏に隠れてソ~っと覗き込む。
(あ、あれはっ…!?)
「…ム?ナンダコイツハ??」
「ひっ、ヒィィィイイイ」
そこには丘を埋め尽くすほどの数の機械に取り囲まれたデイマーレの姿があった。
「バルク様ヲオ呼ビシロ。」
デイマーレの近くにいた機械が別の機械に指示を出し、程なくしてバルクが現れる。
「ウィルスが陣地に紛れ込んだと聞いたがそれがこいつか?」
「ハイ、恐ラク敵ノ偵察カト」
「ドウ致シマスカ?」
カタコトの機械がバルクに指示を仰ぎ、
バルクが端的に言い放つ。
「処分しろ」
「!?
お待ち下さい!
私は決して偵察などではありません!!」
デイマーレはバルクに縋りつき、声を上げる。
その姿は情けないという文字が人の形をして動いている様だった。
「…ではなんだ?」
「……亡命しに来たのでございます!!」
「亡命?」
バルクはその言葉にピクッと少し反応した。
(デイマーレ卿めっなんと卑劣な!)
「そちらの戦力と我々の戦力では勝敗は見えております!
であれば優位な方に手を貸し、生き残るのが最善なっ」
ボゴンッとデイマーレのすぐ横にある壁がバルクの右ストレートで凹んだ。
機械軍の親玉は震えるデイマーレに静かに言い放つ
「戦いから逃げ、あろうことか敵に寝返るなど言語道断だ。
元よりウィルスを仲間にする事などない、死ね」
「おっお待ちくだっ」
(ゴシャッ)
金属が潰れる鈍い破砕音を響かせ、
デイマーレは丘の一部になった。
「??」
バルクはどこかから視線を感じた気がしたが
周囲を見渡してもなにも居なかった。
「……軽く周辺を捜索しろ、まだウィルスが蔓延しているかもしれない」
「承知シマシタ」
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
「デイマーレ卿が.......殺されてしまった…」
「……どうしてこんなことに…」
「一先ず来た道を戻りましょう?」
「ああ、そうだな。それがいい、直ぐに戻るとしよう」
教皇たちはへっぴり腰で元のシェルターへと戻って行った。
ーー
「アンバー!来たよぉー!」
「アオーン!」
ショウは湖に到着して、飛び込んでくるアンバーをモフモフと撫でしだく。
「キュー」
愛らしい声の方を見ると、
キューイとその両親竜たちもスーッとこちらに向かってきていた。
「キューイも!会えて嬉しいよ!!」
アンバーに交じってキューイもいつものように顔をスリスリと擦り付ける。
「アンバーもキューイもありがとう。でも少し離れてね?」
ショウはもみくちゃにされる前に二匹を落ち着かせる。
「.....実は明日、機械軍が街を攻撃するみたいなんだ」
「ワゥッ」
ショウの言葉を聞いてそれまでブンブン振り回していたアンバーの尻尾がピタッと止まった。
「ぼくがここに来たのはホバーを連れて戦いの準備を進めるため、分かるかな?」
「ワンッ」
「……敵の数はすっごく多くて危険な戦いになる.....
この街が......消えるかもしれないんだ。
ぼくはこの街を.......お世話になった人たちを守りたい。
だから、アンバーも来てくれない.....かな?」
「ワオーン!!」
アンバーは右の鉄爪を袈裟斬りのように振るって空気を断ち切り、ショウの方へ向き直った。
「……ありがとうっ」
「キューン!キューン!」
二人のやり取りを見ていたキューイが鳴きながら
小さな円を描いて水面を移動する。
「キューイも手伝いたいと言ってくれているんだね、
ありがとう…でも街には湖みたいに自由に動き回れる水がないんだ……」
キューイはショウの言葉に残念そうに長い首を垂れていたが、
すぐに首を上げると両親の横にピタッとくっついた。
「安全な所に待機してくれるんだね?」
「キューン!」
「じゃあ、嫌な思い出かもしれないけど前にお父さん竜たちが捕まってた所で待っててくれないかな?」
「キュー!キュー!」
キューイは即座に返答し、父竜に首をスリスリと擦り付け、父竜もスリスリと首を擦り返していた。
キューイが母竜にも同様にしようとするがピタッと止まる。
見れば母竜は南にある大きな白い山を気にしながらソワソワしている。
「?どうしたの?お母さん竜??」
ショウも母竜の様子が変だと気付き、声をかける
母竜はショウの呼び掛けにかなり遅れて反応を返し、
戸惑う一行の空気に気付いて、キューイの身体に首をスリスリ擦り付けた。
「キュー」
「フフッ、考え事でもしてたのかな?」
キューイの嬉しそうな声に反応してシンやアンバーも
ほっとしていた。
「………」
しかしショウだけは母竜の行動に違和感を覚え、彼女が見つめていた南の山を一人眺める。
「ショウ、水竜たちも大丈夫そうだし、早く街に戻って戦いの準備をしよう!」
白い山をじっと眺めていたショウはシンの言葉で我に返ってハッとした。
「…大丈夫?ショウ?」
「…あっ、うん!大丈夫!!早速街に戻ろうか」
吸い込まれそうなほど山に魅入っていたショウは気を取り直してシンたちの後に続く、
振り返ってもう一度山を見たが、吸い込まれるような魅力はもう感じなかった。
ーー
「何とか戻ってこれましたな」
「一時はどうなる事かと…」
教皇たちはシェルター入口の方まで戻ってきていた。
件の抜け道は、すぐ近くにあった茂みを伐採して見えないようにしてきたのだった。
「まさか機械軍の根城に出てしまうとは…」
「教皇様、これからどういたしましょう?」
教皇は数秒目を泳がせた後、両手を組み合わせて項垂れ、絶望を含んだ声を出す。
「...........私にも分からぬ、
だがこのままでは機械軍との戦争に間違いなく巻き込まれるだろう」
「間違いありません!
劣勢に立たされた機械軍はこのシェルターに雪崩込むか、
或いは我々を戦いに駆り出すでしょう!!」
「それは由々しきこと、騎士団は別としても人機軍はやりかねませんぞ」
枢機衆たちがまたもや口々に不満を吐露し、
その声に続いて教皇もまた不満を漏らす。
「大体巫女も巫女だ、久方ぶりに表に出てきたかと思えば
街を上げてこの危機を乗り越えようなどと.......無謀にも程があって片腹痛いわ」
「.....教皇様、その件には私も些か疑問が残ります。
我々が今日話したあの者は果たして本物の巫女様なのでしょうか?」
「…? どういうことだ??」
枢機衆の一人の言葉に教皇がすかさず反応する、
発言した人物も深く頷くとそのまま話を続けた。
「今日我々の前にいたあの者、実は偽物では?」
『!?』
その人機の言葉に教皇を始めとしたその他の者たちがギョッと驚く。
「いくらなんでもそれは…」
「そうですぞ」
枢機衆のほとんどが彼の突拍子もない発言を否定する中、
また別の人物が口を開く。
「……いえ、あながち間違いではないのでは??
それに審議がどうであれこの疑念、混乱した状況では使える手かもしれません」
「はて?それはどういう??」
「つまり、こういうことでございます。」
偽巫女を提唱した人物とは違う人物が新たな企みを思い付き、
聖街に再び波乱の種が芽吹こうとしていた。
ーー
夕方、ダンは工房の上にある商団の応接室に来ていた。
彼はショウに会うために工房に来たが、
父として、何と声を掛けていいか分からず――
勇気も出ないため二階へ上がってきてしまったのである。
部屋の中をウロウロしているとコンコンッとドアをノックする音が聞こえた。
「っ!?……どうぞ」
ビクッと反応するダンだがすぐに落ち着きを取り戻して、外の人物を招き入れる。
「失礼致します。」
部屋に入ってきたのはツヴァイ、
ダンはマルトン辺りが気を利かせて来てくれたのかと思っていたので少し驚いた。
「ツヴァイ殿でしたか」
「ええ、先程のお礼をと思いまして」
「お礼…?」
「はい、先程は教皇様方の行き過ぎた発言に喝を入れて頂き、感謝申し上げます。」
ツヴァイは深々と頭を下げた。
「頭を上げてくれ、大したことはしていない」
「いえ!あなたが間に入って下さらなければ、
騎士団は街を捨てて護衛に付かねばならないところでした。
この気持ちは騎士団の総意、ひいては巫女様のご意思でもあります。
誠にありがとうございました!」
そう言うとツヴァイはまた深々と頭を下げた。
「......であればその気持ち、しかと受け取らせていただこう。
明日は共に戦い、その感謝を存分に発揮してもらいたい。」
「はいっ!必ずっっ!!」
二人の間に流れる暖かい空気が少し熱を帯びるようになった頃、
またコンコンッと扉をノックする音が聞こえた。
「来られましたね。」
「?」
ツヴァイはなにか知っているような口ぶりで呟き、言葉を続ける。
「どうやら大事なお話があるご様子、私はこれで失礼致しますね。」
ツヴァイが退出しようと扉を開け、奥の人物が代わって入室してくる。
その人物はショウだった。




