第五十六話「増援」
第五十六話「増援」
「岩場までは戻ってこれたね」
「思ったより成体の水竜がデカくなくて助かったぜ。お陰でここまで戻って来れた」
「これからどうする?」
「まずは水竜たちを安全な場所へ移動させよう。セレナ! 機械軍の増援はどの辺りにいたの?」
「目測だけど洞穴から北西五キロ地点だったわ。あの進行速度なら今はもう洞穴へ到着している頃よ」
「わかった。なら水竜たちが逃げるための時間稼ぎに、ここで奴らを迎え撃とう」
「逃がす水竜たちにはキツイかもしれねぇけどホバーを運んでもらおうぜ」
「大変だと思うけど...それがいいね……お願いできるかな…?」
ショウの声に、水竜たちはホバーの横へ移動して従う。しかしキューイだけが動かず、じっとショウを見つめていた。
「? キューイも運んでくれないかな??」
「キュウ……」
キューイは首を横に振った。
「どうして?」
ショウが近付いて、目線を合わせる。キューイは変わらずショウを真っ直ぐ見つめていた。
「……もしかして…一緒に戦いたいの……?」
「キューン!!」
期待と決意が混じった声で首を縦に振るキューイ。
だがショウはゆっくりと、その気持ちを否定した。
「……ありがとう。気持ちは嬉しいけど、遠慮するよ…」
「キュウ!?」
思っていた答えと違うのか、キューイは大きく目を見開いた。
「聞いて、キューイ? 今回は奴らを倒すのが目的じゃないんだ。何としても君のお父さんとお母さんを安全な場所へ移動させたい……それだけなんだ!」
ショウは胸に手を当て、真剣に告げる。
「そのための時間が稼げれば、僕らもすぐに退避する。それに……せっかく助けた水竜に、キューイを亡くすなんて悲しい思いはしてほしくないしね……」
「キューン…」
キューイは小さく肩を落としたが、ショウの思いをしっかり受け止めたようだった。
「大丈夫…必ずまた会えるよ……」
ショウとキューイはそっと額を重ね合わせた。
名残惜しさを胸に、キューイたちはホバーを引いて東へと去っていく。アンバーはその上空を飛んで見守り、水竜たちの護衛に回った。
「アンバー! 水竜たちをお願いね。戦いの音が聞こえたらサポートのために戻って来てくれる?」
「ワンワンッ!」
アンバーは力強く返事をし、東へ飛び去った。
◆◆◆
「さて、次はコイツだな…」
拘束した機械が情けない声を上げた。
「タスケテクレェ」
「黙ってなさい」
ゴンッ!
「ヘコンダ! ゼッタイヘコンダゾイマノ!! ホリョヲダイジニアツカエ! ジュネーブジョーヤクヲシラナイノカ!?」
「こっちは動いてればいいのよ?」
「というかそれ機械には適応しないだろ……」
「アンタに人権は無いのよ。大人しく知っていることを吐きなさいっ!」
「フッフッフッ」
「何がおかしいの??」
「オマエラハオワリダ」
「どうしてそう思う?」
「ワレワレガゾウエンヲタノミ、ホンブハソレヲリョウショウシタ」
「それがなんだ?」
「ナニモワカッテイナイ…ホンブノオウエンハカナラズ“テキニンキ”ガムカワサレルンダ」
「適任機?」
「クックックッ……ココハヌマチ、カナラズアノカタ…“ナーガ”サマガオコシニナル……」
「…ナーガ……様?」
ショウの瞳が揺れる。
「そんなことはどうでもいい! どうして水竜を攫ったんだ! 答えろッ!!」
「……ワレワレハスイリュウノチガヒツヨウダッタ」
「それはなぜだ!」
「スイリュウノチガニンゲッーーッッ!!?」
突然、機械の動作が乱れた。
「ナゼッ! コレガウラギリナノカ!? ヤメテクレ!!」
「おい! どうした!? 答えろ!!!」
「イヤダイヤダイヤダイヤダァァァアアア!!!」
激しくのたうち回り、痙攣し――最後にはコアが粉砕された。
「セイ…ゼイ……クルシムガイイ……ウィルスドモ………」
「おい! どうした! なんとか言えっ!!」
「……ショウ…コイツはもう……」
セレナの静かな声がショウの言葉を止めた。
「まだ何も聞けてないのに…」
「……とにかく奴らを迎え撃つ準備を進めよう」
ショウは悔しさを噛みしめながらも顔を上げる。
「ショウ殿、時間稼ぎの詳細とは如何に?」
「まずコメットさんは、さっき見せてくれた槍を歩兵の機械を想定した形に変えて設置して下さい」
「すぐに準備するわぁ〜」
「セレナは岩の上で大きな焚き火をたいて! その横で狙撃をお願い!!」
「炎の揺らぎでこっちの視認を避けるのね? 分かったわ」
「コールはピン爆弾を分解して、コメットさんの糸でブービートラップを作成!」
「固定できるとこがてねぇぞ??」
「それはこれから用意する! シンとデヘンさんは周りの葦を根元から刈り取って、地面に敷き詰めて足場の確保をお願い!!」
「了解!」
「拙者に任せるでござる!!」
敵が迫る緊張の中、全員が迅速に持ち場へ散っていった。
◆◆◆
夜。
洞穴から出撃した機械軍が、自爆した仲間の位置データを辿って東へ進行する。
「モウ少シデ目標ニ到達スル」
「熱センサー反応ナシ。巨大ナ岩場ヲ発見」
「自爆シタ機械ノ位置情報ハコノ辺リダ。周辺ヲ捜索シロ」
(ショウ、もう良いんじゃないか? 攻撃するぞ??)
(まだ待って! コメットさんが完璧なタイミングで攻撃を開始してくれるはずだから!!)
(それにしてもなんだアイツら……二足歩行の…ワニ……??)
覗き込む仲間たちが、奇妙な敵の姿にざわつく。
(コイツらが沼地の適任機でござるか……ワニは確かに沼にもいるでござろうが、二足歩行では折角の長所も活かせぬのでーー)
デヘンが甘く考えていると、さらに後続が現れた。
そちらは四足獣のように素早く移動し、停止すると二足歩行に変形する。
(これはまた厄介そうな敵ね……)
(大丈夫。敵は三十体で想定より多いけど、こっちも準備は満タンだから。作戦通り行けば時間は稼げるはずだよ!)
そして――
敵が自爆した機械を発見した瞬間、罠が動いた。
「ム? アレジャナイッーーガッ!?」
赤い槍が数体をまとめて吹き飛ばす。
「何事ダ!?」
「敵シュッーー」
ボガンッ!
足元の罠が爆ぜ、鰐機械たちが次々と崩れ落ちる。
「攻撃ヲ受ケテイル! ドコカラッーーガッ」
ボボンッ!
混乱し、後退し、さらに罠にかかって爆ぜる。
三十体いた部隊は、わずか十体にまで減らされていた。
「みんな今よっ!」
合図とともに、葦が敷かれた地面が開き――
沼の中からコメットが飛び立つ!
続いてコール、シン、デヘンが銃や砲を構え、沼から跳び上がった。
「おっしゃ喰らいやがれぇ!」
「うぉぉぉぉ!!」
「砕けなさい!」
「一網打尽でござる!!」
「二足歩行ハ危険ダ! 全員、獣ノ体勢デ戦闘セヨ!」
敵は獣形態に変形し迎撃に転じるが――
「私に任せなさい?」
上空から紅修羅が降下し、六本の紅い雨が地面を抉る。
「ゴガッ」
鰐を急所ごと貫き、沈黙させた。
「標本にするには頭に槍が刺さって不恰好ね?」
「スゲェ……」
「ウィルス体ヒトツ排除ッ」
ぼんやり見惚れていたコールに、鰐が飛びかかる。
ズダァーンッ!
セレナの一発がその頭を吹き飛ばした。
「コール? 余所見してないで集中して??」
「すまねぇセレナ、助かったぜ…」
「お礼はいいから戦って」
『ブレードッッ!!』
シンが機械の首を断ち切り、再び静寂が訪れる――
かと思われたが、まだ一体残っていた。
「グッ………クソッ……!」
「残念だったわね? ワニさん??」
「足止めどころか全滅させちまうとは……中々いい作戦だぜ、全く…」
「流石だよショウッ!」
「いや〜それほどでもないよ〜」
コメットが残敵を掴み上げる。
「念の為最後まで倒さなかったけれど、このワニもまた情報を吐かせるのかしら??」
「ありがとうございます、コメットさん!」
しかし、そのとき――
「何モ吐クモノカ。オ前タチハ勘違イシテイル。我々機鰐兵ハ、“ナーガ様”ノ眼、戦闘用デハナイ……戦ウノハ“ナーガ様”ダケデジュウブッーーガッ」
突然、影が横から襲いかかった。
「グアァッ!?」
「何よコイツッッ!!」
二回りも大きい鰐型機が、コメットの目の前に現れ、掴んでいた機鰐兵ごとその顎に挟み込む。
「申シ訳アリマッーー」
ガリガリッ ブチッ!!
鋼鉄すら噛み切る顎で、部下を粉砕した。
同時にコメットの下半身も奪われる。
「ナァァアア!!」
「ママッ!!!」
巨大な鰐の背から、ロングヘアを揺らす女性型アンドロイドの上半身がゆっくりと姿を現す。
「私の名前は“ナーガ=ギアロス”。ベレムナイト様から鋼鰐獣の名前を賜った者よ」
冷たい笑みと共に――
脅威が、ついに姿を現した。




