第八十一話「父の背中」
「街の人機は志願する者以外をシェルターに避難、
このため我々人機軍と騎士団は、ほぼ現状の戦力で機械軍と戦う。
これは決定事項だ、異論は認めない。」
「ダン隊長!
それでは敵戦力の半分以下です!
幾らなんでも勝ち目がありません!!」
ダンの発言で広間の空気は一気に揺らいだ。
ツヴァイも考え直すようにと抗議するがーー
「これは決定事項だと言ったが…?」とダンの意思は固たかった。
「グッ……」
ダンの圧でツヴァイが気圧される。
「隊長、教皇様御一行の移送、完了致しました。」
張り詰めた空気の中、先程ダンの指示で教皇たちを連れて行った隊員二人が戻ってきた。
「ご苦労、作戦会議中だ。
マーカスに連絡は取れるか?」
「はい、そう仰ると思い、先程連絡を入れたところ
現在京愁様を乗せ、こちらに向かっているそうです。」
「それは嬉しい報告だな、だがアイツが素直に従うとは…」
「……いえ、マーカス様は修行場所に連れて行くと嘘をつき、京愁様を連れて来るようです………。
その……後のことは隊長にお任せするれば良いと………」
「はぁ……分かった。
開戦直後にアレは機内から落とせ、ヤツも強制戦闘なら有無を言わず戦うだろう
大曲者を落とし次第、マーカスも上空から戦闘に参加するようメッセージを送っておけ」
「ハッ」
部下の一人はダンの指示に敬礼し、その場を離れていった。
もう一人を輪の中に入れ、ダンが会議を再開する。
「話を進めよう、戦闘員が足りていない以外にも問題がある。
現在、明日の戦いに備えて我々人機軍の運び込んだ装備を分配しているが
敵戦力を考えるとかなり不足している。」
「なんでそんなことになってるんだ?」
コールが訝しげにダンへ説明を促す。
「もとより今回の防衛任務はほとんど形だけのもので、
偵察機を撃退するという名目を少し誇張した程度の装備しか
用意できなかったのだよ……」
コールの追及が手痛かったのかダンの言葉は少しぎこちなく聞こえた。
「それに関しては騎士団も同じように戦闘用の物資が不足しています。
元々この街は戦闘を想定した形態をしていませんので、今ある物資ではどうにも.......」
ダンの話に共鳴するようにツヴァイも騎士団の現状を述べる。
「やはりそちらも一緒か.....騎士団の保管している物資を借りられないかと思っていたんだがな........」
頼みの綱があっけなく切れ、ダンは腕を組んで考え込み、
ツヴァイも頭を両手で覆ってしまっている。
「話は聞かせていただきました。
フッフッフッ!今こそ我が商団の腕の見せ所!!」
気持ち上ずった声で語るは、広間の丸テーブルを囲む一行から少し離れた入口、
両腕を胸前で組むその人機は間違いなくあのマルトンだった。
「マルトンさん!!」
「??
知っている者かい?」
シンの反応にダンが少し興味ありげに尋ねる。
「はい、コロンブス商団の副団長をされている方です。」
「ほう.....商団の.........?」
シンの紹介にダンの興味がさらに深まった。
「どうやら戦うための物資が足りていないご様子、
それでしたら我がコロンブス商団が総力をもって
この戦いの支援を致しましょうではありませんか!!」
マルトンはなぜか期待の視線が飛ぶ正面から少し逸れた方に体を向けながら
両手を広げて宣言していた。
「マジかよ!
そいつはありがてぇぜ!!」
「心強いご提案、私からもお礼を」
コールはガッツポーズを取り、ツヴァイは軽くお辞儀をする。
「いえいえ、礼には及びませんよ」
お礼(雑音)を真摯に受け流し、胸を張るマルトンは
心の中でしてやったりと思っていた。
(どんなもんですか!
この登場と活躍の期待感、ピンチに颯爽と現れる私はまさにヒーローです!!
ーーこれにはルミナ・クワイアもイチコロのはずっっ!?)
決めポーズで演出を締めくくったマルトンが
満を持して聖歌隊のメンバーを見るーーが
「ショウくん天才!」
「私も何か作って欲しいな~」
「わたしも」「ほしい」
自分に飛ぶはずの黄色い声援は美少年に
いとも簡単に吸収され、マルトンは膝から崩れ落ちるが、
その両手は組み合わされ、彼は小声で「尊い.....」と一言述べて、固まったのであった。
「戻ったわ、街で一番高い建物から敵陣をスコープで見てみたけど
さっきの放送の通り、機械軍は本当に明日の朝まで攻めてこないみたいよ?
装備の手入れはしているみたいだけれど今すぐ攻撃を開始しようって雰囲気ではなkーー」
広間の天窓から糸で降りてきたセレナは偵察の報告を
手短に済ませようと早口で進めるが、聖歌隊に囲まれるショウを見つけてしまった。
「まぁたアバズレが集まってる!
ていうかなんでアンタたちがここにいんのよっ!」
セレナはシャーと威嚇しながらショウを奪還する隙を窺う。
「確かに、聖歌隊の皆さんは戦闘機体じゃないですよね??」
もみくちゃにされるショウも
思い出したかのように同じ疑問を投げかけた。
「まあね!自慢じゃないけど全然戦えないよ!!」
ミアが胸を張りVサインでショウの疑問に不完全のまま返答する。
「私たちは」
「戦わない」
「戦えないでしょ?」
続くララとリリのドヤ顔宣言にレーゼが突っ込みを入れた。
「ふふっ
でもね?戦うことだけが役に立てることではないのよ?」
ナフタが意味深に話を引き継ぐが、
「? それはどういうことでっっーー」
「まあまあ!それは明日のお楽しみってことでっ!!」
食い気味に乱入してきたミアの一言で聖歌隊メンバーは
その件についてそれ以上言及しなくなってしまった。
「安心して~私たちを守ってくれる人は~
すっごく沢山いるから~」
説明の不十分さを申し訳なく思ったのかフリアがフォローを入れる。
「そうそう!私たちもお互いを守るしねっ!!」
フリアのフォローに同調するようにミアが一言発言しながらレーゼに抱き着く
「ちょっとミア動きずらい、くっつかないでっ」
わちゃわちゃしているその光景にショウは平和だとしか思えなかった。
「ええ~いいじゃ~ん」
彼女たちが思い思いにじゃれ合いながら会話する姿は、
やはり聖歌隊が戦闘仕様ではなくアイドル仕様である事の
何よりの証拠であるとショウは改めて感じた。
「この街は私たちの街だからね~
自分たちの街は自分たちで守らないと~」
「フリアの言う通り、
私たちだけでは守り切れないけれど
何かの役には立てるから」
「そういうことっ!
というわけで隊長さん
私たちにもおしごとちょうだーい!」
皆の発言を最後にミアが受け取り、
ダンに駆け寄ってアピールしに向かった。
「これは心強いな
では君たちには何が出来るのか
まずそこから聞かせてもらって仕事を割り当てるしよう」
ダンはミアたちを見て薄ら笑いの含まれた声で返答する。
「あ~!信じてないな?
このミアちゃんが戦場に出たら一機当千で
機械軍もファンにしちゃうんだからね??」
ミアは抗議するがその抗議の声も笑っているように陽気な声だった。
ミアたちのユーモア溢れる会話に
ダンの物腰が少し柔らかくなったように見える。
その後ろ姿を見てショウも役に立てることを探そうと思い、
気づけば駆け足で扉を目指していた。
「ショウどこ行くの?」
「みんなを見てたら居ても立っても居られなくなって
ちょっと商団の工房で戦いに使えそうなものを作ろうと思うんだ!!」
呼び止められて足踏みしながら返答するショウを見て
仲間もその提案に続くため口を開く、
「それはいいね!僕も行くよっ」
「アタシも行くわ」
「セレナが行くなら私も行くわぁ~」
三人が賛同し後に続こうとする中、
コールだけが違う意見を述べた。
「なら、俺は残っとくぜぇ
会議の詳細は後で教えるからな」
コールはグーサインを出すと
そのまま会議の輪に戻っていった。
「ありがとう、コール!」
彼の提案通り、会議はコールに任せてショウたちは工房まで走り出した。
ーー
ここは薄暗いが空間だけはかなり広い殺風景な部屋
外からの音は何も聞こえず、じっとしていれば誰にも気付かれないであろう場所。
そんな場所に五月蠅さを運んできそうな連中が居た。
「全くあの人機軍の隊長とやらは礼儀がなっとらん」
「同感です。我らは廻帰教の教皇様と枢機衆ですぞ??
軍の支援なしで独立した運営を行い、
その上で軍の厄介事を陰ながら支えてきた我々にこの仕打ちとは
人機軍も随分と地に落ちたものです!」
「.....ほんっとうにその通りだ、
私は教皇だぞ?こんな仕打ちはあんまりだ。
どうにかここから出て安全な所に退避できないだろうか??」
枢機衆たちや教皇はこの場に自分たち以外居ないことを良いことに
不満をボロボロと溢していく。
「ご安心ください教皇様、
こんなこともあろうかと私は前々から準備を整えていたのでございます。」
教皇の悩みに枢機衆の中で一番背が高く、細身な人機が名乗りを上げた。
「おお!デイマーレ卿そなた何か良い考えがあるのか?」
デイマーレ卿と呼ばれたその人機は教皇に一礼すると
両手を広げて自信満々に語りだす。
「勿論ですとも!
ただ此度の憂いを払拭出来た暁には
長年議論されてきた、枢機衆のまとめ役である枢機卿にこのデイマーレをご任命
賜りますようお願い申し上げます。
この願いを御快諾頂けるのであれば、すぐにでも妙案を実行に移して見せましょう。」
「その自信の在りよう期待できるな!
良いだろう良いだろうこの件が無事に済めば直ぐにでも
其方を枢機卿に任命いたそうではないか」
ようやく見えた安全の光に教皇は二つ返事で承諾し、
デイマーレは心の中で長年の戦いに勝利した喜びを噛み締めていた。
「ありがとうございます。」
(見たか!これこそ枢機卿の器だ!!)
「デイマーレ卿、やはり貴方は教皇様のことを常に考えておりますなぁ」
(デイマーレ卿めっ!
まさかこんな形で枢機卿の座を狙ってくるとは.....)
何も知らない安堵する教皇と恐らく最大の貢献者が肩を組む傍で
ハハハッと笑う人機たち、だがそのほとんどが心の中では黒い思いを抱き
それを見透かされないように注意を払いながら作り笑いを上げていた。
「では参りましょう教皇様、こちらでございます。」
「ああ、向かおう。
こんな陰気な場所とは一刻も早くおさらばしたい。」
ーー
「よしっ!夜まで時間はまだある!!
出来るだけ戦いに役立つものをたくさん作らなくっちゃ!!」
工房についたショウは腕まくりをしてシンたちの手を借りながら材料を物色していた。
「ショウ、作るって言っても何を作るの??」
「機械軍はこっちの倍の数いるってダン.....隊長も言ってたよね?」
「うん、言ってたけどそれがどうかしたの?」
「要は手数が相手と同じくらいあればいいと思うんだ」
「......手数??」
イマイチ理解が追い付かないショウの発言にシンが首をかしげていると
ショウはそのまま話を続ける。
「ぼくは今回、デヘンさんの技術を応用して
自動迎撃システムを搭載したミサイル砲や機関砲を街壁に設置、
その機構で敵と戦う戦力を大幅に増やすサポートをするよ!」
ショウの瞳にあの漆黒の大きな背中が宿る。
広間で指示を出し続ける漆黒の背
その父の背に心震わされ、少年の心はかつてないほど燃え上がっていた。




