第六十一話「聖歌隊」
「みんな〜、今日は来てくれてほんっとうにありがとう!」
「またゼッタイ見に来てよね!」
「降臨祭でもステージに出るから、次はそのときに会おーねっ!!」
「じゃあ今日は──」
『バイバーイ!!!』
熱狂の渦のまま、“聖街のアイドル”こと聖歌隊ルミナ・クワイアのステージが幕を閉じた。
観客たちは名残惜しそうにしつつ、慣れた様子で片付けを手伝いながら会場を後にする。
「す、ごかったですね……あんなに激しく踊ってるのに、息一つ乱れず歌いきって……」
「まあ、生身の人間なら凄いが……人機だしな」
「いや、それでも凄いよ」
「ええ。彼女たちは人機になる前から“本物のアイドル”として活動していたんですよ。
疲れない身体を得て、練習で倒れることもなくなり、ライブの回数も増えた。
でも“人間の頃の表現”をどうやって再現するか……その一点を追い求め続けていて……」
マルトンは腕組をしながら、最後はガッツポーズ。
ルミナ・クワイアへの愛を全力で語りきる。
「……やっぱり、あの人たちって……」
「? どうしたの、ショウ?」
セレナがショウの顔を覗き込む。
「いや……聖歌隊の人たちの顔、どこかで見たことがある気がして……」
「ふ〜ん。見惚れてたんだ?」
「え!? ちが──いや、そうじゃなくて……そうだ!」
「なに? ホントに見惚れてたってこと?」
セレナの目がジト〜ッと細くなる。
「だから違うってば! あの人たちって、セレナみたいに綺麗で、人間と見間違えるようでしょ?
あんな綺麗な機体を作れるのは、あの人しかいないはずなんだ」
「アタシが……綺麗……!?」
セレナが固まる。
ショウは気づかないまま話を続け歩き出す。
「あの精巧な造りは絶対にデヘンさ──あれ?」
横にいたはずのセレナがいない。振り向くと、セレナが飛び掛かってきた。
「これは同意の上ということよね〜!」
「え!? なに!? なになに!?」
不二子ちゃんダイブ並の勢いで迫るセレナ。しかしその背中から伸びる六本腕が街灯にしがみつき、寸前で阻止された。
ガシッ。
「なっ……なんでよ!! あとちょっとだったのに!」
「セレナ〜? それじゃ同意じゃないし、まずはママにするのが筋じゃないかしら〜?」
「誰かぁ! この腕ちぎってぇ!!」
「もう置いていこうぜ……」
コールは心底疲れた声を漏らした。
◆◆◆
「到着いたしました。こちらが我らコロンブス商団の工房です。奥にリペアの準備を整えております。」
案内された建物の奥には、用途さまざまな機械パーツが所狭しと並んでいた。
「こいつぁ……スゲェな……」
「僕も、ここまで種類があるのは初めて見るよ」
「ママに使えそうなのあるかしら?」
「セレナが選んでくれたのがいいわぁ〜」
「商団の総力を挙げてご用意しました。中央都市にも引けを取りません。どうぞご自由に」
マルトンは付き人に耳打ちされ、別の仕事へと向かっていった。
「ほんとにどれでも使っていいのかな?」
「“大恩人”とか言ってたし、この力の入れ具合……問題ねぇだろ」
「だね! ここまで準備してくれたんだし、存分に使わせてもらおう!」
ショウはリペアツールを手に取り、パーツ選びを始める。
◆◆◆
「ふぅ……こんなものかな?」
汗を拭うショウの前で、新しいパーツを組み込まれたコメットが起き上がる。
「ロン? 今回もありがとねぇ〜。しかも今回はセレナとお揃いに尻尾まで……翼でも付いたら完璧ねぇ〜」
「いや、それ悪魔だろ……」
「もうママ! ロンじゃなくてショウよ? いつになったら覚えるのよ……」
「そうだったかしら? ごめんねロン〜」
「だからショウだってば!!」
「これは素晴らしいですね!」
戻ってきたマルトンがコメットを眺めながら感嘆の声を上げる。
「元の機体に、新しいパーツが“自然に溶け込んでいる”……拒否反応が出ないとは…奇跡でしょうか!?──っと恩人の事情を探るつもりはございません。どうぞご安心をっ」
興奮をすぐさま抑え込み、マルトンはいつもの冷静さを一瞬で取り戻した。
「まあ、隠すほどのもんでもねぇけど……言わねぇ方が争いは生まれねぇだろうな」
コールは誰かが口を滑らせないように間髪入れずに返答する。
「マルトンさん、一つ質問があるんですけど……」
「なんでもお答えしますとも!」
「巫女様に……会ったことがありますか?」
「はい。商団の副長として、何度か。しかし──」
「しかし……?」
「三ヶ月ほど前から、巫女様はお顔を隠すようになられまして。
謁見も大幅に減り、体調を心配する声が街で広がっているのです」
「そんなことが……」
「皆さん、巫女様に興味がおありで?」
「ええ。僕たちは“人間の少女がいる”という噂を聞いて……その人物に会うために来たんです」
「マルトンさん。何とかぼくたちが……巫女様と会えるように協力してくれませんか?」
ショウが頭を下げた瞬間、マルトンは慌てて止めに入った。
「ショウ様! どうか頭をお上げください!
私もそうしたいのは山々ですが……それは叶わぬ相談なのです」
「どうして……?」
「近々、この街で巫女様の“降臨祭”が開催されます。
この時期、聖堂の警備はとても厳しく……我々商団でも、まともに取り合ってはもらえません。
聖堂の関係者か、それに近しいものでなければ、中へ入ることすら……」
「……そうだったんですね。無理を言ってすみません」
「謝らないでください! 我々が“聖堂に出入りできる方”をご紹介できれば──あっ!」
「……どうかしたんですか?」
「可能性は低い。しかし……この方法なら、道が開けるかもしれません」
「それは……?」
マルトンの目が、ぎらりと輝く。
「“聖歌隊ルミナ・クワイア”の皆様を頼ります!」
ルミナLoveのハチマキを締め直し、拳を握りしめる。
その瞳は本気で燃えていた。
◆◆◆
聖街から遠く離れた荒野と森の境目。
巨大ヘリが轟音を響かせながら進む。
「ねぇねぇ、ショウくん喜ぶかな? サプライズってワクワクするね!」
「……“正妻”の私が行くなら……間違いなく喜ぶ」
「まだそんなこと言ってるの? 第一、ショウくんには約束だって──」
「……心で通じ合ってる……言葉はいらない……。
全てが終わった時……ショウは私の元へ帰ってくる……」
「ふーん…それにしても、司令官は来れなくて残念だったね。あの悔しがり方……写真撮って見せつけてあげよっかな」
「……むしろ来なくて正解……来たら任務どころじゃなくなる……」
「それもそうだね! 任務をちゃんとこなして、ついでにショウのお手伝いもしちゃおう!」
「……当然……なんならそっちがメイン……」
なびくマフラー。
テンガロンハットを指でクイッと上げる仕草。
二人の人機は目的地を見据えながら、待ち人の姿を思い浮かべていた。




