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第六十話「修理の前に観光を」


朝。

ショウはベッドから軽快に起き上がり、大きく伸びをした。


「よし、みんなのところへ行こう!」


階段を降りると、すぐ下のテーブルで何やら話しているコールたちの姿があった。


「ショウ! もう大丈夫なの??」


「……うん。もう大丈夫。心配かけて……ごめんね……?」


「そんなの気にしないで!」

シンは左手を腰に当て、胸を張って右手でグッドのサインを作る。


ショウはコールへ向き直る。


「……コールもありがとう。デヘンさんのことには整理をつけたよ。

死んでいったみんなの想いは、無駄にしないって決めたんだ」


その目を正面から受け止め、コールはフっと笑う。


「おう……いい眼になったな」


ショウはふと思い出して首を傾げた。


「そういえば、この宿はどうしたの? 沼地から逃げた後のこと、全然知らないんだけど」


「そうだったな……。この街に着いたとき、事情を警備の奴らに急いで話して、すぐ休める場所を探したんだが……見つからなくてよ」


「そしたらある人に出会ったんだ!」 シンが勢いよく割って入る。


「……ある人?」


◆◆◆


「くそっ! やっぱり人機に休息なんて必要ねぇから、休める場所なんてどこにもねぇぞ!!」


「少しでもショウを安全でゆっくり休める場所に寝かしてあげたいのに……」


「どうするの? 空き地にテントでも張る?」


「いや、街でテントを建てるにも許可がいるんだ。許可もすぐ下りるわけじゃねぇし……」


「じゃあどうすれば……」


「……あのぉ……もしもし……?」


「なんかいい案ないのっ!」


「今考えてんだよ!」


「もしもーし」


「ったくイライラするぜ……」


「イライラするのはこっちよっ! いいから早く考えてよね!?」


「……あれ?」


「なんだよ偉そうに! そんなに言うならお前が考えりゃいいだろ!」


「なによっ! なんでアタシが考えなきゃいけないわけ!? だいたいアンタたちが――」


「もしも〜〜しっ」


「五月蠅いっ!!!」


拳としっぽが、横でウロチョロしていた人機の頭に振り下ろされる。


ゴシャッ!


「お久しぶりです」


「誰よアンタ?」


「ん? お前は……」


「それより手を退けてあげよう!? ねぇ!?」


「先日、森で助けていただいたコロンブス商団のマルトンです」


「ああ! やっぱりお前か! 無事街に戻れたみてぇだな」


「おかげさまで、あの後全員無傷で戻りました。それより……お困りのご様子。私でよければお手伝い致しますが?」


「そいつはありがてぇ……実はな――」


◆◆◆


「――というわけで、マルトンが商団の力を使って、ここを貸切の宿屋にしてくれたんだぜ?」


「まさか聖街にマルトンさんが居るなんて……こんな偶然、あるんだね」


「ホントだよ! 彼には感謝してもしきれないよ!!」


「それはこちらのセリフですよ」


振り向くと、部屋の入口にマルトンが立っていた。


「マルトンさん!」


「感謝してもしきれないのは我々商団の方です。皆さんが助けてくれなければ、私たちは今も森を彷徨っていたでしょう。

どうか聖街で、ゆっくり休んでいってください」


「ありがとうございます!」


「……その、よろしければ森で別れてからのことをお聞きしても?」


「構いませんよ」


シンは沼地での戦い、アルボリアでの出来事、サディスの改造実験までを語った。


「サディスはそんな狂った実験を……。改めて、皆さんに救っていただいたことを心より感謝します!」 マルトンは深く頭を下げた。


「いえいえ! 頭を上げてください! 助けたのも偶然みたいなものですし!」


「ご謙遜を……もしあなた方でなければ破壊されていた可能性だってある。

私たちが改造されていた可能性だって……」


マルトンは身震いした。


「とにかく皆さんは我々コロンブス商団の大恩人。必要な物があれば何でも言ってください!

世界最高峰の商団が、必ずご希望の物をご用意します!」


「……じゃあ、出来ればでいいんですけど……人機のリペアをしたいので、材料を用意していただけますか?」


「お易い御用です。すぐに準備に取り掛かります!」


指示を出す彼の姿は、まさに仕事のできるキャリアマンだった。


「では工房にご案内します。

向かいながら街をゆっくり見て行きましょうか、

ショウ様はまだ街を見ていませんし、道中いろいろ紹介いたします。

着く頃には準備も完了しているでしょう」


「ぜひお願いします!」

ショウは勢いよく立ち上がる。


「その前にショウ、街に出る時はコレを着てくれ」 コールが白いフードの服を渡す。


「……これは?」


「この街は“人間の少女”を巫女として崇拝してる。同じ人間であるショウが堂々と出て行けば……

どうなるか、分かるだろ?」


「……確かに。姿を見せないほうがいいね」


「幸い、白いフードが信者の正装らしいから目立たねぇよ」


「うん! ちょっと待ってて! すぐ着替える!」 ショウは二階へ駆け上がり、白いローブに着替えて戻ってきた。


「似合ってるじゃない?

サイズも問題なさそうね!」


「セレナにも着てほしいわ〜!」

コメットがセレナの背でワキワキしている。


「はいはい、ママを直してからね? おんぶのままじゃ着れないわよ」


「じゃあやっぱりおんぶのままでいいわぁ〜」


「ショウ、さっさと行くわよ! 早くママを降ろしたいの!」


「至福の時間がぁ〜!」


「ではご案内いたします」


◆◆◆


一行はマルトンの案内で街を歩いた。


「わぁ〜……ここがセクリプレス!」


建物はすべて真っ白。

そこにカラフルな絵の具で控えめに絵が描かれ、屋根と窓は真っ青。

まるで地中海のギリシャ・サントリーニ島のようだった。


「凄く綺麗ですね!」


「でしょう? この街はゼウス暴走前から存在していましたが、機械軍に一度も攻められなかった“奇跡の街”なんです」


「マジかよ!? でも暴走直後、遠隔制御された機械とかは暴れたんじゃ?」


「いえ、一体も」


「えっ」


マルトンは続ける。


「この街は景観を守るため、便利すぎる最新機械を避け、不便でも“オフライン機械”を使っていました。ただ限界があったので、住人と同じ数だけ最新鋭の機械を導入していたんです」


「……なるほど」


「ん? どういうこと?」


「住人と同じ数だけってことは――街にある機械すべてに、人の意識が移ったってこと。

機械軍は“人の意識が入っていない機械”しか遠隔制御できないんだ」


「へぇ〜……だからこの街には被害がなかったんだね」


「さぁ、まだまだ案内しますよ!」


「はい!――あれ?」


ショウが耳を澄ませる。


「……みんな。何か聞こえない?」


「ん? 何かって?」


よく聞くと――確かに声が。


「……歌……?」


マルトンは微笑んだ。


「流石ですショウ様。これは聖街セクリプレスの誇る聖歌隊――

ルミナ・クワイア の歌声です」


「……聖歌隊……?」


広場へ出た瞬間、空気が熱狂で震えた。


荘厳な静けさなどなく、ただただ歓声が飛び交う。


好きだ!

愛してる!

可愛い!


褒め言葉のマシンガンが止まらない。


ステージの上には煌びやかな衣装をまとった、美しくそして可愛らしい人機たち。


歌い、踊り、観客の心を鷲掴みにしていた。


「みんな〜! 今日も来てくれてありがとう!」


「今日は新曲よ!」


「聴いてください!」


「ルミナ・クワイアで――」


『ルミナス♡フェスティバル』


歓声は最高潮へと達した。


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