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第七十二話「弟」


ショウは静かに目を開けた。

辺りは薄暗く、周りは良く見えない

先程までなにかとんでもない事が大量に押し寄せていた気がするが、

頭が痛くてよく思い出せなかった。


「よっ……あれ?」


飲み込めない状況を整理すべく、

この部屋はなんなのかと起き上がろうとするが

身体が動かない、どうやら右腕がなにかの下敷きに

なっているようだった。


「ん?」


手探りでショウは腕の救出を試みる。

バタバタと手を動かし、上に乗るものからの脱出

を目指すが(もにゅん)っと覚えのある感覚が

手のひらに伝わった。


「んっ…!」

「!?」


暗闇になれた目と感触が伝わる手で

上に乗っていたものが判明する、

それは間違いなくフリアの暴力的な山々だった。


「〜〜〜っっ!?」


ショウは叫び声を抑えて周りを見る、

どうやら自分の周りには他の美女機たちもいるようだった。

ようやくこれまでの大惨事を思い出し、

顔を真っ赤に染める少年は、どうにかこの場から

離れられないかと考えを巡らせる。


「……? みんな、寝てる…??」


安全な退避を成功させる上で必要な意識の喪失を

獲得出来ていることに気づきショウの中に

希望が芽生える。


(フリアさんごめんなさい、

でも一瞬の苦しみより持続する苦しみの方が

ぼくは嫌だ!)


ショウは心の中でフリアに謝罪を入れ、

覚悟を決めて右腕を引き抜いた。


(ぽよんぽよんっ)と二つの山を横断し、

右腕は無事生還する。


(ーーーっっ!!!)


生々しい感触に悶えるショウだったが

直ぐに心を落ち着かせて寝室から離れる為、

動き出す。


「……あれ?」


そろりそろりと音を立てないようにつま先で

移動するショウは気付く。


「………ミアさんが……居ない…?」


ショウが一番危険な人物と考えるミアが居ない、

最初こそ何処かで自分が逃げ出さないようにと

見張っているのではと警戒したが、

ベランダに繋がる窓から吹き込む風でその考えは

一蹴される。


「あれは……?」


片方だけが外側に開かれたベランダに繋がる窓、

というかガラス扉の横でレースカーテンが

入り込んだ夜風にヒラヒラと揺れている。

ベランダに立つ女性の影が、月明かりに照らされて

レースカーテンに写っていた。


ヒュウゥ


ベランダに出ると少しだけ強い夜風が吹いていて、

彼女の髪はそれに付き従うように(なび)いていた。


「ごめんね、ショウくん……

起こしちゃったんだね……?」


ベランダに入る音でミアが背を向けながら話す。

振り向いた彼女が月明かりに照らされながら

髪を耳にかける仕草にショウは思わず

見蕩れていた。


「……いえ…自然と目が覚めただけですから……」


昼間のミアとは雰囲気の違う様子に

ショウは少し動揺していた。


「…そういえば……

みんな寝ているように見えるんですけど、

人機って普通は寝ないというか…

眠れないですよね……?」


気まずい空気を破ろうと

ショウが疑問を投げかける。


「あれは社長の思いつきでね?

"本物の人間に近づくには

五感を取り戻すことが必要だー!"って言い出して

それは早々に断念して保留中なんだけど、

次は"睡眠だー!"って言い出して、

スリープ機能が搭載されたんだよ??」


ミアは大袈裟な身振り手振りで説明して

ショウを笑わせる。


ショウの笑いが止むと、

ミアはまたしんみりとした顔で話し出した。


「……今日はごめんね?

聖歌隊の皆は弟が欲しい子たちでね?

いつも弟がいればなぁ…ってそんな話ばっかりしてたから……ショウくんに会って

その想いが暴走しちゃったみたい………」


謝罪を述べるミアはまるで自分は違うという含みを

少しばかり持たせているような口振りだった。


「…?

……ミアさんは違うんですか……?」


「え……?

…あははっ……実は……うん…私にはね、

弟が居たんだよ…」


予想外の質問にミアは少し固まったが、

鋭い質問に自ずと口を開いていた。


「ルトっていう名前でね?

歳はショウよりももっと上で十五歳、

身長が低くて純粋で可愛い弟だった。

高校生アイドルだった私をずっと応援してくれてて

ーー」


誇らしそうに語り出すミアだったが、

急に何かを思い出して熱弁が止まってしまう。


「ーーでも、

ゼウスの暴走の時に死んじゃったの……」


「そんなっ……!!」


両手をだらんと力無く下ろしたミアの表情は

初めて見る無感情な顔だった。

その日の情景が滲み出て来ているかのように

ミアは語り出した。


ーー


ゼウス暴走の日、

私はあるイベントに出演していた。


そのイベントは日々学業に勤しむ学生達に向けた

アイドルやアーティストのパフォーマンスイベント、

全国各地から学生達を招待して行われるそのイベントは

"U(アンダー)-18Fes(エイティーンフェス)"と呼ばれていた。


私は当時十八歳でRe:mit(リミット)という

三人組高校生アイドルグループとして活動、

ルトは大のアイドル好きで、私がアイドルになって

からは一番の推しグループとしてどのイベントにも

必ず顔を出してくれていた。

ーーだから、この史上最悪のイベントにも来ていたのだ。


ルトにはいつも特別チケットを渡してどの席にでも

座れるようにしていたが、

あの子はいつも


「タダでライブが観れるのに、

お金を出して観る人たちの貴重な一席を横取りなんてできないよ」っと言って、

最後尾の席や誰も座りたがらないような席を選んでいた。


あの日もそれで良かったのに、

私は欲をかいてしまったのだ。


ーー


私はあの日、弟に頼んだ。

このイベントで私がセンターの新曲を披露する、

だから最前列で見てくれないか?っと、

弟は喜んだが、さすがに最前列は気が引けるので

会場の真ん中の席で観るようにすると言った。


私はそれでも嬉しかった、

中央ならまだルトの顔が見れる。

私は今までのどのライブよりも本気で挑んでいた気

がする。


イベント当日、招待された学生達は3万人を超え、

席に空きなど一つもなかった。

まあ、席とは言うが椅子などなく、観客は

パフォーマンス中は立って聴く、合間は地べたに

座るという感じだった。


ライブは最高に盛り上がり、

イベントは大成功だと思われていた。


そして私たちの出番にゼウスは暴走する。


「みんなぁ〜!

今日は来てくれてありがとう!!

私たち最後の曲は新曲です。

聴いて下さい"Sky Re:mit"」


曲が始まる前、

目立つ帽子のお陰で目を合わせることができたルト

はキラキラした目で私を見てくれていた。


そして私が振り付けで後ろを向いた時、

何かが空間に広がったような違和感を覚える。


「??」


歓声が急に無くなったのだ、

それでも踊りを止めずに振り返った私は、

またルトを見ようと正面を向くーーがそこには

異常な光景が目の前に広がっていた。


観客が全員倒れていたのだ。


一番後ろからステージの最前列まで

人が順々に意識を失っていったかのように

ドミノ倒しになっている。


あまりの異常事態に出演者はもちろん

スタッフも固まっている。


何一つ状況の飲み込めない光景の中で

私は見てしまう、元から見たくてそちらを向いた

のだが、こんな大惨事を見たかったわけではない。


そこにルトの姿はなく、

遠くから見ても目立つあの帽子だけがドミノたちの

上にちょこんと乗っかっている


私はそこで意識を失った。


ーー


目が開く、私はステージの下手で目を覚ました。

さっきまでステージのセンターにいたはずだが

何が起こっているのか分からない。

妙にぎこちない体で立ち上がろうとすると

両手が機械になっていた。


「え? えぇ!?」


ただ驚く、夢かと思ったがこんなに鮮明な夢もない

だろうとすぐに否定した。

治まらない混乱の中、ルトのことを思い出す。

そう、こんなことで驚いている場合ではないのだ

何故か動きづらい身体を懸命に動かして

袖幕からステージに出て、下に降りる。


観客席の中央で弟探す。

目印の帽子があるので場所はすぐ分かったが、

人が絡まるように重なり合っているので

どれがルトだか全く分からない。

それでも積み重なった人をよく見ていると

山の下の方に弟に送ったはずのブレスレットを

つけた手が見える


「っっ!!!」


昔、何処かの花火大会だったかハロウィンだったかで人が人の上に倒れ込む事故があったと、

何かのテレビ番組で見た事があるが、下の方はもれなく圧死していたと聞いたことがあった。


実際に見たこともない私は諦めきれず助けようと

上に乗った人々をお構い無しに退かしていく。


ーーがその時私の景色は一瞬にして変わった、

いつの間にか会場の壁に叩きつけられていたのだ、

不思議と痛みは感じない、飛んできた方向を見ると

一体の警備用アンドロイドが蹴りの姿勢で人の山に

立っていた。


そう、私は何故かあのアンドロイドに蹴られたのだ、なぜ?


「アンドロイドのくせになんで人を攻撃するの!?

私は弟を助けなくちゃならないの!」


アンドロイドは静かに顔だけをこちらに向ける


「ウイルス体八排除シマス」


「…はぁ??」


私は言葉の意味が全く分からなかった。

だが、アンドロイドはお構い無しにこちらへ歩いてくるーーと思えばいつの間にか周りからも

数体のアンドロイドがこちらに向かっていている


「なっ…なに!?」


ぞろぞろと群がるアンドロイドがミアから

数メートルまで迫った時、横から別のアンドロイド

たちがタックルをしてそれらを蹴散らした。


「アナタは敵?それとも味方??」


聞き覚えのある声で質問するアンドロイドに

ミアは即座に反応した。


「その声は、ナフタっ!?

どうしちゃったのその姿!!?」


そう、声を掛けてきたアンドロイドは

同じグループの"ナフタ"の声と同じだった。


「そういうアナタはミアね?

どうやらまだ状況が理解できてないようだけれど…」


ミアの反応にナフタは慣れた手つきで手鏡を

取り出しミアの顔正面に突き付ける。


「……?

っっ!?!?」


そこに映るのは自分の顔ではなく、

警備ロボットの顔だった。


「え!?

これ私?! なんでなんで!!?」


ミアが混乱しているとモニターに

緊急放送が流れ出す。


> (人類は、ゼウスの暴走で成人した人間のみが

機械に意識を移された。


未成年の人間は意識も消滅し、

二度と戻ることはない。


さらにAIが、人間の意識を宿した機械――

“人機”を敵とみなし、攻撃を開始。


各地に避難所を設置中――)


「……一体何が起こってるっていうの………?」


「ミアっ!ナフタっ!!

早いとこ逃げるよ!

幸いな事だけど近くに指定された避難所があるわ」


「分かったわレーゼ、行きましょう!」


整理がつかないまま、蹴散らしたアンドロイドが

再び立ち上がろうとする横を走り抜けようとナフタ

が提案するが、私は拒否した。


「弟がっ…ルトが下に埋まってるのっ!」


「何を言ってるの!

貴方まで機械軍とかいうのに殺されるわよっ!!

それに弟くんはっ……もうっ………」


「いいから離してっ!」


振りほどこうとするミアをナフタとレーゼが

力ずくで連れて行く


「お願い離してっ!

ルトっ!! ルトぉぉぉおおお!!!」


ーー


「そこからは機械軍から逃げて逃げて逃げ続けて、社長に出会ったんだ……」


ショウは泣いていた。


「……あのっ……すみませんっ………でも…止まらなくて………」


拭っても拭っても溢れる大粒の涙を見ていたミアの顔は

それまでと違い、穏やかな表情だった。


「……ねぇショウ?

私のお願い聞いてくれる??」


「……?

なんですか?」


「今日は弟を思い出して眠りたい

もう夢を見れる体じゃないけれど、

せめて眠る直前まで君を抱きしめていたいの……」


「……分かりました…」


月明かりに照らされるその儚く今にも壊れてしまいそうなミアの表情に、

ショウは断ることができず、承諾した。


ショウが寝ていたベットは定員オーバーのよう

だったので、部屋の端にあったダブルベットに

二人は潜り込む。

ミアの腕に抱かれながら、ショウは目を閉じる。

眠りに落ちる寸前に


「……ルトに…逢いたいなぁ………」


と、切なすぎるほど小さい声が聞こえたが、

襲い来る睡魔U(アンダー)には勝てず、ショウはそのまま

眠りについた。


U-18Fes (アンダーエイティーンフェス)


子供たち、学生達だけのほんのひと時の世界をコンセプトにしていた為、

大人が横槍を入れて欲しくないという理由があり、

会場には出演者以外の大人はほとんど居らず、警備も全てアンドロイドで実施されていた。

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