第五十四話「捜索」
「ふぅ……これでよしっと」
「これなら何とか沼を歩けそうだな」
作業を終えたショウとコールが立ち上がる。
アンバーと水竜以外の全員の足が、かすかに地面から浮いていた。
「まぁ、ホバーの浮遊パーツを足に着けただけなんだけどね。これじゃホバーを置いていくことになるから、このまま街には向かいたくないけど」
「安心しろ。今回は“水竜の親捜索”が目的だ。無事終わればここに戻る」
「そうだよ、ショウ! まずはこの子の親たちを助けてあげよう?」
「うん! すぐ戻ってくれば問題ないよね!」
その一方で、コメットはまだ不安げだった。
「……でも、故障した機械にセレナを預けるのは不安だわぁ〜」
「それなら安心してください、コメットさん!
ホバーは動力が壊れただけなので、他のパーツは無傷でした。外部から破壊されない限り、これ以上壊れる可能性は低いんです!」
「……でもねぇ……」
「じゃあ故障を検知して、『条件磁石』が作動するようにします!」
「……それをしたらどうなるの?」
「すぐにコメットさんの背中にくっつきます!」
「それでお願いするわ!!!」
「即答!? え、いいの!?」
「セレナに聞こえたら反対すんじゃねぇか?」
「大丈夫。今アンバーたちと遊んでるから」
ショウが指差した先では――
水竜の首を滑り台にしてセレナがきゃっきゃと遊んでおり、デヘンが必死で追いかけていた。
「あははっ! すごいすごい!!」
「お嬢〜っ! お気をつけ下されぇ!!」
「……あれなら聞こえてないな」
「ショウ? 早くその磁石をつけてくれないかしら〜?」
「はっ、はいっ! すぐにでも!」
ショウが部品を取りにホバーへ駆け寄ろうとしたとき、シンが彼の肩を押さえ、小声で耳打ちしてきた。
(ショウ、本当にそんな機能つけられるの……?)
(……実は無理なんだ……)
「!? ちょっ、それ大丈夫なの!?
もし浮遊がとけてセレナが沼に落ちたら……!」
「それは大丈夫! 異常がないことは確認したし、いざというときの“保険”もつけておくから!」
「保険……?」
その瞬間、セレナがこちらに気づいた。
「ショウっ! ねぇねぇ、この子に名前つけてあげない?」
「……確かにいつまでも“水竜”じゃ不便でござる」
「それもそうだね。うーん……」
「キュウ?」
キューイが首をかしげる。
一同が考え込む中、ショウがぽつりとつぶやいた。
「……キューイ……」
全員が顔を上げた。
「あっ、いや……鳴き声の“キュー”と水竜の“スイ”を合わせて……その……」
ショウは照れたが、その名はすぐに受け入れられた。
「いいじゃない!」
「僕も賛成だよ」
「キューン!」
「本人(?)も気に入ったみてぇだな」
「アオーン!」
「素晴らしい名でござる!」
「私はセレナがいいと思うわ〜」
「ママは黙ってて」
「は〜い!」
「じゃあ……こいつの名前はキューイだ。よろしくな、キューイ?」
「キューン! キューン!」
キューイは水面を喜び跳ね、アンバーも楽しげに空を舞った。
「よし! 準備も整ったことだ。そろそろ捜索に出るとしようぜぇ」
コールの声が号令となり、一行は昼過ぎの沼地へ歩を進めた。
◆◆◆
葦が両側で高く揺れる中、ホバーの浮遊パーツで足元を水面から浮かせながら進む。
「キューイの親は恐らくもっとデカい。その巨体が通った場所なら痕跡も残る。まずは沼地でも広い箇所を探す」
「キューイ、どこではぐれたか覚えてないの?」
ショウが聞くと、キューイはしゅんと首を振った。
「キュウ……」
「無理もないさ。ここは同じ景色ばっかだ」
「道幅だけでは方向までは絞れぬ……広すぎてしらみ潰しは骨が折れるでござるな」
「それもそうだよな……」
「貴方たち何をそんなに悩んでいるの?
アンバーに乗って空から見ればいいじゃない??」
「!!」
「……そうか、その手があったか……!」
「さすがです! コメットさん!!」
「当然よぉ」
「ママ、ナイスよ!」
「むしゅめの褒め言葉しゃいこぉぉぉぉ!!!」
「やっぱ褒め係はセレナだな」
「じゃあ早速、アンバー! 空へ飛び立つわよっ!!」
「アオーン!!」
アンバーは大きく羽ばたき、セレナを乗せて空へ舞い上がった。
「娘の危険行為さいあくぅぅぅ!!」
「コメットさん、空は飛べませんからね!? 信じて待ちましょう!!」
「しんばぃぃぃ……!」
◆◆◆
空からの視界は壮大だった。
「うわぁ……こんなに高いところ初めて!
アルボリアの街が火事のせいで丸見えね……」
セレナはスコープを取り出し、景色を次々と見ていく。
「あっ、あの滝、研究所の近くのやつね!
あっちの荒野はウィル・フライトやフェムニカにつながってて……」
反対側を見渡すと一層驚いた。
「ええ!? セクリプレスってこんな近かったの!?
沼地抜けたらすぐじゃない!
はぁ……世界ってこんなに広いんだ……
海の向こうに真っ白な山まであるし……高い建物がたくさん集まってるの街も……全部行ってみたいわ……!」
セレナが感動していると、アンバーが控えめに鳴いた。
「ワンッ」
「あ、ごめんアンバー! 捜索だって忘れてたわ。もっと低くお願い!」
アンバーが高度を下げると、沼全体が見渡せる高さへ戻った。
「えっと……あっ! あそこの水面、すごく広い!
アンバー、あっちお願い!」
「ワンワン!」
大きく開けた水面へ向かい――
「あそこならキューイの親が通ったとしても不自然じゃないわね。……あら? あれ、洞窟……?
でも奥行きがない……入口が……格子?」
スコープを覗いたセレナの表情が凍りつく。
「……いた。
えっ……周りにいるの……何で……こんなところに……!?」
「ワウ?」
「アンバー! 急いで戻るの! みんなに知らせなきゃ!!」
◆◆◆
一方その頃、地上では――
「よし、私なら行けるはずよ……!」
「いや待ってコメットさん! それ、ただ跳ぶだけでいずれ落ちますから!」
「もう五分もセレナが戻らないのよ!?
絶対何かあったに違いないわ!! 大丈夫、すぐ戻るから!!」
「何が大丈夫でござるかぁぁ!!?」
「抑えろーっ!!」
シン・コール・デヘンの三人がかりで、槍とロープで繋がれたコメットを全力で押さえ込んでいた。
「みんな! もう少し踏ん張って!」
「うぉぉぉぉ!!」
「はぁぁああ!!」
「ぬぬぬぬぬ!!」
「みんな〜!! 一大事よ〜!!」
「来たっ!」
「セレナァァァアアアッ!!!
どりゃぁぁぁああ!!」
『ぬぁぁぁぁぁ!!』
娘の声を聞いた瞬間、コメットが底力で三人を吹き飛ばした。
「見たかオラァァァ!!」
「つ……強ぇ……」
「セレナ、おかえり! どうだった?」
息を飲む一行へ、セレナは告げた。
「……悪い知らせよ。
キューイの親は――機械軍に捕まっているみたいなの……」
「!?」
その言葉に、全員の表情が強張った。




